拷問は無実の人を「疑わしく見える」ようにする効果がある
人道的な理由から現在では行われていないと思いたいところですが、洋の東西を問わずさまざまな手法での「拷問」は罪を犯した人に自白をうながすという名目で長い間正当化されてきた歴史があります。しかし実際には無実の人でも拷問を受けて苦しめば苦しむほど、その姿を見た第三者にとっては「罪を犯した者」のように見えてくるという意外な効果がハーバード大学の心理学者らによる研究で明らかになりました。
もし公開で拷問を行い観衆に多数決をとれば、ほとんどの被疑者が有罪となってしまうということなのでしょうか?なんだか中世の魔女裁判などを想起させる研究テーマですが、ユニークな実験方法によって検証されています。
詳細は以下から。Pain Of Torture Can Make Innocent Seem Guilty
実験では被験者たちは「不正行為で金銭を得たと疑われる」とされる女性に会い、その後女性が氷水に手を漬ける「拷問」を受ける様子を隠しマイクで聞きました。女性は最後まで自白することはありませんでしたが、女性がこの拷問で苦しめば苦しむほど、被験者は女性を「疑わしい」と感じたそうです。
Journal of Experimental Social Psychology誌に発表されたこの研究はハーバード大学の心理学科のDaniel M. Wegner教授と心理学専攻の院生Kurt Gray氏により行われました。
「わたしたちの研究は、拷問が罪を明らかにするというより、罪があると見なされることにつながるかもしれないことを示唆しています」とGray氏。「まるで、拷問を受ける人の苦しみを見た人は、その拷問を自分の中で正当化する必要があり、『罪を犯したのだから当然の報いだ』という正当化に至るために被疑者を有罪だと感じるようです」
しかし拷問を受けた人がすべて有罪に見えるわけではありません。被疑者が拷問を受ける様子をその場で聞かされたのではなく、過去の拷問の様子の録音を聞いただけの被験者は、被疑者が苦痛の声を上げるほど「疑わしくなく」感じたそうです。Gray氏はこの異なる結果は(被験者と拷問の実施者との)共犯関係のレベルの違いによるものだと説明しています。「拷問に加担したと感じる被験者は、拷問を正当化する必要があり、拷問を受けた人の苦痛を罪を犯した人の責任と結びつけることになります。一方で、拷問とかかわっていない被験者は拷問を正当化する必要がなく、拷問を受ける人の苦しみに共感でき、苦痛を無実と結びつけるのです」
実験では78人の被験者の半数が「拷問」を受ける女性(実際には実験の協力者で、もちろん危害は加えられていません)に会い、半数は女性に会うことなく録音を聞きました。被験者たちは実験は「道徳的行為に関する研究のため」であり、女性は「ごまかしにより自分に支払われるべき金額より多い額を受け取った」と聞かされていました。女性と会った被験者はその後「ストレス状態では人は過ちを告白しやすいかもしれない」という研究者の提案を受け、女性が別室で「拷問」を受ける様子を隠しマイクで聞きました。
女性は「自白」することはありませんが、氷水に手をつける拷問に対し「無頓着」と「泣きながら苦痛を訴える」の2パターンの反応を使い分けました。女性に会った被験者は女性が苦痛を表した時ほど罪が重いと評価し、女性に会うことはなかった被験者は女性が苦痛を表さなかった時ほど罪が重いと評価しました。
この結果は「拷問」をめぐる論争に答えを出すことにつながるかもしれない、とGray氏は示唆しています。「他者が苦しむ姿を見ることは、拷問の正当性に関する異なるイデオロギーのそれぞれを固定させる効果があるでしょう。もともと拷問を擁護する人は、拷問とその手法を拒絶する人と違い、拷問を受けた人を有罪だと感じるようになっているのです」
この研究結果はアブグレイブ刑務所における捕虜虐待事件にも新たな光明を投じるかもしれません。虐待を実際に見ることはない一般市民と違い、拘留者が苦しむ様子を近くで目撃する看守の目には、拘留者が苦しめば苦しむほど、より重大な罪を犯した者に見えてくるのです。
拷問に「自白をうながす」効果が実際にあるのかどうかはまだ明らかになっていませんが、誰かが拷問を受けたという事実だけで第三者は「真実が明らかになった」と信じるように至る可能性を、この研究は示唆しています。
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