目撃情報の聞き取り調査はVR環境でアバターを相手にした方がより正確に行えることが判明
By Marco Verch
人間が過去に目撃した状況について証言を行う時、人を相手にするよりもコンピューターが作り出した「アバター」を相手にしたVR(仮想現実)環境で事件を振り返る方がより詳細かつ正確に事件の様子を思い出せることが研究により明らかになっています。
Frontiers | Eyewitness Memory in Face-to-Face and Immersive Avatar-to-Avatar Contexts | Psychology
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpsyg.2018.00507/full
この研究は、ロンドンのウエストミンスター大学心理学部の専任講師ドナ・アン・テイラー氏と、同学部のコーラル・J・ダンドー教授による研究チームが行ったもの。架空の自動車窃盗事件を再現した動画を被験者に見せて48時間後にその状況を聞き取る際に、実際の人に対して説明する状況と、VRヘッドセットを装着してコンピューターが作り出した架空の人格「アバター」に対して説明する状況を用意して、どのような影響が現れるのかを調査しました。
調査に際して用意されたVR環境は以下のようなもの。テーブル脇に置かれた椅子の片方聞き取り側の人間を模したアバターが座り、自分もコンピューターで再現されるアバターとしてVR空間に入った没入状態で事件を振り返ります。
用意されたアバターは以下のようなもの。もう少しリアルに作り込めそうにも思えますが、むしろ表情などが細かく出ないようなアバターであるところがミソ。
なお、実験に用いられたVR機材はOculus Riftで、3D音響が併せて用いられています。実験に参加した被験者はSNSと口コミで選ばれた18歳から38歳までの38人で、内訳は男性が12人と女性が26人。このうち、ランダムで選ばれた20人が実際の人と対面し、残る18人がVR環境でのアバターと対面しています。
この調査の結果を示すグラフが以下のもの。グラフ左側の「AtoA」と書かれた3本のグラフが対アバターの聞き取りを行った結果で、グラフの内訳は左から「総正答数」「総誤答数」「総作話数」となっています。AtoAの結果は「総正答数」が対面聞き取りの「FtoF」よりも多く、逆に「総誤答数」「総作話数」はFtoF寄りも少なかったことが明らかになっており、これはつまり「より正しい記憶を思い出すことができ、間違いは少なく、自分で話を創作するケースも少なかった」ということを意味しています。
ダンドー氏はこの結果について「聞き取り調査を受けている時の目撃者は、相手の顔の表情など社会性を持つ行動に気を取られるがあまり注意が散漫になってしまうことがあります。そのような社会的行動は証言や記憶力のパフォーマンスに負の影響を与える可能性があります」と述べ、純粋に記憶を引き出すだけでなく目の前の相手に対応するという行為によって、自分の記憶が悪い影響を受ける可能性があることを語っています。
今回の聞き取り調査は一般の人を相手にしたものでしたが、たとえば聞き取り員が警察官など権威性を持つ相手だった場合、証言者が感じるプレッシャーはさらに大きくなり、証言内容にも少なからず影響が及ぶことが予測できます。今回の実験は38人という限られた被験者を対象にしたものでしたが、今後さらに研究を深めることで今よりも正確な事件の真相究明をもたらすほか、取り調べのプレッシャーに耐えられずに罪を認めてしまうような冤罪事件を防止するためにも役立てられる可能性を感じさせる研究結果といえそうです。
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