食品の表示はどのようにして私たちを欺いているのか？

by Cascadian Farm

加工食品に記載されているカロリーや栄養素などの情報は、アメリカでは1970年代初頭に初めて記載が義務づけられたもの。消費者の健康意識を高めるという意図で行われてきた情報表示ですが、近年ではこの情報表示を使って消費者を「あざむく」行為が行われています。

‘Gluten-free water' shows absurdity of trend in labeling what's absent
https://theconversation.com/gluten-free-water-shows-absurdity-of-trend-in-labeling-whats-absent-80657

◆食品ラベルの歴史

by Mike Schmid

アメリカでは、1960年代まで消費者は自分が購入する食品にどのような栄養素が含まれているのかをほとんど知ることができませんでした。このような状況が変化し栄養情報の記載が義務化したのは1970年代初頭のこと。人々が食生活と健康との関係を深く学ぶにはもっと消費者に情報を提供する必要があると考えた議会が「Nutrition Labeling and Education Act of 1990(栄養表示教育法1990)」を制定したのです。この法律により、アメリカ食品医薬品局(FDA)は、販売する食料品について特定の栄養素やその他の情報を商品にリスト表示させることを食品販売業者に義務づけました。

しかし、「オーガニック(有機的)」など一部の表記については厳格なガイドラインがあるものの、「ナチュラル(自然)」を含めた多くの表記は規制されておらず、さまざまな文脈で使われています。「『ケージフリー』の鶏から産み落とされた卵」「『牧草飼育』で育てられた牛のミルク」など、標準化されていない多くの表記は特定の内容を指し示すものではありません。

◆ラベルの効果とは？
経済学者のKevin Lancaster氏の仮説によると、「人は『購入するかもしれない製品そのもの』ではなく『その製品の特性』によって幸福を得る」とのこと。

例えば車の場合、その特質は色・ブランド・価格・燃費などです。インターネット上で車について調べる場合、人はサイズや色といった目に見える特性を確認できますが、燃費については実際に使ってみないと体感することはできません。つまり、ここには「売り手のみがより詳しい情報を有し、買い手はそれを知らない」という情報の非対称性が存在するのです。ノーベル経済学賞を受賞したジョージ・アカロフ氏によると、情報の非対称性が存在すると「市場の失敗」が起こるとのこと。

by Carsten

◆知識の格差がもたらすもの
ただし、実際には食品の購入について情報の非対称性は完全に取り除けておらず、消費者は今でも商品の購入について持つべき知識を持っていません。カロリーやビタミンの情報など有益な情報もありますが、企業の中には情報の非対称性によって消費者を搾取するために食品のラベルを利用するところもあります。

この方法の1つが「absence label(入っていないものの表示)」で、「グルテンフリーの水」のように、最初から入っていないものをあたかも「特別入っていないかのように」見せ、プレミアム感を出す表示です。アメリカではブタや鶏などについてホルモンを使うことが禁止されているので、「ホルモンフリーのチキン」という表示も、実際には意味のないものとなります。しかしFDAは「ホルモンの使用は連邦規則で禁じられている」という記載さえあれば、このよ うな表記を行ってもよいとしています。

◆安全の表示
アメリカでは2016年7月に「GMO表示義務法」が成立しており、2018年夏から実際に施行されます。しかし、これがさらなる混乱を巻き起こすと食資源経済学の准教授であるBrandon McFadden氏は考えています。

経済学には「シグナル効果」と呼ばれるものが存在します。シグナル効果は、内容の質がわからない場合に、情報を持っている側が持っていない側に伝達するシグナリングが価値判断に大きく影響することをいいます。つまり、食品表示について言えば「低塩」という表示は暗示的に「塩は控えなければならないのだ」ということを消費者に伝えることになります。

遺伝子組み換え食品は一部の国や地域で使用が禁じられているものの、FDAは「遺伝子組み換えでない食品と同程度に安全」という見方です。しかし、GMOのラベル表示が義務化されればシグナル効果の結果、逆に「GMOフリー」という表示を押し出す食品が出てくるようになる、とMcFadden氏は考えています。