サイエンス

学術論文の無料ダウンロードを可能にする「Sci-Hub」が約17億円の賠償金を命じられる

by faungg's photos

有料の学術論文検索サービスをバイパスして、研究目的の科学論文を無料で直接手元にダウンロードできるようにする検索エンジン「Sci-Hub」の開発者が、著作権違反で裁判所から1500万ドル(約16億7000万円)の支払いを命じられました。

The Association of American Publishers Welcomes Major Judgment Against “Sci-Hub” Pirate Site | Business Wire
http://www.businesswire.com/news/home/20170622006118/en/Association-American-Publishers-Welcomes-Major-Judgment-%E2%80%9CSci-Hub%E2%80%9D

Scientific research piracy site hit with $15 million fine | Ars Technica
https://arstechnica.com/tech-policy/2017/06/scientific-research-piracy-site-hit-with-15-million-fine/

A spiritual successor to Aaron Swartz is angering publishers all over again | Ars Technica
https://arstechnica.com/tech-policy/2016/04/a-spiritual-successor-to-aaron-swartz-is-angering-publishers-all-over-again/

研究者のための論文検索エンジン「Sci-Hub」は、出版社の有料サービスを回避して、論文を直接ダウンロードできるようにするサービス。2011年にカザフスタンの大学院生Alexandra Elbakyan氏によって設立されたもので、科学へのアクセシビリティを高めることから科学コミュニティから賞賛される一方で、いくつかの出版社の非難の的となっています。そして2015年には学術出版社エルゼビアが、自社のフルテキストデータベース「ScienceDirect」に対する著作権侵害でSci-Hubに対する訴えを起こしました。

写真の女性がAlexandra Elbakyan氏。


Sci-Hubとは一体何なのか?という詳しい内容は以下から読むことが可能。

4700万件の研究論文を「科学の発展」のためタダで読めるようにしている海賊版サイト「Sci-Hub」 - GIGAZINE


また、Sci-Hubによって出版社にどのような影響があるかは以下の記事から読むことができます。「Sci-Hubや類似サービスを利用した第1の理由は?」という利用者アンケートで「出版社が利益を上げることに反対だから」という回答が23%あるなど、出版業界の立ち位置が変化しつつあることが伺えます。

研究論文を無料で読める「Sci-Hub」が論文ビジネスに与える影響とは? - GIGAZINE


今回の判決で裁判所は、Elbakyan氏に対して賠償金を支払うこと、およびウェブサイトを閉鎖することを命じていますが、これまでの裁判でもSci-Hubは同様の判決を受けながらも閉鎖されておらず、ドメインを当初の「sci-hub.org」から記事作成時点で「sci-hub.cc」へと移しながらも続いていることから、今回も閉鎖にはならないだろうという見方が大勢を占めています。

Sci-Hub: removing barriers in the way of science
http://sci-hub.cc/


開発者のElbakyan氏は今回の判決についてコメントを行っていませんが、これまでの裁判に対しては賠償金の支払いを行う意志はなく、訴訟手続きにも応じるつもりはないという姿勢でした。一方で、今回の判決について、米国出版社協会のMaria Pallante氏は「最終判決が示すように、裁判所は公共の利益のための違法な活動を取り違えませんでした。被告人の活動は目に余る違法行為と認識され、今回の判決は科学の研究と公益にける著作権法の重要な役割を支持するものでした」と語っています。

Elbakyan氏の活動は、「インターネット上の情報はペイウォールであるべきではない」とする信念を持ち、連邦当局に逮捕されたのちに26歳で自殺したアーロン・スワーツ氏の意志を継ぐものと言われることもあります。スワーツ氏は「世界の科学的・文化的遺産は何百年もの間、雑誌や本として出版され、一握りの民間企業によってデジタル化され閉じ込められてきました。そして著名な研究結果を述べる科学論文を読むためにはエルゼビアのような会社に大金を払わねばいけません」と述べており、情報のオープンアクセスを呼びかけていました。Elbakyan氏自身は、当初は「知識の自由化」という目標を掲げておらず純粋に研究者の生活を楽にするためにウェブサイトを作ったと語っていますが、のちにこのような研究方法を変えるツールが非常に重要であることがわかったとしています。そしてSci-Hubに関する数々の意見を聞いていくについれ、「本当に非倫理的な行動とは、科学的情報に対するアクセスを制限することです。なぜならそれはお金のために行われているからです」という考えを持つに至ったようで、倫理的なジレンマはElbakyan氏の中には存在しないとArs Technicaはつづっています。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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