メモ

モダンジャズの巨人ジョン・コルトレーンの音楽の概念が垣間見える2枚の手書き音階スケッチ


1950年代から60年代にかけての活躍の中で「ジャズ」を大衆娯楽音楽から芸術音楽へと高め、晩年にはモダンジャズからフリージャズへと「深化」した孤高のサックスプレイヤー、ジョン・コルトレーンの音楽は時に混沌と瞑想の世界にあるともいわれます。そんなコルトレーンがある音楽家に送っていた手書きのメモが残されており、音楽を「数」の観点から理解するアプローチを行っているルーカス・ゴンゼ氏がそのメモについて分析しています。

Coltrane Pitch Diagrams – Lucas Gonze – Medium
https://medium.com/@lucas_gonze/coltrane-pitch-diagrams-e25b7d9f5093

1990年代半ば、ゴンゼ氏はバークリー音楽大学の書店でニコラス・スロニムスキーが記した「Thesaurus of Scales and Melodic Patterns」(音階と旋律パターンの辞典)を探していました。この本はアルゴリズム的に生成されたスケール(音階)について解説したもので、コルトレーンもその影響を受けたミュージシャンの一人でした。


そんな時、ゴンゼ氏の目にある一冊の風変わりな書籍が飛び込んできたとのこと。「Repository of Scales and Melodic Patterns」(音階と旋律パターンの貯蔵本)という、上記の本によく似た名前を持つこの本は、あらゆる楽器に精通するマルチプレイヤーのユセフ・ラティーフが記したものです。

Amazon | Repository of Scales and Melodic Patterns | Yusef A. Lateef | Jazz


本を開くと、奇異な2枚の手書きのスケッチが掲載されています。


1枚は、以下のように頂点の「C」(「ド」の音のこと)から始まる音階の環。2つの環からなるこの図は、外側の音の次は内側の音、というふうに半音ずつ時計回りに回転するというもので、5オクターブで一周する構造となっています。5つある「C」をつなげることで星印ができあがるという、なんとも抽象的な世界を感じさせる図でもあります。


そしてもう1枚は、上記の図を基にしたものとみられ、いくつかの音を抜き出して3つ単位でまとめたものとなっています。


そしてこの2枚の図には、以下のような説明が添えられていたとのこと。

Geometric Drawings: By John Coltrane, 1960. Gifts to Yusef from John.

(幾何学的スケッチ:ジョン・コルトレーン作、1960年、ジョンからユセフへ贈られたもの)

このスケッチに徐々に興味が沸いてきたというゴンゼ氏は、もとのスケッチを損なわないようにトレーシングペーパーを用意し、分度器とコンパスを使ってその意味の解釈を行いました。


まずは、コルトレーンのスケッチから音名だけを抜き出したのがコレ。頂点のCをスタートして、「外→内→外→内」というパターンで半音ずつ時計回りに動いていく様子がよくわかります。この時、外側と内側のリングの音の並びは「全音音程」またはホールトーン・スケールになっています。


この二重環をシンプルにすると、このような一重環の構造に変化。この時はもちろん全ての音程が半音ずつ上がっていく「半音階」またはクロマティック・スケールとなります。


「逆に、三重環にしてみたらどうなるんだろう?」ということで、ゴンゼ氏が作ったのがこのスケッチ。外から内側へと向かう流れが反復する渦巻き型の模様が生まれています。


最初の1オクターブ分だけを抜き出してみると、3つの環の音の並びによって「C→Eb→F#」というふうに減三和音」(ディミニッシュ・トライアド)ができていることがわかります。また、二重環の時は「D」と「Eb」が隣合った音として配置されていましたが、三重環になることで2つの音の間には距離が生じています。


ゴンゼ氏はこの状態を見て、棒に紙や布を巻き付けて文章を書くことで敵に内容を知られにくくする暗号法「スキュタレー暗号」の状態になっていることに気がついたそうです。またこれは、いわゆるピタゴラ暗号棒と同じもの。


こうなると、もとは2次元だったスケッチが、棒の周囲に巻き付くという3次元のものへと変化します。


「3つの音で棒を一周する」というパターンを厳密に書くことで、三重環は「120度の間隔で半音がらせんを描くドーナツ」へと変化しました。


さらにゴンゼ氏は、四重環のパターンや……


五重環のパターン


そして六重環のパターンを作成。しかし、それぞれの環が対称の構造を示す図形が六重環までであることに気づいたゴンゼ氏はここで作成をストップしました。


この流れを引きずったゴンゼ氏は、作成したスケッチを出版する時のことを考えて、「topographic cycles 2/2/2000 LUCAS GONZE」(トポグラフ的サイクル 2000年2月2日 LUCAS GONZE」という表紙デザインまで完成させてしまっています。


その後、ゴンゼ氏は地元で開催されたユセフ・ラティーフのコンサートに足を運んだとのこと。終演後、他のミュージシャンと話をしていたラティーフ氏を見つけたゴンゼ氏は、持参していたラティーフ氏の著書「Repository of Scales and Melodic Patterns」にサインをもらい、自己紹介をしたうえでコルトレーンからもらったスケッチについていろいろ質問をしたとのこと。


自身が作成した多重環のスケッチを見せつつ話をすると、ラティーフ氏からはあの手のスケッチはコルトレーンがコンサートの合間によく描いていたもので、その一枚をもらったものであることを教えてもらったそうです。そして、コルトレーンがそのようなスケッチを描くのは珍しいことではなく、「いつも描いていた」とラティーフ氏は語っていたとのこと。

コルトレーンがこのスケッチを描いたのは1960年ごろのことで、これは音楽性がそれまでのビ・バップ寄りのスタイルから、よりスピリチュアルな世界観を持つフリージャズを含む独自の音楽性へと移行しようとしていた時期にあたります。そんな中でコルトレーンはスロニムスキーの「Thesaurus of Scales and Melodic Patterns」に触れ、音楽を数による構造として理解する概念を取り入れていたのかもしれません。

この件を通じてラティーフ氏との親交を深めたというゴンゼ氏はその後、自身の理論をまとめたものに自身の考えをつづった以下の手紙を添えてラティーフ氏に送付したそうです。なお、マルチプレイヤーとして活躍したラティーフ氏は、2013年に93歳でこの世を去っています。

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in メモ,   アート, Posted by darkhorse_log

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