90年前に「女性が芸術を創造するには定収入と1人の時間が不可欠」と主張した女性小説家
by Shawn Harquail
1月25日のDoodle(Googleロゴ)を飾ったヴァージニア・ウルフは、第一次世界大戦から第二次世界大戦の戦間期に活躍したイギリスの女性小説家。当時のロンドン文学界の重要人物とされ、「ダロウェイ夫人」「灯台へ」などの著作で知られる人物ですが、彼女が1928年に出版した「女性が芸術を生み出すには定収入と誰にも邪魔されない空間が不可欠」と述べたエッセイについてQUARTZが記しています。
Virginia Woolf: Google honors the writer who declared woman need money to be free - Quartz
https://qz.com/1189221/virginia-woolf-google-honors-the-writer-who-declared-woman-need-money-to-be-free/
ウルフは「A Room of One’s Own(自分だけの部屋)」というエッセイで、女性が創造的な活動をするためには、金銭的な余裕と「女性であるから」という理由で課せられるさまざまな義務から解放されなければならないと記しました。ウルフがそのような考えに至ったのは、彼女が小説やエッセイを書くために、1年で約500ポンド(現在の価値に換算して約450万円)を紙の購入に費やしていたからだとのこと。また、彼女の執筆活動に理解のある夫レナードの支えもあり、自分専用の書斎も持っていたそうです。これらの経験から、彼女は「女性が創作活動を行うにはまず『お金』と、そして自分一人になれる『個室』が必要だ」という考えを持つに至りました。
ウルフが主張する「個室」とは、「誰にも邪魔されずに自分の考えに没頭でき、かつ自分のことを見張るような人物の目や世の中の煩わしい出来事から離れることができる、創作の障壁になるようなあらゆるものから解き放たれた空間」という意味。そして「お金」は、「定期的な収入があれば女性は自由に自分が求める芸術活動に身を投じることができ、必要な見聞を広めることができるだけの経済的余裕がある」ということ。ウルフは人生を豊かにするような経験が不足していたり、社会的ポジションが低いせいで日々の生活に困窮している状態が、生み出すフィクションの質に影響すると考えていました。
エッセイの中でウルフは、いずれもイギリスの女性小説家であるジェーン・オースティンとシャーロット・ブロンテを引き合いに出します。「高慢と偏見」「エマ」などの著作で知られるオースティンは、サマセット・モームが世界の小説ベスト10に選び「するどい感性とユーモアのあふれる文体は比類がない」と評し、夏目漱石も「平凡にして活躍せる文学を草して技神に入る」と述べるほど文章表現に定評のある小説家。しかしウルフはオースティンよりもブロンテのほうが才能にあふれているとし、残念ながらブロンテの代表作である「ジェーン・エア」には惜しい部分が見られると以下の通り述べています。
「この作品(「ジェーン・エア」)を書いた女性(ブロンテ)はジェーン・オースティンよりも才能がありますが、小説の中にブロンテが持つ怒りの感情が表出してしまっているため、その才能が完全には発揮されていません。怒りの感情が小説の内容をゆがめてしまったのです。穏やかに書くべきところで怒りを持って書き、賢明に書くべきところで馬鹿らしく書き、キャラクターを書くべきところで自分を書いてしまっています。彼女の不幸な境涯がそのようにさせたのです」
一生を平穏に暮らしたオースティンと、激動の生涯を送ったブロンテの違いが小説に表れているとウルフは指摘します。そして「お金がなければ、人は軽薄なものに敬意を払ってしまうのです」という主張につなげました。
by Isabelle Gallino
21世紀の現代においては家庭環境の貧しさが脳に影響を与えたり、貧困地域に住むと貧困から抜け出せず、IQや健康にも悪影響を及ぼすという研究結果などが発表され、貧困が思考に影響を及ぼすということが広く知られています。しかし、1928年の時点でそれを深く理解し、エッセイに著して広く世に知らしめようとしたヴァージニア・ウルフの功績は、もっと広く世に知られるべきなのかもしれません。
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