私たちと時間の関係は「電車」の登場によって作られた

by Ty

つくばエクスプレスで列車が定刻よりも「20秒」早く出発するミスについて、公式サイトにお詫びを掲載したことがニュースとなりました。この例を見てもわかるように、私たちの生活は秒単位でスケジューリングされています。しかし、人が厳密に時間を扱い出した歴史はかなり浅く、電車の登場前は時間と人との関係は現代とは異なっていたと理論物理学者Carlo Rovelli氏は述べています。

The Order of Time by Carlo Rovelli
https://www.penguin.co.uk/books/301539/the-order-of-time/

How train travel changed the whole world's relationship with time — Quartz
https://qz.com/1272446/the-order-of-time-by-physicist-carlo-rovelli-show-that-time-as-we-know-it-is-a-fiction/

Rovelli氏によると、古代から中国や地中海地方などに日時計・砂時計・水時計といったアイテムは存在しましたが、今日の私たちの生活における「時計」ほど重要な役割を担っていなかったとのこと。これは14世紀になりヨーロッパで日時計が使われるようになってからも同じで、当時の時計は鐘の音とともに時間の経過を教えてくれるものでしたが、ベルが鳴るタイミングも、都市が違えば異っていました。

当時の人々は「太陽が空の最も高い位置に昇ったら正午」という点に合意しており、太陽時を採用していました。つまり、正午がいつであるのかという認識も場所によって異なったのです。

by Nathan Dumlao

この状況が大きく変わったのは19世紀に入ってから。電車による移動が行われるようになり、「場所によって時間が異なる」という状況に不都合が生まれたことから、「標準時」が誕生しました。

1840年、イギリスのグレート・ウェスタン鉄道がグリニッジ標準時を導入しました。1880年になるまで標準時は法制化されませんでしたが、他の鉄道会社もグレート・ウェスタン鉄道にならって次々にグリニッジ標準時を採用していきました。そして、イギリスは世界の各国もグリニッジ標準時に従うこと、たとえ他の場所では深夜であろうともロンドンが正午であればその場所にいても正午とすべきことを提案したとのこと。しかし、各地域の人々は地元の時間を重視していたため、実際にはこの提案は採用されませんでした。

by Lucas Davies

ただし、標準時がまったくない状態は輸送産業などのビジネスにとって明らかに不利だったことから、ある程度の妥協は行われました。1884年に国際子午線会議がアメリカのワシントンで開かれた際に、イギリスはグリニッジ標準時を時間と緯度計測のための本初子午線として採用することを各国に求めたといいます。イギリスは他国の船を合わせたより多くの数の船を所有しており、海図などの技術も発達していたためです。

そしてグリニッジ標準時が世界的な標準となった時、世界は3つのタイムゾーンで分割されることで、グリニッジ標準時と各地の正午の時差が30分以内に収まるように調整されたとのこと。

この時点でも、時間の標準化はゆっくりと進みました。1883年11月にアメリカとカナダの鉄道会社は時計を調整しましたが、デトロイトなどの一部の都市は依然として太陽時を採用していました。1900年になり、デトロイトの市議会が時計を調整するように命じましたが、この命令は後に無効化されています。そして1918年、第一次世界大戦中に「Standard Time Act(標準時間法)」が通過して初めてアメリカでは標準時が定められることとなりました。

by Darren Bockman

鉄道という新しいテクノロジーが世界と時間との関わり方を変化させたわけですが、2018年現在、新たにテクノロジーが時間のあり方を変えようとしています。イギリスでは学校でテストが行われる部屋からアナログ時計が撤去され、代わりにデジタル時計つきの丸い時計が導入されました。これは、デジタル表記になじんだ世代の生徒たちが時間を読みやすくするための配慮とのこと。Association of School and College Leaders(ASCL)のMalcolm Trobe氏はこの変更について「学生たちには、『あとどれくらい残り時間がありますか？』と尋ねることに時間を使ってほしくありません」と語っています。