YouTubeは自身が社会に悪影響を及ぼしていることを認識、しかし真の打開策を打ち出すには準備不足か


FacebookやTwitterといったメジャーSNSと並んでYouTubeは、大小さまざまな「偽ニュース」の発信源として人々の批判を集めています。YouTubeの首脳陣もその問題を認識して対策に乗り出そうとしているようですが、政治やテクノロジー、カルチャーなど幅広い分野を扱うメディア・Slateのウィル・オレムス氏は「YouTubeはまだそれに対する心構えができていない」と論じています。

YouTube is only just realizing that it might be bad for all of us.
https://slate.com/technology/2018/03/youtube-is-only-just-realizing-that-it-might-be-bad-for-all-of-us.html

Twitterはサービス提供開始直後より、自社のサービスについて「ニュースプラットフォーム」という意味合いがあることを認識してきました。また、Facebookも2013年ごろから自社のサービスを「パーソナルな新聞」と位置づけてきましたが、両者は2016年のアメリカ大統領選にみられる「偽ニュース(フェイクニュース)」の拡散源としての批判を受け、その対策に乗り出しています。

しかし対照的に、YouTubeはごく最近までその社会的責任について批判を受けることから回避してきたとオレムス氏は指摘します。これは、同じ親会社を持つGoogleが自らをニュース配信に関連がない「テクノロジー・プラットフォーム」と表現すること無縁ではないとみられ、YouTubeはこれまでこの問題に対して本格的に取り組むことを拒んできたとのこと。


しかし、そのYouTubeの認識にも変化の兆しが見えてきています。アメリカのテキサス州オースティンで開催される映画・音楽・テクノロジーの大規模フェスティバル「サウス・バイ・サウスウェスト」(SXSW)においてYouTubeのスーザン・ウォシッキーCEOは、同社が提供しているサービスによって発信される内容の品質と正確さについて何らかの対策を講じる方針をついに公表しました。

これは、2018年1月にYouTuberのローガン・ポール氏が投稿したムービーが批判を浴びたことにも関連があるとのこと。ポール氏は日本の青木ケ原の樹海で自殺した男性の遺体を撮影したムービーをアップしたのですが、人間の遺体を利用してコンテンツを作って配信し、利益を得ていたことに対して世界中から非難の声が殺到。さらには、YouTubeに対してもそのようなコンテンツを配信していた責任を問う声が寄せられていました。

世界中で大炎上中のYouTuberローガン・ポールは日本で一体何をしでかしたのか? - GIGAZINE


大批判を浴びたポール氏はその後、「自殺防止を訴えるムービー」をYouTubeで配信していますが、その後も洗濯用洗剤を飲み込む危険なチャレンジ「タイド・ポッド・チャレンジ」のコンテンツを配信するなど、相変わらずの「通常運転」を続けているとも言われています。一連の出来事の結果、ポール氏はYouTubeからの広告収入を一部カットされるに至っています。

自殺者の遺体を映したムービーで大炎上したYouTuberローガン・ポールが「自殺防止を訴えるムービー」を投稿 - GIGAZINE


これに対するYouTube側の対応は、まだ軸足が定まってないように見えるとオレムス氏は論じています。SXSWで登壇して「世界の人に対する責任」について話したYouTubeのウォシッキー氏でしたが、その中で「私たちはニュース組織ではない」と語っていたことに注目し、他のSNSが問題を認識して対策を進める姿勢との間に隔たりがあることを指摘しています。


その混乱が表れたような一件も起こっています。「ユダヤ人をガスで攻撃しろ」と叫ぶネオナチ過激派のアカウントについてかつてYouTubeは「削除しない」という立場を示していましたが、多くの批判が噴出したことからその意向を覆してアカウントを凍結しています。

YouTubeが「ユダヤ人をガスで攻撃しろ」と叫ぶネオナチ過激派のアカウントを「削除しない」としていた姿勢が一転 - GIGAZINE


また、2018年2月にフロリダ州で起こった銃乱射事件の際にも陰謀論を唱えるムービーが検索上位に表示されるなど、その内容には疑問の声が寄せられているとのこと。ニューヨーク・タイムズ紙に寄稿する著述家のゼイネプ・テュフェッキ氏はYouTubeのことを「重大な急進派」と表現し、プラットフォーム上の「おすすめ」として表示される内容によって人々が過激的な考えに誘導されることを危惧する記事を公開しています。

YouTube, the Great Radicalizer - The New York Times
https://www.nytimes.com/2018/03/10/opinion/sunday/youtube-politics-radical.html

SXSWの中でウォシッキー氏は、問題とされている風潮の一つ「陰謀論の台頭」に対する取り組みとして、YouTube上で表示される陰謀論関連のコンテンツにはその内容に該当するWikipediaのページへのリンクを挿入するという方策を発表。「NASAの月面探査はウソだった」などとする陰謀論ムービーに対して科学的な見方を見せることで陰謀論の落とし穴に人々が落ちてしまわないようにする取り組みではありますが、この方法についても懐疑的な見方が示されています。

陰謀論に関するYouTubeの動画に「Wikipediaへのリンクを貼る」とCEOが発表 - GIGAZINE


このウォシッキー氏の発表について、Wikipediaを運営しているウィキメディア財団は「事前に何も聞かされていなかった」と、YouTubeとWikipediaが歩調を合わせて進める取り組みではなかったことを告白。Wikipediaは人々がボランティアで作り上げているオンライン百科事典であり、ウィキメディア財団はその内容に対するコントロールは持っていないとしています。またオレムス氏は、株式の時価総額が8000億ドル(約80兆円)に届こうとする親会社Alphebetを持つYouTubeが、基本的にボランティアによって成り立っているWikipediaを情報の裏付けとして依存するその姿勢にも懐疑的な見方を示しています。


SXSWの壇上で、同じく登壇していたWIREDのニック・トンプソン編集長から「どの情報が信頼に足るかを判断する方法は?」と尋ねられたウォシッキー氏は、詳細については語らないとしながらも「ジャーナリストとしての受賞歴」や「トラフィックの量」などを挙げていたとのこと。これについてオレムス氏は、批判を集めている状況の中で取る対策としては、説得力に欠けるという旨の見方を示しています。


またウォシッキー氏はその際に「その背景には複雑なアルゴリズムがある」とも答えたとのことですが、これはFacebookやTwitterが後に批判を浴びることになった時と同じロジックの展開方法であるともオレムス氏は指摘。これらの状況からオレムス氏は、YouTubeにはまだ批判に対して適切に対応する準備が整っていないのではないかと危惧する見方を示しています。

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in ネットサービス, Posted by logx_tm