「云々(うんぬん)」を「でんでん」と誤読してしまう漢字の秘密


「云々(うんぬん)」は「その他もろもろ」「以下略」のような意味で使われます。この「云(ウン)」と「伝(デン)」という漢字は字形は共通しているので、首相も誤読しました。でも、なぜ2つの漢字の読みは違うのでしょうか。同じ「云」を含む「雲(くも)」という漢字は「ウン」という読みじゃないですか。

こんにちは、いろいろ間違ってばかりの自転車で世界一周をした周藤卓也@チャリダーマンです。まるでその場にいるかのような感覚に陥る「臨場感(リンジョウカン)」という言葉があります。私は長い間、その言葉を「臨揚感(リンヨウカン)」という間違った認識で使っていました。ともかく漢字は文字数が膨大。ただでさえ間違いかねないというのに、戦後のとあるできごとが、わたしたちの漢字をより複雑にしていました。

◆伝という漢字
2017年1月、安倍首相が国会答弁において「訂正云々(ていせいうんぬん)」というべきところを「訂正でんでん」と誤読したとして、インターネットを中心に大きな話題となりました。でも人間、誰だって間違えます。誰か間違うことがあれば「よし、自分も間違っていい」と開き直ることが得策。そんなことより漢字の勉強に繋げましょう。

誤読の原因は「云(ウン)」の字を人編のついた「伝(デン)」と見間違えたと言われています。でも「雲」という漢字は「ウン」と言う読みです。では、どうして「伝」という漢字の読みは違うのでしょう。


その前に漢字の成り立ちについて、少し説明が必要です。漢字の成り立ちは「象形」「指事」「会意」「形声」という4つに分類することができます。既存の漢字の大半を占めるのが、物事の形質を示す「意符」と発音を示す「音符」を合わせる「形声」というパターン。ピコ太郎さんのPPAPのじゃないですが「日」が意符、「青(セイ)」が音符でアァッと2つを合わせて「晴(セイ)」という漢字を作る方法です。同じように「青」を含む漢字は「清」「静」「請」「精」のいずれも音読みで「セイ」です。


「晴」の字は「快晴」「晴天」といった空に関係のある言葉に使います。形声だけでなく意味と意味を重ねる「会意」も含んだ漢字となり、会意形声文字とも呼ばれます。

ですので、「云(ウン)」の字が入った「伝(デン)」もウンという読みでいいはずでした。でも、違います。そうならない理由は「伝」の旧字体にありました。今の字からは想像もつかない字形となっていました。

きっかけは中国語のとある疑問でした。日本では簡体字と呼ばれる中国本土の漢字ですが、かなり簡略化された字形となっています。特に部首がしんにょうである漢字の変化は極端で、「達」は「达」、「還」は「还」のようにずいぶんと思い切って省略しています。画数の少ない同じ読みの漢字を置き換えるパターンが目立っていました。「云」の字もそうです。「运」は「運(ウン)」の簡体字でした。だったら、同じ云を含む「伝」の中国語も気になります。


そう思って、伝の簡体字を調べると「传」という見慣れない漢字が出てきて愕然とします。台湾香港で使われている繁体字だと「傳」でした。繁体字と日本の旧字体はほぼ同じ(ただし微妙な違いもあり)。日本では戦後の漢字改革の結果、新字体が採用となり、「傳」は元字すら想像できない「伝」という字に変化を遂げました。


同様に「云(ウン)」の字の入った「転」の字も、簡体字では「转」、繁体字と旧字体「轉」です。中国語で自転車は「自行車」という表記ですから、自転車で中国を旅していたのに「転」の字の違いに気付きませんでした。


「傅」「轉」も専門家の「専」の字の旧字体である「專」の字が旁(つくり)となっています。ぱっと見では分かりづらいですが旧字体では寸の上が虫のような形となっていました。


「傅」「轉」「專」と音符が共通しているので、「伝(デン)」「転(テン)「専(セン)」とかなり近い読みをしています。

「云」は空にプカプカと浮かぶ「くも」を表した象形文字でした。本来はくもの意味だけでしたが、いつしか「云う」という使われ方もされるようになります。そこで雨かんむりをつけた「雲(くも)」が誕生。「云」「雲」は別字となった訳です。


ところが、中国では簡体字の採用によって「雲」は「云」の漢字に合流。先祖返りを果たしていました。

こちらは、最近フォローさせていただいた「簡化字bot(@jianhuazi_bot)さん」のツイートが参考になります。


ここまで学習したところで、次のニュースが飛び込んできました。

アサヒ、中国大手との飲料合弁を解消、欧州拡大に集中 - 産経ニュース
http://www.sankei.com/economy/news/170630/ecn1706300044-n1.html

この記事に「康師伝」とあって、中国の旅の記憶が蘇ります。カップ麺でお世話になっていたメーカーでした。現地では「康師傳」という表記で伝の字と気づく事はありませんでした。博士の博に似ているので「コウシハク」という認識でした。(画像下に追記あり)


追記:読者の方から「『傳』ではない」という指摘をいただき、調べたところ確かに伝の旧字体「傳」ではなく「(フ)」でした。清朝最後の皇帝「溥儀」の「溥」の部首違いで、つくりの部分の右上に点がついているのがポイント。カップ麺の文字にも、右上の点がついていました。

康师傅控股有限公司
http://www.masterkong.com.cn/

◆同じような事例
以下の漢字も「伝」と同じように、新字体と旧字体で異なった字形をしています。その結果、読みのズレが生じていました。

・「博」「縛」
「伝」の旧字体が「傅」で簡体字が「传」ですから、博多の「博」や捕縛の「縛」も同じ変化と思うでしょう。でも、これがまた違うのです。それぞれ簡体字は「」と「」でした。なぜだろうと漢字を拡大して目を凝らすと、寸の上には「補」「捕」に含まれる「甫」が乗っています。


なぜか日本語では新字体の採用で「専」に置き換わりました。だから「専(セン)」と「博(ハク)」「縛(バク)」では読みが一致しないわけです。博と縛の右上に丶がつくのは「甫」の名残でした。

・「仮」
日本人で珍しい名字を持つ人は多いので、フラワーアーティストの「假屋崎省吾さん」の「假」もそういう漢字だと疑いすらしませんでした。でも実はこの「假」は「仮」の旧字体にあたります。「暇」という字の部首違いでした。

だから「仮」の字は「反」「坂」「販」「版」「飯」といった字と同じ「ハン」という読みをしません。代わりに「暇」と同じ「カ」の読みとなっています。


・「拠」
「チュウチョという漢字が辞書なく書ける」というようなJ-POPのフレーズを借りて質問しますが、「キュウキョ」って漢字が辞書なく書けますか?答えは「急遽」です。「いきなり」「いそいで」と言った意味で使われる言葉。多くの人が「急遽」でしか使わないであろう「遽」の字。実は拠点の「拠」の字と関連した漢字なのです。どちらも「キョ」という読みになります。旧字体では「據」となっていました。


ゆえに根拠の「拠(キョ)」と善処の「処(ショ)」は似た字形でありながら、読みがずれるわけです。

◆まとめ
戦後の漢字改革による旧字体から新字体への切り替えはわたしたちの漢字をより複雑にしていました。旧字体の「傅」が新字体の「伝」とならなければ、「云々」を「でんでん」と呼ぶことも起きなかったでしょう。

漢字の画像はグリフウィキ(GlyphWiki)という漢字字形自由共有サイトを利用させていただきました。

日本の旧字体を知ることは、中国語の勉強にも繋がります。そのまま繁体字の読解に応用できるのはもちろん、簡体字を理解する鍵にもなっていました。30歳をとうに過ぎ、今更感半端ないのですが、これまでに覚えた新字体、繁体字(旧字体)、簡体字という3つの漢字を整理させています。微妙な三角関係に終止符を打つのです。そうやって、また新たなことに気づくこともありました。ここら辺はまた機会がありましたら紹介させてください。

(文・写真:周藤卓也@チャリダーマン
自転車世界一周取材中 http://shuutak.com
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DMM講演依頼 https://kouenirai.dmm.com/speaker/takuya-shuto/


人生を駆けた自転車世界一周を一冊の本にするという夢があります。興味を持っていただける出版社、編集者の方いましたら、ご連絡いただけると幸いです)

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in コラム, Posted by logc_nt