複雑な昆虫の羽の構造を数学的にシミュレートする研究
キチン質でできた膜と翅脈(しみゃく)で構成される「昆虫の羽の模様」は、人間の指紋のように、1つとして同じものが存在しないといわれるほど多様的で複雑なパターンを有しています。ハーバード大学の研究チームは、昆虫の羽のパターンをわずかなパラメータで再現できる数学的モデルを作成し、「昆虫の羽の翅脈がどのようにして形成されるか」についての研究を報告しています。
A simple developmental model recapitulates complex insect wing venation patterns | PNAS
http://www.pnas.org/content/early/2018/09/11/1721248115
Lord of the wings | Harvard John A. Paulson School of Engineering and Applied Sciences
https://www.seas.harvard.edu/content/lord-of-wings
昆虫の羽の構造は、虫の種類によって異なりますが、基本的にはキチン質の薄い膜とそれを支える「翅脈」と呼ばれる太い脈で構成されています。ショウジョウバエやミバエなどの小型昆虫の羽は太い翅脈と膜だけで構成されていて、その模様は左右対称となっています。また、トンボのような大きな昆虫は、太い一次翅脈とその間を走る細い二次翅脈で構成されていて、その羽は数百あるいは数千に区切られています。
by Joi Ito
無限に存在する昆虫の羽のパターンは、古来より科学者を魅了してきました。例えば、ルネサンス期を代表する科学者兼芸術家のレオナルド・ダ・ヴィンチはトンボの羽のスケッチを残しています。また、17世紀のオランダの生物学者であるヤン・スワンメルダムは、とても細かいトンボの羽のパターンをイラストで残しています。ほかにも多くの自然学者が、昆虫の羽の詳細なスケッチや標本をたくさん残していました。
215の異なる種から500匹以上のトンボを採集したキャシー・リー氏は、多くの学者が残したスケッチ・標本、そしてさまざまな参考書や研究書から収集したデータをもとに、昆虫の翅脈のデータベースを作成しました。コロンビア大学で応用数学を研究するリー氏は、トンボの羽の模様に幾何学を結びつけるアイデアを持ち、交差する翅脈で作られるさまざまな多角形の形状を「ドメイン」と名付け、色別化しました。
リー氏の共同研究者であるジョーダン・ホフマン氏は「トンボの羽の複雑な構造をより分かりやすくして、種全体の幾何学的形状を比較できるようにするため、私たちは個々のドメインがどういう形で、どんなドメインと隣り合っているのかを研究しました」と語っています。
さらに、研究チームは、巨大なデータベースと幾何学的分析を元に、太い一次翅脈から細い二次翅脈が拡散するパターンをシミュレートすることに成功しました。以下の画像の上がシミュレートされた翅脈構造で、下が実際のトンボの羽です。2つを見比べてみると、細い二次翅脈によって仕切られたドメインの形が酷似していることがよくわかります。
ハーバード大学のジョン・A・ポールソン工学・応用科学校で准教授を務めるクリストファー・ライクロフト氏は「私たちは昆虫の羽の成長モデルを開発し、実際の生き物に近い模様を再現することに成功しました。このモデルは昆虫の羽の構造や、その他のパターン化された形状の進化の研究に役立ちます」と述べています。
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