サイエンス

「成人の脳は新しいニューロンを生み出すか?」をテーマに発表された2つの論文が矛盾する結果を示し議論を巻き起こす


「成人の脳が新しいニューロンを増大させるか?」をテーマとし同時期に発表された2つの論文が、同じアプローチを採用して研究されていたにも関わらず、全く逆の結論を示したことで議論を巻き起こしています。

Human hippocampal neurogenesis drops sharply in children to undetectable levels in adults | Nature
https://www.nature.com/articles/nature25975

Human Hippocampal Neurogenesis Persists throughout Aging: Cell Stem Cell
http://www.cell.com/cell-stem-cell/fulltext/S1934-5909(18)30121-8

Do adult human brains renew their neurons? - Neuroscience
https://www.economist.com/news/science-and-technology/21740397-one-paper-says-yes-another-says-no-do-adult-human-brains-renew-their-neurons

神経科学者は、1世紀以上にわたって、脳が出生直後に全てのニューロンを獲得するものと考えていました。しかし、過去20年間の研究では、人間を含むいくつかの種において、成人であっても新しいニューロンが生成されることが示されています。ただし、これまで示された内容は、あくまでも理論的な説明であり、実証が行われていませんでした。このため、ニューロンがどのように生成されるかを知ることができれば、「加齢」「神経変性疾患」「うつ病」などによる認知機能低下への新しい治療法の発見につながる可能性があります。


今回、矛盾する結果を示した2つの論文は、免疫染色と呼ばれる技術を用いて、脳のサンプルを調査しています。カリフォルニア大学サンフランシスコ校のアルトゥーロ・アルバレスブイヤ博士とショーン・ソーレス博士は2018年3月15日に発表した論文で「成人では神経発生がめったに起こることはない」と主張しています。一方で、コロンビア大学のモーラ・ボルドリーニ博士とルネー・ヘン博士らが2018年4月5日に発表した論文では、神経発生は成人期を通じて持続して起こるという真逆の内容が主張されています。

免疫染色は特定のタンパク質に結合し、特定の色で蛍光する抗体を使用します。両研究チームは、新しい神経細胞の中に多く存在するダブルコルチン(DCX)とPSA-NCAMという2つのタンパク質に着目しました。両研究チームは、これらのタンパク質が、脳の海馬で新しいニューロンの生成を補助していることを確認しています。

By Jason Snyder

アルバレスブイヤ博士とソーレス博士は、若い神経細胞の指標としてDCXとPSA-NCAMを使用し、出生前および乳児の脳における神経発生を図示することで、神経細胞が生後1年で急激に減少することを示しています。また、脳の海馬で発生した最後の神経発生は13歳であったとのことで、これは「成人の脳は新しいニューロンを生成しない」という、過去の考え方を裏付けるものになっています。しかし、ボルドリーニ氏とヘン氏は79歳まで、若い神経細胞の兆候があったことを示しています。

2つの研究結果が発表されることで、「両研究チームは同じアプローチを採用したにもかかわらず、なぜ矛盾した結果を導き出したのか」ということが議論されることとなりました。この違いを生み出した原因の1つとして、アルバレスブイヤ博士とソーレス博士らが使用していたサンプルは死後48時間までのものだったのに対し、ボルドリーニ博士とヘン博士が使用したサンプルは死後26時間までのものだったことが挙げられています。ラットの研究によると、DCXは死後数時間以内で分解されることが示唆されており、この違いが異なる結果を示した可能性を指摘されています。

また、両研究チームは免疫染色を使用していますが、その調査方法が異なることを指摘されています。ボルドリーニ博士とヘン博士らの研究チームの場合、調査対象が10代の若者と大人のみでした。このため、アルバレスブイヤ博士とソーレス博士が確認した「生後1年で大きく減少する」という変化を確認することができなかったことが、異なった結論が導き出された原因になったと考えられています。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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