コラム

中国語の学習には繁体字も簡体字も欠かすことができない


「日本人」という役割を長く務めれば務めるほど、いつも使っている漢字に疑問を抱かなくなります。だって、私たちはその道の「プロ」で、息をするように漢字を使うからです。でも、その漢字に中国語の要素を取り入れると、これまでの常識が一変します。漢字の世界は拡張が可能でした。

こんにちは、自転車で世界一周をした周藤卓也@チャリダーマンです。30歳を過ぎてから実感する脳細胞の衰え。若い頃には気付きませんが、残念ながら仕様のようです。あの頃にはもう戻れません。そんな悲しい運命に少しでも逆らいたくて、最近、中国語の漢字の発音である「ピンイン(拼音)」の習得にハマっております。少しでも脳細胞を働かせるのです。

◆高校中国語


私が通っていた高校では中国語の授業も選択できました。大学のように授業を選択できる単位制の高校でした。これからの世界一周に必要になりそうだったので、もちろん中国語を選択。1年間きちんと授業を受けました。

この授業が中国の簡体字がベースだったので、台湾や香港の繁体字なんて見向きもしませんでした。国土も人口も中国の方が大きいし、後々、必要となるのは簡体字だと思っていました。でも、間違っていました。繁体字を知らないと、簡体字の漢字の意味が掴めません。

◆新字体


その理由は日本語の新字体にあります。戦前の日本の漢字は台湾香港の繁体字と大まかに一致していました。私たちが旧字体と呼ぶ漢字です。旧字体は戦後の漢字改革によって、使用頻度の高い漢字に限り、簡略化された新字体に切り替わります。だから、新字体の漢字は日本オリジナルでした。

例えば「囲」という漢字は、簡体字では「围」となります。似ても似つかぬ字体ですが、繁体字(旧字体)の「圍」を見たら納得。足の速い神様「韋駄天(いだてん)」の韋を簡略化していました。日本の新字体の中には、かなり特殊な変化を遂げた漢字があります。そうした漢字は繁体字(旧字体)を知らないと簡体字の予測が付きません。


以下の記事に書いたように、「伝」という漢字も、繁体字(旧字体)は「傳」、簡体字は「传」でした。

「云々(うんぬん)」を「でんでん」と誤読してしまう漢字の秘密 - GIGAZINE


◆「囲」という漢字


先ほど取り上げた「囲」の繁体字(旧字体)「圍」は中に「韋」が入っています。

・人編で偉人の「偉」
・糸編で緯度の「緯」
・行構えで衛生の「衛」
・しんにょうで相違の「違」
と共通しています。

そういうことから「囲」という漢字は「偉」「緯」「衛」「違」と同じグループとなります。音読みも全部「イ」ですしね。中国語(普通話)では全て「wei」というピンインです。もっと掘り下げると「イ(い)」ではなく「ヰ(ゐ)」の漢字。

日本の「囲」という漢字の旧字体は「圍」でした。ところが新字体の採用にあたり、韋を画数の少ない井戸の「井(い)」に置き換えます。同じ読みですが、囲は音読みの「イ」、井は訓読みの「い」なので一緒にはできません。井には別に「ショウ」「セイ」という訓読みがあります。


「井」の字は中国語の簡体字の簡略化にも使われています。「進(jin4)」という漢字の簡体字は音の近い「井(jing3)」の字を借りて「进」に、「講(jiang3)」という漢字の簡体字も同じように「讲」となっていました。「井」は「イ」ではなく「セイ」「ショウ」で捉えないと「jing」[jiang」のピンインと結びつきません。

繁体字、簡体字を知ると「囲」に「偉」「緯」「衛」「違」、「井」に「進」「講」と言った漢字が思い浮かぶようになります。

◆暗記ではなく思考
囲という漢字について、熱く語ってしまいました。でも、中国語のピンインを覚えるってこのようなことだと思っています。

これまでは機械的に一字一字ピンインを暗記しようとしていました。でも、それだけでは何の理解も生まれません。最近では一つの漢字があったら、そこからいかに思考を広げていけるかを大切にしています。漢字同士を結びつけ、ネットワークを築いていくと、ピンインを理屈で覚えることができます。そうすると勉強もかなり効率化できます。

ずっと、ただ暗記するやり方でした。


でも、今は思考をからめて覚えていくようにしています。


ちなみに、声調(四声)は未だ手付かず……。

◆3つの字体


そういった理由から中国語の学習には1つの漢字につき日本語、繁体字、簡体字と3つの字形の判別が付くのが理想ということに気づきました。全部で5パターンあります。

日本語:図/繁体字:圖/簡体字:图→三者三様
日本語:作/繁体字:作/簡体字:作→三者同一
日本語:黒/繁体字:黑/簡体字:黑→日本語だけ違う
日本語:痴/繁体字:癡/簡体字:痴→繁体字だけ違う
日本語:義/繁体字:義/簡体字:义→簡体字だけ違う

HDD内の断片化したファイルを整理するデフラグのように、脳内に散らばる漢字を整理しています。三位一体ならぬ三位一字体。義務教育で1通り習った漢字だけど、もう1度、遊べるドン。ドン。

そんなことをしていると、こんな漢字があることに気付きます。

日本語:瀋/繁体字:瀋/簡体字:沈
日本語:沈/繁体字:沉/簡体字:沉

中国(簡体字)では「沈」「沉」は違う漢字でした。

◆漢字ネットワーク
繁体字、簡体字を知ると、ピンインを覚えるための漢字ネットワークが広がります。


・繁体字
「与」という漢字の繁体字は「與」となります。興味の「興」と似た字でした。与えるの意味はもちろん、書き言葉で「~と」いう意味もあります。歌手の「CHAGE and ASKA」さんの繁体字表記は「恰克與飛鳥」です。

また、「誉」という漢字の繁体字は「譽」となります。頭に「與」が含まれています。「与」「誉」が音読みで「ヨ」となるのは、「與」「譽」と繁体字が共通しているからでした。だからピンインも「yu」で共通しています。


・簡体字
「認(ren)」という漢字の簡体字は「认」となります。旁りが画数の少ない同じ音の「人(ren)」となっていました。人は「我是日本人」と高校の授業でも出てきたフレーズ。簡体字「认」を知ることで、繁体字「認」を「ren」と呼べるようになりました。

「極(ji)」という漢字の簡体字は「极」となります。旁りが画数の少ない同じ音の「及(ji)」となっていました。及は知りませんでしたが、中国語のゴミにあたる「垃圾(laji)」という言葉は使っていました。「极」「圾」とは部首違いで同じ発音。簡体字「极」を知ることで、繁体字「極」を「ji」と呼べるようになりました。

◆ツイッターbot
こうした中国語の「繁体字」「簡体字」の覚えるのにオススメのツイッターbotがあります。フォローするだけで、ネットサーフィンをしているにも関わらず、ぐいぐいと語彙力が増えていきます。

名状しがたい旧字体bot
台湾香港で使われている繁体字を覚えるにはこちらをフォローしましょう。

カタカナの「マ」「ム」「ヌ」が入っている乱

【亂】……乱の旧字体 共通:辞⇔辭 《画像》 https://t.co/JFOBCKoT8E

— 名状しがたい旧字体bot (@TKanji_bot)


何だかいかがわしい字体。めっちゃ入っている漢字でした。

【插】……挿の旧字体 《画像》 https://t.co/Yw9JHJf1ck

— 名状しがたい旧字体bot (@TKanji_bot)


犀が辶(みち)を歩くから「遲い」という、とんちが入っていました。新字体の「遅い」では画数の少ない羊になっています。羊も遅い?

【遲】……遅の旧字体 ※之繞+犀(動物のサイ) ※歩くのが遅い動物の代表、サイが之繞にのつてゐます。 ※キンモクセイ、ギンモクセイのモクセイは木犀と書きます。 《画像》 https://t.co/x292JU4AgW

— 名状しがたい旧字体bot (@TKanji_bot)


簡化字bot‏
中国で使われている簡体字を覚えるのにはこちらをフォローしましょう。

日本の新字体と中国の簡体字に何かと共通点が多いのは謎でした。中国より日本の漢字改革の方が早く「中国が日本を参考にしているのでは?」と思ったことも。でも、実際は中国の長い歴史上で常に漢字は簡略化されていました。

関という漢字。

【关】「關」の簡化字。草書・行書をもとにした略体「関」は敦煌写本や宋・元・明代の大衆小説など広く用いられている。さらに簡化を進め、門構を省いた。1G12 pic.twitter.com/stXZzmOhYK

— 簡化字bot (@jianhuazi_bot)


先祖返りしていました。

【网】「網」の簡化字。《説文》に「网,庖犧所結繩以漁。罔,网或从亡。網、网或从糸。」とあるように、「网」が「網」のもとの字で、「亡」「糸」はのちに追加されたものである。この簡化で原字に戻った。1W03 pic.twitter.com/BZhn7Kla3k

— 簡化字bot (@jianhuazi_bot)


「它(人間以外の3人称単数を表すあれ、それ)」は「他(男)」「她(女)」と同じ発音である3人称単数を表す言葉。この它は最近良く聞く「咪咪MIMI(おっぱいの歌)」によく出てきます。

【它】「牠」の選用字。「牠」は「他(佗)」をもとに清代に作られた、「它」と同音同義の字。《第一批異体字整理表》で画数が少ない「它」に統一された。4124 pic.twitter.com/LfvRvjLLpB

— 簡化字bot (@jianhuazi_bot)


知らなかった漢字がタイムラインに流れてくると、メモの代わりにリツイートをしています。

◆今さらですが


中国も台湾も漢字の国なので、日本人でもだいたい意味が分かります。いざとなったら筆談が使えます。実際に旅でも何とかなっていました。でも、そこが落とし穴。向上心がありませんでした。低いレベルで満足して、勉強を疎かにしていました。でも、うすうす気付いていました。私、読めない漢字が多すぎます。

ここ最近の私の中国語熱は、YouTube上の「C-POP(中国語音楽)」ばかり視聴しているのが、一番の理由だったりします。歌詞をもっと聞き取れるようになりたいのです。加えて隣国ですから、これからも中国人観光客の方は日本に来ます。中国語は役に立つはずです。旅の経験もあるので、中国語は伸ばしていかなければと思っております。

日本も漢字の国です。街を歩くと、たくさんの漢字が飛び込んできます。そうした漢字のピンインを当てるのが最近のマイブーム。少しずつですが、覚えていっているので、解読できる漢字が増えていっています。脳内が活性化されます。

私はもっと早く気付くべきでしたが、中国語の勉強をされている方、取捨選択することなく繁体字簡体字、両方覚えることをおすすめします。

(文・写真:周藤卓也@チャリダーマン
自転車世界一周取材中 http://shuutak.com
Twitter @shuutak
Facebookページ https://www.facebook.com/chariderman/
DMM講演依頼 https://kouenirai.dmm.com/speaker/takuya-shuto/)

チャリダーマンは人生を駆けた自転車世界一周を一冊の本にするという夢があります。興味を持っていただける出版社、編集者の方いましたら、ご連絡いただけると幸いです。

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in コラム, Posted by logc_nt

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