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サイエンス

遺伝子組換え作物(GMO)の研究者が「なぜGMOの可能性を信じつつも研究をやめるのか」を語る

by Milan Popovic

チューリッヒ工科大学で過去4年間 遺伝子組み換え作物(GMO)についての研究を行ったDevang Mehtaさんは、GMO研究を離れることを決意したといいます。GMO研究は食料問題を解決するために必要だと考えているMehtaさんが、なぜGMO研究を離れることにしたのか、GMO研究の現状についてつづっています。

Why I'm quitting GMO research
https://massivesci.com/articles/gmo-gm-plants-safe/

Mehtaさんは、「ウイルスに抵抗のある植物を作ろうとしてGMO研究を行うことは、人々から押し寄せるネガティブな反応に対処することを意味します」と語っています。このネガティブな反応は、日常的な会話に含まれるものからTwitterトロールまでさまざまですが、場合によっては抗議活動を行う人によって研究がつぶされることも考えられるとのこと。

Mehtaさんが強烈な反GMO活動に初めて遭遇したのは、同僚が行ったGMOや特許植物のパネルディスカッションでのこと。抗議者たちは「アメリカの子どもたちの自閉症の責任はGMOにある」と叫んでパネルを妨害し、パネリストたちが「自閉症とGMOの間には因果関係がなく、GMOは人間が食べても安全だと何度も確認されている」と説明しても、陰謀説を強く信じて聞く耳を持たなかったそうです。この出来事について、Mehtaさんは「研究者が科学的なコミュニケーションを試みることがいかに無益かということを表していた」と記しています。

GMOやワクチンに関して言えば、このような出来事は個人レベルでもソーシャルメディアにおいても世界中で頻繁に起こっており、「自分がどんな選択を行っても、『あなたの研究は人を傷つける』と考えられることは私にとって苦痛であり、不公平だと感じる」とMehtaさんは語ります。Mehtaさんの友人は皮膚病の研究を行っているのですが、この友人は「あなたの研究は特許を取るつもりですか?」という質問を受けたり、 Big-Ag(農業の資本主義)について非難されないということから、Mehtaさんは「不公平」と感じているとのことです。

by Eaters Collective

また、分野の異なる科学者の多くはGMOを無視するか、「なくても問題ないもの」として扱っていることも問題点として挙げられています。GMOはヨーロッパの複数の機関や科学協会などに「安全で世界的な飢餓を撲滅する貴重なツール」だと認められながら、GMO研究が公的資金を得られる確率は非常に低いといわれています。

GMOが「邪悪なもの」と見なされるようになったことで起こったのが、「ラベルの変更」です。Cisgenicという言葉は、異なる遺伝子の種を挿入するTransgenic(遺伝子導入)とは異なり、同じあるいは関連する種の植物の遺伝子を挿入することを言いますが、遺伝子をエンジニアリングしていることには変わりありません。また、遺伝子編集技術「CRISPR」の登場を受けて、科学者たちがCRISPRによって作られた製品を「非GMO」として押しだそうとする動きもあるとのこと。

反GMO活動は、過去数十年でGMO研究を危うい位置にまで追い込みました。Mehtaさんが所属するチューリッヒ工科大学は、過去に、開発途上国のビタミンA欠乏症を解決できるとするゴールデンライスが生み出された場所です。科学者のIngo Potrykus氏は1991年に研究を開始し1999年にゴールデンライスの製造に成功。当時は「偉大なる功績」だとしてPotrykus氏は雑誌「タイム」の表紙を飾ったほどでした。しかし、ゴールデンライスの誕生から約20年経過した2018年現在、何度も安全性テストを通過したにも関わらず、ゴールデンライスは、最もそれを必要とする子どもたちに届いていません。ここには、「裕福な国にいる反GMO活動家」と「南北問題によって科学を必要としている農家・消費者」の間に大きな溝があることもMehtaさんは指摘します。

by IRRI Photos

ゴールデンライスを発表したその年にリタイアしたPotrykus氏は、81歳になる時に「『成功した』GMO研究者としての自叙伝」を発表しています。この中でPotrykus氏はゴールデンライスを生み出した時の興奮が徐々に「失望の連続」という物語へと変化していった様子を描きました。反GMO活動家によってネガティブな出版物が発行され、規制によってアジアの農家が使用する米へテクノロジーを適用できなくなり、実験を行う資金が得られなくなり……と、ゴールデンライスの物語は失望の連続だったといいます。一方で、ゴールデンライスの研究は、ヨーロッパの科学者たちが商業目的ではないGMO穀物を研究するきっかけとなりました。

しかし、Potrykus氏は「このような追撃があることを知っていたら、私は研究を始めなかっただろう」と語っており、自叙伝は若い科学者に対する訓話であるとMehtaさんは語っています。「願わくば、私が生きているうちにゴールデンライスが必要とする人々へのもとへと届きますように」というのがPotrykus氏の言葉です。

by Joshua Newton

GMO研究に4年半を費やしたMehtaさんは、アフリカに行き生徒たちに「夢のある」生物学的なテクニックを教えることができたことや、食の安全に貢献できたことを有意義だったとしています。そして世間から批判的に見られたり疑いの目を向けられない分野に移ったことに喜びを感じているとしつつも、GMO研究を離れることに罪悪感を感じており、GMO技術が人間の食物としてふさわしいと認められた時には再びこの分野に戻ってくるかもしれない、と記しています。

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in サイエンス, Posted by logq_fa