アート

メッセージを暗号化して「音」の一つ一つに置き換える遊びが大作曲家たちによって行われていた

By AfroEngineer

言葉で伝えたい名前や思いを「音」に置き換えることで、楽曲の中にメッセージを埋め込むという一種の「遊び」が数々の作曲家によって行われてきたことが知られています。古くはかのバッハからロマン派のブラームス、ドビュッシー、そして現代音楽の大家まで、音と言葉を使った遊びが脈々と受け継がれています。

With Musical Cryptography, Composers Can Hide Messages in Their Melodies - Atlas Obscura
https://www.atlasobscura.com/articles/musical-cryptography-codes

音楽に暗号を入れこむのは昔から使われてきた手法で、テレビドラマ「Outlander」や小説「Secret of the White Rose」などでもそのトリックが盛り込まれています。

17世紀から18世の数学者・暗号学者だったジョン・ウィルキンスとフィリップ・ティックネスは、音楽を用いた暗号方式がもっとも解読が難しい方法であると考えていました。情報を探し回るスパイでさえも、音楽のメロディの中にメッセージが隠されているなどとは思わないために、カムフラージュの方法としては最適だというのがその考え方です。ティックネスは1772年、ト音記号の楽譜における音程に文字を割り当てる手法を構築しました。その暗号化能力の高さについてかなり自信があったようで、ティックネスは「音が耳に働きかけるように、楽譜が目に働きかけてくる」と語ったほど。


暗号化されたメッセージは、少なくとも特別な訓練が施された人でもない限り、その中身を見抜くことは非常に困難なように見えます。しかし、西ミシガン大学のデーヴィッド・ロベルグ・コード教授によると、メッセージが隠された音の並びには不自然さがあり、何らかの疑問がわいてくるとのこと。「暗号化システムそのものが音楽的ではないために、その方法で示された譜面は音楽的なナンセンスを含むものになるので、そこに疑いが生まれます」と語るとおり、譜面の書かれ方が「音楽的」ではないために、その中身を怪しむ見方が生まれてくるというわけです。

以下の譜面は作曲家のハイドンが作った暗号法が示されたものなのですが、ヘ音記号の楽譜の一番下にある「ソ」の音はアルファベットの「A」に対応します。そしてその半音上の「#ソ」は「B」、「♭ラ」は「C」というふうに音階とアルファベットが関連付けられているのですが、よく見てみると「#ソ」と「♭ラ」は実際には同じ音となっています。そのため、単語を記載することを優先すると、実際の楽譜はシャープ記号とフラット記号が入り乱れる理解不能な譜面になってしまい、音楽的なものからはかけ離れた内容になってしまいます。


音楽にメッセージを埋め込む手法を最初に使ったのは、クラシック音楽の作曲家でしたが、それはスパイ活動などのために使われたというよりは、自分の名前や友人の名前を曲の中に取り入れるという「お遊び」として用いられていたとのこと。コード氏が「作曲家がどのようにして名前を楽曲に盛り込んだのかはわからないこともありますが、何かを伝えるために用いられたことは明らかです」と語るとおり、作曲家は曲の中に何らかの「マーク」を残すことを試みていたと考えられています。

その好例が、19世紀のドイツの作曲家、ヨハネス・ブラームスだといわれています。1868年の作品「弦楽六重奏曲第2番」の中でブラームスは、曲の中に暗号を仕込む試みを行いました。1858年の夏、当時25歳だったブラームスは友人の音楽教室に通っていた23歳の女性、アガーテ・フォン・ジーボルトと強烈な恋に落ちます。2人は婚約を結ぶまでに至りましたが、ブラームスは音楽に専念する道を選ぶために、この婚約を破棄しました。

その後、フォン・ジーボルトは別の男性と結婚しましたが、ブラームスは生涯独身を通しました。しかし、フォン・ジーボルトへの思いを捨てきれなかったブラームスは、この楽曲の162小節目から168小節目にかけてのバイオリンの音型を「A-G-A-H-E」とすることで、フォン・ジーボルトのファーストネームである「Agathe」を表現したという見方が古くから存在しています。

Brahms' Sextet No. 2 in G Major - La Jolla Music Society's SummerFest 2007 - YouTube


イギリスのBBCラジオで番組のホストを務めるトム・サービス氏によると、この音のモチーフは楽曲の苦しみが解放される瞬間に登場しており、ブラームスの心の痛みが表現されていると解釈されます。またこれは、友人に宛てた手紙の中でブラームスが「この作品により、私は過去の愛からようやく解放された」と記していたこととも関連付けられ、やはりフォン・ジーボルトを失った苦しみを解放するためにこの曲が誕生し、そこに名前の文字が埋め込まれている、という解釈が行われています。


ただしこの考え方には諸説あり、否定的な見方も存在します。

ブラームス以前にも同様の試みを行った作曲家がいます。大作曲家として知られるヨハン・セバスティアン・バッハもそんな1人で、楽曲の旋律に「B-A-C-H」(♭シ→ラ→ド→シ)という動きを埋め込んでいたといわれています。これはBACH主題として知られているもので、自身最後の作品であるフーガの技法の最終部分に登場します。

Bach - The Art of Fugue, BWV 1080 [complete on Organ] - YouTube


ブラームスの友人で、同じロマン派の作曲家であるロベルト・シューマンも楽曲にこのようなメッセージを埋め込んでいたといわれています。シューマンは、ピアノ曲集「謝肉祭」の中で、実らなかった恋の相手エルネスティーネ・フォン・フリッケンの出身地アッシュ(Aš)のドイツ語表記「ASCH」を音名で表記したといわれており、作中には「As-C-H(♭ラ-ド-シ)」「A-Es-C-H(ラ-♭ミ-ド-シ)」という音列が何度も登場することが知られています。

Schumann Carnaval Op 9 by Rubinstein - YouTube


その後、近代に近づいてからも作曲家が文字を音楽に埋め込む試みは続けられており、ラヴェルドビュッシープーランクメシアンショスタコーヴィチらが同様の「遊び」を作品に盛り込んでいるといわれています。

メシアンの作品「聖なる三位一体の神秘についての瞑想」はその代表例といえるものとのこと。現代音楽の作曲家でもあったメシアンは、26個全てのアルファベットの文字に異なる音を当てはめ、哲学者トマス・アクィナス神学大全のフランス語訳版を再現したといわれています。

Olivier Messiaen `MEDITATIONS SUR LE MYSTERE DE LA SAINTE TRINITE` - YouTube


◆自分でも音楽に言葉を埋め込んでみたくなったら
もし、過去の作曲家と同じように自分でも音楽にメッセージを埋め込みたくなった場合には、ネットで便利なサイトを見つけることができます。Solfa Cipherはそんなサイトの一つで、テキストを打ち込んで曲のキーやスケールなどを設定すると、自動で曲にしてくれます。

Solfa Cipher
http://www.wmich.edu/mus-theo/solfa-cipher/

出力される曲はおよそ「楽曲」と解釈するにはレベルが高すぎる気もしますが、手軽に暗号楽曲を作ってみるには便利といえそうです。

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in アート, Posted by darkhorse_log

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