デザイン

膨大な種類の漢字を網羅する中国語フォントを作成する方法とは?

by Fabian Reus

現在、私たちが見る文字の多くは手書きの文字ではなく、紙に印刷されたりコンピューターの画面に表示されたりする書体データの「フォント」です。フォントにはそれぞれ違う雰囲気を持った数多くの種類が存在しますが、数十種類の大文字と小文字で構成されるアルファベットなどのフォントと違い、最大で何万もの漢字を必要とする「中国語フォント」の作成には、多くの人々の並々ならぬ熱意が込められています。

The long, incredibly tortuous, and fascinating process of creating a Chinese font — Quartz
https://qz.com/522079/the-long-incredibly-tortuous-and-fascinating-process-of-creating-a-chinese-font/

漢字の歴史は紀元前16~11世紀の古代中国にまでさかのぼります。古代中国の王たちは自らの行動を決める時に、動物の骨やカメの甲羅に入ったひび割れの形で、思い浮かんだ行動がよいか悪いかを判断する占いを行っていました。占いの結果は骨や甲羅に刻みつけられ、現在では「甲骨文字」として知られています。


それ以来漢字の形は何度かの変遷を遂げてきましたが、紀元前2世紀ごろに起こった秦王朝の時代に複数の中国語が統一され、一定の書式が定められたとのこと。その後長らく中国語の書き方には大きな変化が見られず、次に大きな変革が起きたのは中華人民共和国の統治下で「簡体字」が制定された1950年代となります。これにより中国語の文章体系は大きく簡素化されました。

そして近年では、文字の書体データであるフォントとして中国語の文字を記録する必要が出てきていますが、中国語のフォント作りには大きな問題点があります。1つ1つの意味を持った漢字の並びで文章を作り上げる中国語のフォントは、英語やフランス語といった限られた字数の文字を繰り返す言語と比べると、必要になるフォントの文字数が膨大なものになってしまうのです。例えば、新聞の内容を理解するためには平均で2000の漢字を知っている必要があり、小説を読もうとしたらさらに1000の漢字を知っていなければならず、フォントはそれ以上の字数を必要とします。

中国で使われる漢字の包括的な辞典である「中国字海」の収録漢字数は85568文字であるものの、さすがにほとんどの漢字は古代仏教や書道の世界に足を踏み入れない限りは、めったに遭遇するものではありません。しかし、中国語の文字システムは規模が大きすぎることは明らかであり、なかなか新たなフォントの開発が進まないのが現状です。中国語のフォントは現在ではほとんど使われていないラテン文字のフォントよりも、種類が少ないのだそうです。


チェコのフォント制作会社ロゼット・タイプでチーフフォントデザイナーを務めるデビッド・ブレジナさんは、「中国語のフォント制作は狂っている」と話します。フォント制作の単位となる「グリフ」とは、小文字、大文字、記号など1つ1つの形を「1」と数えます。一般的な英語フォントのデフォルト設定で必要なグリフの数は230、全てのラテン文字を網羅するフォントで840ですが、中国本土で使われている簡略化された漢字のフォントのグリフは、なんと7000にもおよぶとのこと。台湾や香港で使われている繁体字も含めると、必要なグリフの数は1万3000以上になってしまうそうです。

一般的に、経験豊富なデザイナーが1人いれば6カ月以内に数十のヨーロッパ言語を記述可能なフォントを制作できますが、中国語のフォントを作ろうとした場合、少なくとも2年以上の歳月をかけて複数のデザイナーが協力する必要があります。

台湾のフォント制作スタートアップJustFontの共同設立者であるウィンストン・スー氏は、「フォント作りは研究から始まります」と述べています。フォント作りの第一段階として、ラテン語系のフォントでは大文字のH、O、V、小文字のn、o、dといった代表的な文字を作るところから、作るフォントのイメージを固めていく作業が行われるとのこと。中国語のフォントではイメージ固めだけでも数百の主要な漢字を作る必要があります。さらに、膨大なフォントを1人のデザイナーがすべて担当することは不可能なので、フォントを構成する概念をチームメンバー全員で共有し、そこから統一的なフォント作りに入っていかなければなりません。


ラテン系フォントには線の端に飾りの部分がある「セリフ」系書体と、飾りのない「サンセリフ」系の書体が存在しますが、中国語にもゴシック体と明朝体という2系統の書体が存在します。

ゴシック体はサンセリフのように、線の端に飾りが存在せず、きれいな直線を描いています。一方、明朝体はセリフと似て線の端に飾りの部分が存在していますが、セリフよりも多くの部分で装飾が施されているため、さらに手書きのような雰囲気が漂っているように感じられるとのこと。


ゴシック体か明朝体か、おおよそどちらの方向性でフォントを作成するかを決めた後は、市場がどのようなフォントを求めているのかを調査した上で、デザイナーは実際のフォントをスケッチで描き始めます。代表的な漢字を一通りデザインするだけでも大変な労力が必要であり、中でも「永」という漢字はとめ、はね、はらいといった主要な漢字の要素が一字に詰め込まれた重要な漢字とされているため、デザイナーは神経を注いでデザインします。


中国語のフォント作成において最も大変な点が、「漢字の個々の部分を使い回すことができない」という点です。漢字の多くは一定の部首やつくりの並びによって表すことができますが、漢字のパーツを単に組み合わせただけではきれいなフォントを作成することはできません。スー氏は「全ての漢字は微妙なバランスを調整する必要があり、1つ1つの漢字には独自のデザインが必要になります」と述べています。

たとえば、同じ「言偏(ごんべん)」を使う漢字でも、字によって「言」の形や線の太さが微妙に異なってきます。中国人のユーザーは微妙なバランスの違和感にすぐに気づくため、大量のパーツを自動で組み合わせるという方法で作り出したフォントでは、満足してもらえないとのこと。


フォント制作の初期段階では「このフォントは線の性格をこのように統一して、点の雰囲気はこうしよう」と決めたとしても、個々の漢字によって変更を余儀なくされることもしばしばで、常に前提条件は変更され続けていくものだとのこと。

フォントデザイナーがデザインしたグリフに対してさまざまな検討を重ねた結果、最初のデザインの変更点がデザイナーに赤字で修正されて伝えられます。 台湾のフォント制作会社Arphic Technologyのデザイナーであるグェン・イェー氏は、大量の赤字で直されたフォント案を見たときに「震えた」と語っています。

デザイナーは1個1個の文字にのみ集中するのではなく、その文字が文章の中で実際に使われて他の文字と並んだ時にどう見えるのか、フォント全体としての見栄えも気にする必要が出てきます。度重なる修正を乗り越えてデザインが固まってくるにつれて、デザイナーたちは次第にフォントの制作スピードが上がってくるのだそうです。


中国語フォントの需要は中国のインターネットユーザーが増加するに従って確実に増えており、JustFontが新フォントを作成する時に行ったクラウドファンディングでは、目標の4万5000ドル(約480万円)に対して16倍の72万ドル(約7700万円)が集まったとのこと。中国のユーザーはフォントに対してお金を払うことに肯定的であり、お金を払ってでも個性のあるフォントを求めているのです。

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in デザイン, Posted by log1h_ik

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