「考えるだけ」でプレイできるゲームはVRの未来となるのか?
脳波で物をコントロールできるヘッドセットや考えるだけで自由自在に動かせるロボットアームなど、脳波を検知することで人間の思考と機械の動きをダイレクトに結び付けるようなプログラムや機器を「ブレイン・マシン・インタフェース(BMI)」と呼びます。近年、医療やIT業界でも注目されているBMIですが、ゲーム業界でも「考えるだけでプレイできるゲーム」の開発が行われています。
A Game You Can Control With Your Mind - The New York Times
https://www.nytimes.com/2017/08/27/technology/thought-control-virtual-reality.html
電気技術士であり神経科学者でもあるRamses Alcaide氏が設立したNeurableは、ユーザーが心の中で考えていることを読み取り、手などを使わずに考えるだけでプレイできるVRコンテンツの研究・開発を行う企業で、実際にコントローラーやジョイスティックなどなしの、思考のみで全ての操作が可能となるVRゲームを開発しました。
このゲームをプレイするにはユーザーの脳波を検知することができるセンサーをVRヘッドセットに組み込む必要があります。また、脳波を検知できるVRヘッドセットであっても、できることには限界があり、頭の中に浮かべる考え事が絞り込めていない場合はユーザーの行いたいことを的確に読み取ることはできないそうです。
それでも、この脳波検知VRヘッドセットはしっかり動作しており、実際にNew York Timesのライターは「Awakening」というゲームをプレイ。さらに、Neurableが2017年8月に開催されたSIGGRAPH 2017に出展した際には数百人のプレイヤーが頭で考えて操作するVRゲームに挑戦したそうです。
以下がその時のムービー、ちゃんと動いているのがわかります。
HTC Vive Modified With Neurable Reads Your Mind At SIGGRAPH - YouTube
近年、Neurableのような考えるだけで対象を操作するBMIの研究に多くのスタートアップやFacebookなどの大企業がこぞって取り組んでいます。BMIはVRにおける最良の操作方法になる可能性を秘めており、MITメディアラボの生物工学・脳認知科学の専門家であるエド・ボーデン教授は、「ニューロテクノロジー業界がにぎやかになってきた」と、同分野がゲーム業界以外でも注目を集めるようになってきたことについて言及しています。
ニューロテクノロジーへの関心の高まりは、2013年にオバマ政権がスタートした「脳インターフェース関連の企業と学界が協力するための政府資金調達の動き」からより活発になっていったそうです。その後、Neurableの他にもテスラやスペースXの創始者として知られるイーロン・マスク氏による「Neuralink」など、多くのニューロテクノロジー関連スタートアップがベンチャーキャピタルからの関心を集めるようになりました。Neurableに投資しているベンチャーキャピタルのひとつであるLoup Venturesの創設者は、「スマートフォンでは、できることの限界に到達しています。つまり、これらの企業(BMI関連企業)が次のステップとなるのです」とNew York Timesにコメントを残しています
一部の企業はさらに進んだ技術の開発を計画しており、ほぼ全てのコンピューティングタスクを頭の中で考えるだけで実行する方法を構築したいと考えている企業もあります。例えばどのようなことが可能になるのかと言うと、普段はスマートフォンの画面上で指を滑らせて行う文字入力などのタスクを、考えるだけで即実行可能というものなどです。また、テスラのマスク氏はあるインタビューの中で、Neuralinkが健常な人の頭蓋骨にハードウェアを埋め込むことでBMIを実現する方法を模索している、と語っています。
By affen ajlfe
それに対して、ボストンに拠点を置くNeurableでは脳波ヘッドセットの限界に挑戦しています。ヘッドセットに取り付けられたセンサーは実際のユーザーの頭部に何かしら電極を埋め込むようなものではなく、頭蓋骨の外側から電気的な脳活動を読み取るだけのものです。頭の外側から検知するため信号とノイズを分離する作業は非常に困難な模様。しかし、Neurableの創業者であるAlcaide氏が学生の頃に行った研究の中で作り出したアルゴリズムを駆使することで、通常では不可能なレベルの速度と精度で脳の活動を読み取ることが可能になるそうです。
Alcaide氏が研究の中で作り出したアルゴリズムというのは、ユーザーの行動から脳波のパターンを学習することで、特定の動作により起きる脳波をより正確に検知するというもの。ユーザーは実際にVRヘッドセットを装着してゲームをプレイする前に、チュートリアルのようなテストを行い、その中でユーザーがオブジェクトに注意を集中させる環境を作ることで、オブジェクトに集中している際は脳からどのような信号が発せられるのかを学習し、ゲームプレイ時の精度を上げるというわけです。Alcaide氏は「我々は特定の脳の信号を認識し、一度認識してしまえばそれを使えるようになる」と語っています。
なお、Neurableが製作した脳波検知VRヘッドセットのプロトタイプは、ヘッドセット部分にHTCのVIVEを使用し、これに7つの脳波センサーを組み合わせて作っただけのもので、特別な機器は一切使用していません。
さらに、一部の企業はNeurableが取り組んでいる以上のものを目指しています。例えば、Facebookは頭蓋骨の外側から脳の活動を光学的に読み取る方法を開発しています。この技術についてFacebookのレジーナ・デュガン氏は、「あなたの脳から文字を直接入力することができるとしたらどうですか?」と語り、スマートフォンのキーボードを使うよりも5倍も速く文字入力可能な「思考を用いた入力システム」の開発を計画していると述べています。
ただし、デュガン氏が想像しているような技術は現時点での研究領域をはるかに超えており、多くの神経科学者たちは「このスピードを実現しようと思ったら頭蓋骨の中にデバイスを埋め込むしかない」と主張しています。しかし、先述のマスク氏によるNeuralinkのように、インプラント式のBMI技術の研究も着実に進んでおり、既に医療分野では脳に電極などを埋込むことで、失明や難聴、麻痺などの症状を治療する試みが行われています。
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