ミステリーの女王アガサ・クリスティの生涯にまつわる謎とは?
アガサ・クリスティといえばエルキュール・ポアロやミス・マープルなどの世界的名探偵を生み出した、「ミステリーの女王」とも評される推理小説家です。クリスティの小説は全世界で累計20億部以上も出版されており、「聖書とシェイクスピアの次に読まれている」ともいわれていますが、そんな「アガサ・クリスティの生涯にまつわる謎」についてThe Edwardsville Intelligencerが述べています。
Book World: Agatha Christie's life rivaled the immortal mysteries she created - The Edwardsville Intelligencer
https://www.theintelligencer.com/entertainment/article/Book-World-Agatha-Christie-s-life-rivaled-the-12735983.php
クリスティの小説は死後40年以上が経った現在でも決して古くさくならず、また絶版になることもなく出版され続けており、全世界で累計20億部を超えるほどの売れ行きを記録しています。近年も「オリエント急行殺人事件」が新たに映画化されたり、他の作家による続編が書かれるなど、全くミステリー界におけるクリスティの影響が薄くなる気配はありません。
クリスティは1890年にイギリス南西部のデヴォンシャーに生まれ、正規の学校に通うのではなく、母親により直接教育を受けました。接する他人は両親や使用人のみという特殊な環境で、クリスティは内気ですが教養にあふれた女性に育ったとのこと。やがてクリスティは1914年にアーチボルド・クリスティ大尉と結婚し、第1次世界大戦中には看護婦として働きました。そこで身につけた薬物や毒薬に関する知識が、後年のミステリー小説に生かされているといわれており、実際クリスティの小説では毒薬や劇物による殺害が頻繁に登場します。
by Geoff Whalan
クリスティの姉も小説を執筆していましたが、クリスティもそれに続いて1920年、ベルギー生まれで灰色の脳細胞を持つ名探偵エルキュール・ポワロの初登場作となる「スタイルズ荘の怪事件」で小説家としてデビューを果たします。クリスティの小説は慎重にプロットが練られ、登場する人物の性格も作り込まれており、とりわけクリスティが表現したかったものとは、「絶対的な信念を登場人物がそれぞれ抱えており、それは時として自分自身ですら無自覚なことがある」という点だったとのこと。クリスティの小説はミステリーとして画期的だったのみならず、キャラクターに対しても細心の注意を払って書かれていました。
クリスティが表したミステリー史上最大の問題作ともいわれているのが、1926年に出版された「アクロイド殺し」です。当時のミステリー界には保守的でトリック重視の風潮が広まっており、誰もが想像すらしなかった手法を用いた「アクロイド殺し」は、「フェア・アンフェア論争」を引き起こしました。しかし、この「アクロイド殺し」が評判になったおかげで、クリスティは一躍人気作家の仲間入りを果たしました。
ミステリー愛好者たちの間に大きな論争を巻き起こし、批評家たちからは激賞されたこの小説を出版したのと同じ1926年、クリスティはまたもメディアの注目を集めました。ある日、クリスティが自動車を運転して出かけたまま、謎の失踪を遂げてしまったのです。人気推理小説かの失踪事件というセンセーショナルな話題は人々の注目を集め、シャーロック・ホームズシリーズの作者であるコナン・ドイルがコメントを出し、クリスティとの不仲説がささやかれていた夫のアーチボルドに疑惑の目が向くなどのほか、捜査機関も述べ数千人を投入して捜査に当たったとのこと。
by Almond Butterscotch
クリスティは失踪から11日後、保養地のホテルで夫の愛人名義で宿泊していることが確認され、家族によって保護されました。失踪の原因は夫アーチボルドの浮気が原因だともうわさされていますが、クリスティは決して失踪当時のことを話すことはありませんでした。当時から現在に至るまでクリスティの失踪は大きな謎とされており、クリスティが死去した後の1979年には、「アガサ 愛の失踪事件」という映画にもなっています。
失踪事件から2年後の1928年、クリスティは夫のアーチボルドと離婚。その後、1930年にクリスティは中東へ旅行に出発し、この時の経験が「オリエント急行殺人事件」の執筆につながったといわれています。同時に中東で考古学者のマックス・マローワンと出会い、同年に再婚を果たしました。
by Michael Abshear
また、クリスティはよく知られたアガサ・クリスティという筆名の他に、メアリ・ウェストマコットという筆名でいくつかの小説を執筆していました。ウェストマコット名義で書かれた小説では、サスペンス的風味も残しつつ、クリスティの破綻した最初の結婚や母親に対する愛情などに影響を受けた、ロマンス的なストーリーが展開されています。現在ではクリスティ名義で出版されている「春にして君を離れ」は、非常に高い評価を受けている作品です。
ウェストマコットがクリスティの別名であることは、クリスティ自身によって固い箝口令が敷かれており、約30年もの間に渡ってクリスティは別名で小説を書いていることを隠し続けました。「アガサ・クリスティは自分自身をあまりにも賢くて制御され、人間の感情について熟知した存在として世間の人々に感じさせました。一方、ウェストマコットは非常に敏感で繊細な存在であり、クリスティが生まれ育ったハロゲイトの地で生まれた幽霊のようなものでした」とアガサ・クリスティの伝記を執筆したローラ・トンプソンは述べています。
by Le Salon de la Mappemonde
クリスティは1920年代から1970年代初頭にかけて小説を書き続けましたが、クリスティが最も小説家として脂がのっていたのは第二次世界大戦前後であったそうです。世界中が無秩序に覆われた中で、クリスティの精緻に組み立てられたプロットは、世界に秩序をもたらし、カタルシスを与えました。しかし、執筆から半世紀以上もたった現在でもなお、クリスティが書いた小説が人々を引きつけるのは、それだけの理由ではないという意見もあります。
The Edwardsville Intelligencerは、クリスティの小説が今なお色あせない理由を、登場人物それぞれに込められた魅力にあるとしています。灰色の脳細胞を持つ自信家でうぬぼれやのエルキュール・ポワロ、村で起きた出来事を観察した知見から遠く離れた場所の殺人事件を解決に導くミス・マープル、そして殺人に手を染めてしまった容疑者の数々。クリスティは名探偵のみならず、「人はやむを得ぬ事情にかられて人を殺すことがある」という事実を小説に描き出し、それが今なお人々にクリスティの小説が愛されている理由なのです。
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