サイエンス

遺伝子にもDIYの時代、遺伝子操作技術CRISPRで改変したDNAを自分の体に注入した男性


元NASAの生化学者で、退職後はバイオ関連のスタートアップ「The ODIN」を立ち上げたジョサイア・ゼイナー氏は2017年10月、自らの左腕に「改造」を施すべく、遺伝子操作を行ったDNAを注射器で注入する様子を公開しました。その様子には驚きと困惑の声が寄せられると同時に、「バイオハッカー」として遺伝子治療の自由を体現する試みとして評価する声も挙がっています。

The First Attempt At Human CRISPR Gene Editing | Science, Art, Beauty
http://www.ifyoudontknownowyaknow.com/2017/10/the-first-human-to-attempt-crispr-gene.html

‘I want to help humans genetically modify themselves’ | Science | The Guardian
https://www.theguardian.com/science/2017/dec/24/josiah-zayner-diy-gene-editing-therapy-crispr-interview

36歳のゼイナー氏は2017年10月、自身の左腕にとある遺伝子操作を行うべくDNAを注射しました。そのDNAとは、たんぱく質「ミオスタチン」の分泌を抑制するように筋肉の細胞を改変するもの。あくまで「医療行為」ではなく、自分の体を「改造」するためにDNAを注射しています。


その様子を収めたムービーはYouTubeでも見ることができます。

DIY Human CRISPR Myostatin Knock-Out - YouTube


ムービーの中でゼイナー氏は、遺伝子操作したDNAが入ったアンプルと注射器を取りだし、溶液を注射器に入れて……


自身の左手に注射。ミオスタチンは筋肉の成長を抑制するはたらきがあるたんぱく質で、その分泌を抑えることで筋肉量が変化すると見込まれており、その結果はおよそ6か月で判明するとのこと。


ゼイナー氏がミオスタチンの処置を試みたのは、この分野での遺伝子関連の研究が比較的進んでいることが理由の一つだとのこと。すでに中国では同様の遺伝子操作によって筋肉量が著しく増加した犬が作られており、実験を行った科学者によると、犬の体には「健康的な問題はない」とのこと。

CNN.co.jp : 遺伝子操作で犬の筋肉増強に成功、難病治療への期待も 中国 - (1/2)
https://www.cnn.co.jp/fringe/35072689.html


The Guardian紙に「CRISPRで遺伝子操作したDNAを自身に注射したことは実験なのか、それともアマチュア科学者やバイオハッカーができることを見せるための行為だったのか?」と尋ねられたゼイナー氏は「その両方だった」と答えています。先述のようにミオスタチンに関する研究はすでに深まっており、安全性が確保されている点は詳細に確認のうえ今回の実験に及んでいるといい、その上で人々が恐怖を持つことで生じている「障壁」を取り去るために実行したかったとゼイナー氏は語っています。

また、「遺伝子の働きをいじることで、他の部分にも波及効果による影響があると考えられるが、その点について理解はできているのか?」という問いに対しては、「これは複雑なことであり、まだ未解明な部分も残されています。その上で、実験を行う際にはマイナス面の影響についても『起こり得るリスクは、実験の実施を優先するにふさわしいほど微々たるものであるか?』という検討を行いました。その結果、部分的な注入に関してはゴーサインを下す判断をしました」と回答しています。今回は左腕だけの処置でしたが、全身に同様の処置を施すと心臓など筋肉でできた臓器にも影響が及ぶ可能性があり、リスクはより高くなると判断したそうです。

By Elaine Smith

ゼイナー氏は、人々が自分で遺伝子治療や実験行為を行うことを支持する考え方の持ち主とのこと。その理由について尋ねられたゼイナー氏は「この手の実験を行う際には、私たちは次の2つの事柄をてんびんにかけています。それは、『自分たちで実験を行うことや、製品の販売を早めることで死に至る人がどの程度いるか』と、『遺伝子疾患を持つ人がおり、治療方法へのアクセス方法がないことで命を落とす人がどれほどいるか』という2つの要素です。私はそこに、『人々に苦しみを与えないための過剰な保護』と、『今死んでいっている何百万人もの人の命』という大きな偏りがあると考えています」と答え、先進的な手法の研究を進めることの需要さと、それに対するリスクの取り方についての考え方を語っています。そしてその背景にあるものとしてゼイナー氏は自分が1990年代のハッカームーブメントを肌で感じながら育ってきた世代であり、Linuxを作り上げたリーナス・トーバルズ氏らの存在に自身を重ね合わせつつ「バイオハッキング」の重要性を強調しています。

なお、ゼイナー氏がこのような取り組みを実施したのは今回が初めてではありません。2016年には、他人の腸内細菌を自身の消化管内に移植する便微生物移植を実施することで「人体改造」を行っており、健康状態が改善されるに至っているとのこと。同様のことを他人に勧めるつもりはないと語りますが、自分自身や目の前に困っている人がいるときに、その手法を試すことについてゼイナー氏は一定の理解を示すと語っています。

「もしDIY遺伝子操作が一般的になったら、世の中はどんな世界に?」という問いに対してゼイナー氏は「私にとって、その世界は『ブレードランナー』のようなものになるでしょう。たとえば、裏道の科学研究所に入ると、そこでは眼球を作ってる人物がいる、というような。私は将来、今の人がタトゥーを入れに行くような感覚で、筋肉を強くしたり髪の毛や瞳の色を自由に変えるための遺伝子を注入する時代が来ると思います」と展望について話しています。

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