「ペルソナ5」や「ニーア・オートマタ」など近年世界でも大ヒットした日本ゲームのクリエイターたちが日本のゲーム業界の現状について語るインタビュームービーが公開中
2016年後半から、「ペルソナ5」「ニーア・オートマタ」「バイオハザード7 レジデントイービル」など、国内外を問わず評価の高いゲームが相次いで日本からリリースされました。その一部の作品のディレクターに対してなぜ日本で突然素晴らしいゲームが次々とリリースされたのか、そして日本のゲーム業界の状況に対する思いについて尋ねた様子を、日本のクリエイターへのインタビュームービーを定期的にアップするArchipelが公開しています。
Ebb and Flow - Conversations on the recent momentum of Japanese games - YouTube
水口哲也さんは、「Rez Infinite」「ルミナス」「スペースチャンネル5」などを手がけたゲームディレクターです。水口さんは「2016年後半にこぞって良いゲームタイトルが日本から出てきた」とは指摘されるまで特に思っていなかったそう。ただし、少し過去を振り返るとスマートフォンのゲームが多い時期があり、芸術性の高いゲームや解像度の高いゲームがユーザーから忘れ去られた空白の数年間があるように感じているとのこと。
また水口さんは、ゲームは技術と共に表現や体験がアップデートされていくというユニークなアートフォームだと指摘し、そのアップデートにリミットがないところがゲームと他のメディアとの差異だと論じています。映画監督が年を重ねてより素晴らしい作品を作ることがあるように、これから出てくるであろう70代~80代のゲームクリエイターが今よりもすごい体験を作り出すかもしれないと予想しています。
「ニーア・オートマタ」や「ドラッグオンドラグーン」のディレクターを務めたヨコオタロウさんは、世界的にヒットした日本のゲームタイトルが連続した理由について、「欧米のゲームタイトルがばく大な予算をつぎ込んだ超大作とインディーゲームに二極化している中で、日本のゲームは偶然にもちょうどその間にすっぽりはまったというラッキーなできごとだったと思います」と分析しています。
また、ヨコオさんは、日本のゲーム開発現場は、欧米の開発現場に比べてシステマティックな環境が整備されていない分、ディレクターが自由な立場にいると考えているそう。それ故に、ディレクターがやりたいことに対してごう慢でわがままにならないと、最終的な形にならないのが日本のゲーム開発現場の現状だと語っています。
「SIREN」シリーズや「GRAVITY DAZE」シリーズを手がけた外山圭一郎さんは、日本ではどんどん大きくなる制作規模に対してかつてはチームの体制が追いついていなかったのが、今は現場が再整備されてきたことによって、混乱もなくコンスタントにゲームを作れるようになってきたと感じているそうです。
また、「日本のゲームらしさとは?」という質問に対して外山さんは、今のゲームクリエイターの少年期における共通の体験として日本の漫画やアニメがあり、そういったものの中から、ドラマやキャラクター作り方を自然に学んでいき、自分の作品に自然に出てくる部分が日本らしさにつながっているのではないかと論じています。
アトラスの橋野桂さんは、「ペルソナ5」を開発していた時はユーザーが楽しんでくれるかどうかに集中していて、周りのゲームがどういう評判だったのかは全然気が回らなかったのだそう。それでも営業やプロモーションから話を聞いていたとのことで、2017年に入って少し落ち着いてから、いろんなゲームを触っていったとのこと。
橋野さんは、ゲームの開発費がかさむようになってきたことで、国内だけではなく海外市場も一緒に損益計算をしていかないとペイできない状況になっていると指摘する一方で、みんなに好かれなくても、こういう作品性じゃないと面白くないというような気構えが結果的に今の時代には大勢の人の心に刺さるような時代になってきたと感じているそうです。
「仁王」を手がけた安田文彦さんは、仁王の開発が終わるまで同時期に発売されたゲームを遊ぶことができなかったそうですが、たまっていたゲームを自分で遊んで見たところ、出来がすごくよかったと驚いたとのこと。特に、最後にプレイした「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」にはとんでもないゲームが出たと思ったと語っていて、1つの時期に日本からこれほどまでに良いゲームがたくさん出ることに不思議さを覚えたそうです。
安田さんは2010年代前半を振り返りながら、「開発費が大きくなっている一方で、どこをターゲットに売っていくかということはどの会社もすごく考える時期だったと思います。プロジェクトが起案されず、実際にユーザーから見ても新規のタイトルがあまり出ない期間で、その頃はどれだけクリエイティビティを持っていても発揮できないという時期だったように感じています」とコメント。また、安田さんは、ディレクターやプロデューサーなど、作っているメンバーがこれをやりたいという主観的な部分と、ユーザーがどういうものを求めているのかという客観的な部分のバランスがゲームを作る時に重要視しているポイントだと論じていました。
「バイオハザード7 レジデント イービル」のディレクターを務めた中西晃史さんによると、2010年前後には海外を意識したゲーム作りの時代があり、カプコンでもそういう空気があったとのこと。実際に中西さんがUBIソフトのクリエイターと一緒に開発をした際、欧米でウケるゲームを作るためのアイデアを企画会議で出したところ、相手のクリエイターからなぜマネをするのか分からない、あなたたちにしかできないことをすればいいと言われた経験があると語っています。
また、2011年から2012年にかけてスマートフォンで遊べるソーシャルゲームの一大ブームがあり、一部のクリエイターは「家庭用ゲーム機にはもう未来がない」と流れていってしまったとのこと。しかし、「自分はそれでも家庭用ゲーム機でやっていくんだ」という魂を持って家庭用ゲームソフトの開発に残った人たちが作り出したゲームがだいたい2016年頃に出てきたのではないかと、中西さんは推測しています。
海外でも人気があり、世界でシリーズ累計1000万本以上を売り上げている「龍が如く」シリーズのプロデューサーを務める名越稔洋さんは、「龍が如く」は日本のユーザーを満足させることを目標とし、ワールドワイドを目指さないというコンセプトがシリーズのきっかけだったと語ります。そのコンセプトがユニークに見えて、海外でヒットするきっかけになったのには皮肉に思ったそう。
また「日本のゲームらしさ」について、名越さんは「ゲームは最終的に触って遊ぶインタラクティブなものなので、手ざわり感やグラフィックスなどの仕事が丁寧なのが日本のゲームの特徴だと思います。欧米も画質はきれいですけど、ミニマムな部分は日本の方が限りなくこだわると思います。ゲームのスケールでは欧米に負けちゃうけど、丁寧さはスケールとはまた違う評価なので、ぼくは日本のゲームの評価はそこにあると思っています」とコメントしています。
多くのゲームの翻訳を行うハチノヨンで翻訳を行うジョン・リカーディさんは、幼い頃から日本のゲームが好きで、10年以上日本に住んで、日本のゲームをずっと遊んでいるとのこと。特にモンスターハンターシリーズが好きで、ローカライズに携わりながら欧米でも「モンハン」はきっと成功すると考えていたそうです。実際、PS4向けで発売されたモンスターハンター:ワールドは世界で750万本を超える出荷本数を記録するなど、大ヒットタイトルとなりました。
「モンスターハンター:ワールド」のプランナーである徳田優也さん。「モンスターハンター:ワールド」の開発を始めた時は、ちょうど「The Elder Scrolls V: スカイリム」や「ウィッチャー3」など、オープンフィールドで遊ぶゲームタイトルがたくさん出ていた時期だったとのことで、新作の「モンスターハンター:ワールド」は生態系を作り上げるようなゲームにしよう、とコンセプトを定めたとのこと。その中で、広いフィールドにこだわるよりも、密度にコストを割いていこうという判断も行われたそうです。
また、徳田さんは「まだまだ発展途上とはいえ、日本も良いゲームを作っていけば世界中に受け入れられるような状況が整っているということを示す結果が出せたかなと思っています。日本のゲーム会社からしても海外にむけて展開していくきっかけになったと思いますし、逆に海外のゲーム会社からしても日本の市場が広がっていくと感じられたと思います。いいものは世界に売れていくという状態になるとより可能性が広がって、未来が見えてくるのではないかと思います」と語っています。
ムービーでは他にも、各クリエイターによる鋭い意見・考察・分析を聞くことができるので、気になる人はぜひ自分でムービーを確認してみてください。
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