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360度の音声を録音可能な高機能マイクはここまで進化している

by Pixabay

近年のVR技術の発達によって、ヘッドマウントディスプレイを使用するVRコンテンツが多く制作されるようになりました。人の視界を360度使用するVRコンテンツでは、音声も360度の立体音響であるほうが魅力的であり、「360度全ての音声を録音できる高機能マイク」の開発を各メーカーがこぞって進めていると報じられています。

Mics that record in "3D" and ambisonics are the next big thing - CDM Create Digital Music
http://cdm.link/2018/09/3d-ambisonic-microphones/

かつて、オーディオがモノラル方式で再生されていた時代には、音を収録するには1本のマイクだけで十分でした。再生装置であるスピーカーが1つしか使われないため、2つ以上のマイクがあっても立体感を表現できないというのがその理由です。オーディオ技術が進化した現代でもこの1マイク収録が使われることはあり、アナウンス収録やオリジナルの音声に翻訳した音声を重ねるボイスオーバーの現場などでは1マイク録音が主流です。

しかし、単一の信号音源のみを入出力するモノラル方式は、360度全ての音の方向を認識できる人間の聴覚からすると物足りなさが残ります。そこで生まれたのが、複数のマイクを使って左右別々の音声信号を録音し、2つのスピーカーで再生するステレオ方式です。ステレオ方式では音を左右方向に配置することで録音が行われた空間を再現することが可能になり、より臨場感のある音場を再現できるようになりました。

ステレオ収録を行う場合には、完全に同じ音響特性を持つ2本のマイクを使って左右の音を収録するのがセオリーですが、時代が進むにつれ多くのマイクメーカーからは、1つの本体に2個セットのマイクを配置することで手軽にステレオ収録が可能な小型マイクが登場しています。

モノラルからステレオへと移り変わってきた録音方式ですが、近年では「3D録音」「サラウンドマイク」「アンビソニックマイク」といった方式が注目を浴びています。これらのマイクもステレオ方式と同様に、音を空間情報と紐付けて録音しようというものですが、ステレオの左右2チャンネル以上の空間情報を取得しようという点が、従来のマイクとは違っているとのこと。

by Daniel Filho

3D録音やアンビソニック録音を実現するためには、「全方向からの音声を録音するために複数のチャンネルを備えたマイクカプセル」と、「録音した音声をソフトウェアによってデコードし、配信フォーマットに合わせてエンコードする技術」が必要です。

この方式で録音された音声は、ソフトウェア上でさまざまな操作を加えて立体音響を編集することが可能であり、単一のマイクカプセルであっても、まるで複数のマイクを使用したかのように動作します。近年では多くのメーカーがこの新たな録音方式に着目し、さまざまな新商品の開発を進めているそうです。


たとえば「AMBEO」は、ドイツの音響機器メーカーであるゼンハイザー製のアンビソニックマイクです。2017年に登場したAMBEOの価格は1650ドル(約18万5000円)で、ゼンハイザーにおけるアンビソニックマイクのフラッグシップモデルとなっています。

AMBEOでは360度の音を録音するための4つのマイクが1つのカプセルに格納されており、特定のエンコードソフトウェアを用いてエンコードすることが可能。VRでのスタジオレコーディングや、マルチチャンネルレコーディングを行いたい人にオススメのアンビソニックマイクとのこと。


8ball」はHEAR360という3Dマイク関連のスタートアップが開発した、ヘッドトラッキング機能を備えた3D録音マイクです。価格は2500ドル(約28万円)とかなり高額ですが、8ballはカメラにセットして使用可能なため、ハイエンドなビデオ制作に向いているとされています。


NT-SF1」はオーストラリア発のマイクメーカーであるRØDEが制作した360度マイクであり、価格は999ドル(約11万円)。価格が抑えめなため入手しやすく、多くのソフトウェアで編集可能だとのこと。


日本の音響機器メーカーであるZoomが開発した「H3-VR」は、非常にシンプルなアンビソニックマイクであり、価格はわずか350ドル(約4万円)。4個のカプセルを備えたアンビソニックマイクと6軸の自動モーションセンサーを装備し、レコーディングソフトとエンコーディングソフトはデバイス自体に内蔵されています。

YouTuberの中には3D的な体験をユーザーに提供したいと考えている人もいるため、安価なアンビソニックマイクは多くの需要を潜在的に持っています。非常に低価格なため品質が犠牲になっているおそれもありますが、それでもアンビソニックマイクは魅力のある製品だそうです。


ZYLIA」はポーランドのスタートアップが開発したポータブルマイクで、内部部品の開発にはドイツの複合企業シーメンスから独立した技術者が関わっているとのこと。価格はベーシックモデルで699ドル(約6万8000円)、プロモデルで1199ドル(約13万5000円)となっています。

ZYLIAは「必ずしもVRマイクとはいえない」とのことで、ベーシックモデルではZYLIAが録音した音を自動的に分離させることが可能なだけだそうです。ベーシックモデルではドラム・キーボード・ボーカルなどの音声を自動で分離可能であり、プロモデルのオプションでVR録音ができるとのこと。


NEVATON BPT」はロシアの伝説的ブランドNevaton製の超ハイエンドサラウンドマイクであり、価格はなんと4715ユーロ(約62万円)。1個のマイクカプセルにモノラル・ステレオ・サラウンドといった3種類のマイクが内蔵されており、全てを同時に録音することが可能だそうです。

非常に高価なだけあって品質は類いまれなレベルだとのことで、「音響に興味のある人なら誰もが一度は使ってみたいマイクになっている」と紹介されていました。

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in ハードウェア, Posted by log1h_ik

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