将来の臓器移植のドナーはブタかも、遺伝子編集技術CRISPRで「異種移植」の実現に進展
by Lee
ブタの臓器を人間に移植するような「異種移植」の実現に向けて、大きな一歩がありました。異種移植は、移植を行った際に患者が拒絶反応を起こすという問題の他に、ブタ内在性レトロウイルスが患者に感染しがんや免疫不全など思いがけない病気を起こすのではないかという問題が懸念されていましたが、アメリカの研究チームは遺伝子編集技術「CRISPR」を用いてブタのDNAに隠れた内在性レトロウイルスを除去することに成功したとのこと。
Inactivation of porcine endogenous retrovirus in pigs using CRISPR-Cas9 | Science
http://science.sciencemag.org/content/early/2017/08/09/science.aan4187
GM pigs take step to being organ donors - BBC News
http://www.bbc.com/news/health-40886600
Pig organs could soon be transplanted into humans after major ‘xenotransplantation’ breakthrough | The Independent
http://www.independent.co.uk/news/science/pig-human-transplant-organs-xenotransplantation-crispr-cas9-pervs-porcine-retrovirus-a7887071.html
人間の臓器移植において「臓器を提供してくれるドナーを探すこと」は非常に難しく多くの時間を要します。ドナーが現れるのを待っている間に患者が亡くなってしまうことも多いため、問題の解決手段として研究されているのが、ブタの臓器を人間に移植するというような「異種移植」です。
動物の臓器を人間の体に移植するという考えは1960年代から存在したのですが、動物の臓器をそのまま人間に移植すると拒絶反応が起こるという問題が横たわっていました。当初は人間に近いヒヒやチンパンジーから心臓を移植する、という考えだったのですが、研究が進むにつれ、ブタの心臓は人間の心臓に近いサイズであること、ブタは成長が早く調達が容易であること、移植した際に人間に脅威をもたらすウイルスに感染するリスクが他の動物よりも低いこと、などからブタをドナーとして使用する可能性について研究を行う科学者が増加。2002年には2つのバイオ企業が人間の体内で拒絶を起こさないブタの臓器を生産したと発表しています。
一方で、ブタの臓器移植において懸念すべきもう1つの問題として、ブタ内在性レトロウイルスの存在があります。内在性レトロウイルスは、進化の過程でレトロウイルスのゲノムをDNAに転写したものが宿主の細胞核ゲノムに組み込まれることで、宿主の子孫によってウイルスのゲノムが遺伝的に受け継がれてきたものを言います。ブタから人間への臓器移植を行うことで、レシピエントがブタ内在性レトロウイルスの影響を受けるのではないかと考えられているわけです。
しかし新たにScienceに発表された論文によると、eGenesis Bioの研究者チームは、遺伝子編集技術「CRISPR」を利用して遺伝情報の中に隠れた25個のブタ内在性レトロウイルスを特定し、削除することに成功したとのこと。実際に、ブタ内在性レトロウイルスを持たない37匹の子豚が生み出されました。
研究を行ったハーバード大学の研究者であるLuhan Yang教授は「これらのブタは世界で初めての、ブタ内在性レトロウイルスを持たないブタです」「そして変更が加えられた数々の動物の中でも、最も遺伝的に編集されたものです」と語っています。
記事作成時点では、アメリカでは10万人以上、イギリスでは6500人以上の人々が臓器ドナーを待っていると言われています。今回Yang教授らのチームが発表した内容はまだ研究の初期段階と言えますが、将来的には臓器移植を待つ患者のいない、「臓器が足りない事態」が起こらない世界を目指していると語られています。
遺伝学を研究するDarren Griffin教授は今回の発表について、「これは異種移植を現実のものとする可能性への大きな一歩です。しかし、現実に異種移植が行われるようになるまでには、倫理的な問題など、数々の解決すべき問題が存在します」と語りました。またケンブリッジ大学で獣医学を研究するIan McConnell教授は、ブタ内在性レトロウイルスを除去されたブタを移植して安全かどうかはまだ分からないという見解を示しています。
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