デジタル・フロンティアに「GANTZ:O」をどう作ったのか徹底的に聞いてきた その3・モーションキャプチャー編
映画「GANTZ:O」を制作したデジタル・フロンティアへの取材で、合計8つのセクションの方々にお話を伺うことができました。「その1・キャラクター編」「その2・背景編」に続いては「その3・モーションキャプチャー編」。モーションキャプチャー室の越田弘毅さんに、実際にモーションキャプチャー時の様子を撮影した映像を見せてもらいました。
実際にモーションキャプチャーの様子がどんなものなのかは、デジタル・フロンティアのGANTZ:Oメイキング記事向けにYouTubeで映像が公開されています。
CGMAKING_GANTZ:O_02 - YouTube
CG制作部 モーションキャプチャー室 室長 越田弘毅さん(以下、越田):
いろいろと言葉で説明をする前にどのようにキャプチャーを行ったのか、その風景を見ていただいた方が分かりやすいと思いますので、まずは映像をお見せします。
プロダクションマネージャー 舟橋俊さん(以下、舟橋):
うちの会社はたぶんアジア最大級であろうというモーションキャプチャースタジオをお台場の方に持っているんです。
川村泰監督(以下、川村):
おっ、映像が始まったけれどちょっと途中っぽいところだ(笑)
舟橋:
これはどのシーンでしょうね?
越田:
これは……網切りのところですね。
舟橋:
奥先生のおすそわけ動画でも出てきた、両手が鎌みたいになっている奴です。
網切りの姿は本予告編の34秒あたりでも確認可能です。
『GANTZ:O』本予告 - YouTube
GIGAZINE(以下、G):
あぁ~。
舟橋:
続いては山咲ですね。
越田:
冒頭から順番通りに再生するつもりだったんですが、ちょっとわかりづらいところから始まってしまったかもしれません。すみません。
川村:
これはこれで良いんじゃないかな?
G:
大丈夫です。
越田:
今回、撮影自体ではそんなに変わったことはしていないんですけれども、特徴的なこととしては、ヘッドマウントカメラで最大5人同時に撮影をするというパフォーマンスキャプチャーを行いました。アクションコーディネーターの方は、日本で第一人者の方なのですが、このようなパフォーマンスも手伝ってもらっているという……。
川村:
業界では有名な方なんです。
越田:
それで、リアルタイムでラフなCGを確認しつつ撮影をしていきます。
川村:
これは……本編ではカットになった、加藤と歩くんが食事をしているシーンですね。
舟橋:
実際にはないですね。
G:
キャプチャー時もリアルタイムであそこで流れているんですか?
越田:
そうです。
G:
すごいですね。
越田:
続いては、玄野です。
G:
ここは最初のシーンですね。
越田:
玄野はバイクに乗ってくるので、それを再現するために、実際に揺れるような構造を作ってやったりします。
川村:
越田さんのチョイス、良いですね!
舟橋:
次は室谷が天狗に掴まれているところです。
G:
ありましたねー、ちょっと絶望を感じるところです……。
越田:
子役の方にも参加してもらっています。ぬらりひょんのモーションキャプチャーもありますが、これは後でかなり編集をかけています。
川村:
ここはやっぱり動きのメリハリとかがギリギリだった。
越田:
撮る時はこう撮るしかないんですよね。
G:
こんなに撮るものなんですね、すごい!
川村:
ぬらりひょんと島木との戦いなんですが、このよたよたとした動きがいいなと思いました。本当に疲れた動きなので。
越田:
そのために長回しで撮ったんですよね。
川村:
意地悪だよね(笑)
G:
これは、いつカットがかかるんだ?という感じですね。
越田:
そして、これがお歯黒です。山咲役の桂亜沙美さんにやっていただいたんです。
川村:
本当はお歯黒って、190cmぐらいの身長なんだけどね。
越田:
山咲役のときにもすごく良い演技をするんですけど、こちらのお歯黒が素晴らしすぎて、記憶が上書きされてしまうんです(笑)。ここは烏帽子戦ですね。
舟橋:
ちょうど、このあたりのシーンは新宿でやっている「GANTZ:O_VR」でも体験できるので、ぜひ足を運んでいただきたいです。
越田:
ここは、奥のスクリーンに、リアルタイム表示で大きいキャラを入れるようにしました。
川村:
あれは良かったですね。あれで見られるから。
G:
これはすごい。
越田:
キャラクターの身長差と役者さんの身長差が異なっていると、ときには端から見ると「ん?」ということもあります。たとえば、二人が向かい合っているシーン。これは本当は左に大きな敵キャラが立っていて、右に立っている加藤の額のあたりを指さしているというシーンです。ところが、実際には役者さんはあんなに大きいわけではないので、股間を指さすかのようになってしまいます。
舟橋:
ちなみに、敵キャラ役の役者さんがカバンを持っていますが、生首の代わりです。
G:
なるほど、すごく大がかりですね。
舟橋:
撮影期間は、芝居が10日間で、アクションが5日間でした。
越田:
ここからはぬらりひょんの素材撮りです。
川村:
ぬらりひょんが宙に舞うところですね。
G:
これはすごい。
川村:
どう撮るかも結構とんちが必要なんです。
G:
こんなに速く動いていたんですね。
越田:
役者さんが構えているのはZガンです。発注して作ってもらったところ金属製のものができてきて、結構重量があります。後ろのCGは、無線コントローラーで好きなアングルで見られるようになっています。
G:
なるほど。
越田:
今回、プロのカメラマンさんに2名入ってもらって、ずっと顔のアップを押さえてもらいました。これは、ハリウッドの大規模な作品では演者の人数分のカメラを入れてやるのですが、コストのかかる撮影方法なので、さすがにそこまではできませんでした。
舟橋:
1つの撮影に対して、定点カメラが正面と横にあって、さらにカメラマンが2人という、合計4つのカメラのアングルで撮影しているというわけです。
川村:
これだけでも素材が4種類できあがるので、それを僕が編集して芝居のテンポを決めていきます。
越田:
それに加えてヘッドマウントカメラの映像も人数分ありますね。
G:
素材だけですごい数の映像ができあがってきますよね……。
舟橋:
カメラマンがプロなので、大体コンテ通りに拾ってくれます。
G:
あらゆるシーンが存在しますね。
越田:
冒頭部、レイカが先に転送されてしまうシーンでは、2人の役者さんが近い距離で芝居をしています。こういうシーンでは、ヘッドマウントのアームがぶつからないように気をつけるのが大変なんですが、うちのヘッドマウントはアームがかなり短いのでなんとか成立しています。
G:
ヘッドマウントには顔の方を向けて照明がついているんですね。
越田:
撮影期間中は、役者さんは「照らされても平気です」とおっしゃっていたんですが、後日改めて聞いてみると、しんどかった、という話でした。強い光を見てしまうと、体質的に頭が痛くなる人もいますしね。
舟橋:
このヘッドマウント関連は全部お手製なんです。
G:
すごいですね。
越田:
市販のヘッドマウントを買おうと思ったんですけど、上司から許可が下りなかったのと、僕自身がその商品のことをあまり気に入っていなかったので、システム部分はすべて手作りしました。カメラ部分はGoProを使っているのですが、元々の仕様で無線の制御がスマートフォンなどのモバイル端末からしかできないんですよ。でも、それでは撮影が成立しませんから、1台のPCで複数のGoProを無線制御できるようなツールを作りました。さらに、モーションキャプチャーシステムと同期して自動で収録するツールを完成させて、ようやく撮影に漕ぎ着けたという感じです。
川村:
私はそこが一番すごいんじゃないかなと思っています。
G:
編集部でもGoProは初代からすべて使ってきてなじみがありますが、そんなツールを生み出して使っているとは……。
川村:
ヘッドマウント自体も部分的に3Dプリンターで作っているという話を後で知ったときにはびっくり仰天でした。
G:
手作りというか、フルカスタムメイドというか……すさまじい……。
舟橋:
そして、スタジオにはT160というカメラが100台あります。
越田:
1台約800万円します。
川村:
あまり出るものじゃないからね……。
舟橋:
国内でこれだけまとまった数を所有しているところはないです。
越田:
ハリウッドのスタジオでも、この規模のシステムを揃えているところはそんなにありません。
舟橋:
モーションキャプチャー業務もやっていますので、「映画を撮りたいので、システムを使いたいのですが」という問い合わせもいただきます。
G:
好評ですか?
越田:
「ダントツの精度」という評価を頂いています。
舟橋:
あと、これだけのカメラの数を生かした「10m×15m範囲撮影」ができるというのも、他にはない点だと思います。
越田:
やったことはないですが、理論値では余裕で最大20名まで同時撮影ができます。
G:
やや過剰かもしれないというぐらいのスペックで作っているんですね。
越田:
そうですね(笑)
川村:
でも、これぐらいじゃないとモーションの精度というか「あるクオリティのモーション」が出ないんです。「アップルシード」の時、カメラは何台でしたっけ?
越田:
12台ですね。
川村:
あのときは「一歩走ったらエリアから出てしまう」という感じだったんです。そのときのデータを見たことがありますが、今のデータを見るとまったく別物だなと思います。
越田:
当時の撮影範囲は7m×4.5mの四角形の内側に収まる楕円形のエリアで、かなり狭かったです。
G:
なるほど。
川村:
今の性能がなければ、「GANTZ:O」のような映像は量産できないですね。
越田:
撮影エリアが広いことによって、カットをぶつ切りに撮影する割合が減り、後処理の効率が良くなります。
川村:
一発でその部分を撮るので、芝居もどんどん自然になっていくという利点もあります。カットバイカットだと芝居が切れてしまうんですよね。
G:
他にもモーションキャプチャーで作っている作品はあるはずなのに、いったい「GANTZ:O」は何が違っているのかと思ったら、答えは「根本から違っていた」と……。
川村:
ハードが良くないとダメなんです。
G:
圧倒的ですね……。初期と比べて、キャプチャーシステムをバージョンアップしているのでしょうか、それとも拡大という感じでしょか。
越田:
これまでに3回バージョンアップしています。
G:
4代目でこのレベルにまで至ったということですね。
越田:
そうです。1世代前のシステムでも国内ではダントツでした。
G:
すさまじいですね。
越田:
本当にありがたいことです。これがモーションキャプチャーの際に使っていた小道具で、業者に発注して作ってもらったものです。
G:
全部金属で相当重いと言っていたやつですね。
越田:
でも、良い重みでした。
川村:
本当に重いと芝居ができなくなってしまうんですけど、軽いと芝居の上でも軽く見えてしまうので、その点ではまさに「ちょうどいい重さ」でした。
G:
「リアルな重み」だったんですね。
越田:
ちなみに、Zガンは金属製ですが、Xガンなど黒い武器はウレタンでできているのでとても軽く、アクションの中でも使えるものです。
G:
いろいろあるんですね。こうして見せてもらうと「技術の勝利」だったのだなと実感します。
越田:
「パフォーマンスキャプチャー」という手法が大きいと思います。身体と顔のデータを同時に撮っている上に、目線のデータも撮れるという点です。
G:
アイトラッキングのように撮れると。
越田:
そうですね、そのおかげで身体と顔のデータがシンクロしました。今までは別々に撮っていたので、どうしてもちぐはぐになってしまうイメージがあったんです。
G:
なるほど、データのシンクロ。
川村:
これはそうそうやれないですよ。
越田:
やろうとすると、普通は海外の技術者を呼んでやらないとできないんです。
G:
システムを見て、そこから生み出された映像を見ると「みんな、ちゃんとお金を出しましょう」と言いたくなりますね。「お金を出せば、ちゃんとモノは良くなるんだ!」と。
川村:
本当にそうなんです。
G:
最後に、クオリティアップのためにやったことで「これだけは伝えておきたい」ということはありますか?
越田:
モーションキャプチャーに力を入れていたプロジェクトなので、とにかくこれに尽きます。身体と顔を別々で撮っていた今までのやり方だと、海外の方から「ちぐはぐに見えるね」という感想をいただくことがありまして……。
G:
なるほど。
越田:
それをストレートに伝えてくれたおかげでショックを受けて、力を入れることができました。
G:
それで今回クリアできたと。
越田:
そうですね。
G:
今回、これだけいろいろなものを積み上げて、もう隙がなさそうにも見えますが、「次はこれをクリアしないといけない」という課題は何か出てきましたか?
越田:
ヘッドマウントカメラにもいろいろなジャンルがあって、マルチカメラというシステムもあるのですが、そういう方向を考えるというのが1つですし、全く違うキャプチャーシステム。シーケンシャルスキャナ的なものも世の中には出始めているので、まだ精度は追いついていないですがそういうものに手を出していくのも1つかなと思っています。
G:
ということは、今後、さらに精度は上げられる?
越田:
はい、ヘッドマウントに関しても、今現在使っているワークフローは「GANTZ:O」を撮影していたころよりもかなり精度が上がっています。
G:
日々どんどん上がっていくんですね。監督から、モーションキャプチャーになにか注文をしたという点はありましたか?
川村:
顔と身体を同時に撮れるというのは僕からしても長年の願いでした。顔だけの収録というのはどうにもわけがわからず、演出もしづらいですし、どうしても違和感が拭えなかったんです。役者さんも、顔の芝居を撮るから身体はあまり動かせない状態で「ちゃんとした表情を!」と言われるのは、相当やりづらかったのではないかと思います。
越田:
器用さが求められますよね。
川村:
おそらく、携わるみんながそれぞれにモヤモヤしながらやっていたものがストレートにできるようになって、これぞ念願の、という感じです。
G:
なるほど。とうとう求められていたピースがはまったという感じなんですね。ありがとうございました。
・つづき
続いてのその4は「アニメーション編」。いよいよアニメーションへ起こしていく工程です。
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