インタビュー

デジタル・フロンティアに「GANTZ:O」をどう作ったのか徹底的に聞いてきた その2・背景編


2016年10月14日公開の映画「GANTZ:O」を制作したデジタル・フロンティアの各部門のスタッフの方々へのインタビュー企画、「その1・キャラクター編」に続いては「その2・背景編」で、背景アーティストの源良太さんにお話を伺ってきました。ちなみに、このトップ画像も、作中に出てくる背景の1つです。

GIGAZINE(以下、G):
「ロケハン画像や3Dの大阪の俯瞰画像を見ながら大阪の街を作る大変さ」についてお話いただくということで、確かに私たちの編集部は大阪にあるので見慣れていると言えば見慣れている光景で、「すごい再現度だな……」と思いながら観ていました。

CG制作本部 CG部 背景アーティスト 源良太さん(以下、源)
背景制作の流れとしまして、脚本が上がってきた段階で漫画を読みながら「原作と似た場所に行こう」ということになり、どこが出てくるのかというのを洗い出してそこに実際にロケハンに行ってみようということで始まりました。それでロケハン用マップを作って、「ここの範囲までが3Dで作る範囲かな」と想定して、実際にロケハンに行きました。ロケハンは一泊二日で、昼と夜に分けて撮影を行いました。昼は実際に3Dに貼り付けるテクスチャを撮影して、あとは細部のディテールをメインで撮っていって、作品の中では全部夜なので、夜の撮影では雰囲気を参考に撮っていきました。露出を暗くして撮影すると実際の明るさの色温度とかが分かるので、露出を変えて3枚撮ったりもしました。


G:
これだけのエリアを一泊二日ということでしたが、これは何名で撮影に行かれたんですか?

プロダクションマネージャー 舟橋俊さん(以下、舟橋):
ロケハン自体は2回行っていて、背景を作るために2014年の5月ぐらいに一泊二日でまずロケハンに行って、その時は源さんほか7人ですね。

源:
背景班からは3名でした。

G:
撮影するときにどの辺りを見ながらというか、どんなものに注目しながら撮影しているんですか?

舟橋:
大きく言うと、源さんが今見せている様な、大体の雰囲気を掴めるものと、川村さんと高橋さんが、アート的に見栄えのするものは何だろうというものを風景で撮っていたりします。後は、数歩歩く毎に壁を全部撮影していきます。


源:
そうですね。

G:
数歩歩く毎に壁を撮っていく!?まるでGoogleストリートビューみたいな感じですね。

源:
3Dに実際に貼り付けるための素材として、例えば戎橋のこういう部分を寄って撮ったりとか。

舟橋:
当然、横を撮ったら下を撮って反対側を撮って上も撮って、みたいなことを全部します。

G:
「撮影」というよりは「素材取り」みたいな感じで撮っていくんですね。

源:
そうです。それを行ったのが大体昼間ですね。

G:
昼間も撮るというのはそういうことなんですね。実際に大阪へは何度か行かれたことはありましたか?

源:
今回で2回目なので、土地勘はまったくなかったです。一応、行く前に一度Googleマップのビューで見て、「こういう感じかぁ」と把握はしていましたが、大阪出身のスタッフがいたので、その人も連れて行きました。

舟橋:
後は現地のコーディネーターさんについてもらって、その人に「絶対撮影しちゃいけないエリアというのがあって、そこは行かない方が良い、撮ると怖い人が出てくる」という情報を教えてもらいつつ、「このビルは撮らない方が良い」とか。実際に背景に起こすとき、建物の形自体の権利があったりするので、それがOKかどうかを調べてもらい「この建物は再現したらまずいよ」と言われたら「どこか変えて」とお願いしたりというのもありましたね。

G:
なるほど。

源:
あとは特徴的な看板とかがやっぱり大阪だと多かったですね。

G:
立体的な看板が多いですよね。

源:
こういうのはそのまま作ったりしたらいけないので、特徴を捉えつつ化粧を変える感じで制作しました。

舟橋:
たとえば、餃子が焼売になっていたりします。

G:
あはは(笑) 看板に注目すると、確かに違いがありますね。遠目に見たらまったく気付きませんが。

源:
「いか道楽」は原作のままにしました。


あとはここにあるんですけど、ドンキホーテですね。それで、これが御堂筋で、これが新世界の串カツ屋さんです。ロケハンの時にも実際にお店の中に入れてもらって、揚げているところも撮影しました。

G:
これはすごい……。

御堂筋・道頓堀橋上空あたりから道頓堀を望む1枚。中ほどに戎橋がかかっていて、川の左手奥のほうには特徴的な観覧車が。


舟橋:
看板とかチラシとかも全部一応リニューアルしてあるので、引きで見えないですけど、馬券売り場の中の注意書きとかもちゃんと描いてあります。

源:
今回作成した、その看板とかに使われるグラフィック画像の総数が大体1300枚ぐらいです。

G:
完全にリアルに街1つ再現した感じですね。これだけで写真集が作れそうな。

源:
全部これを1から作っている訳ではなくて、1から作っていくとコストがすごくかかってしまうので、汎用的に使えるものとしてビルとか小物や看板とかをまず作って配置をして、後は実際にアニメーションのチームが付けたカメラをベースに、映るところをより良いものにブラッシュアップしていくという流れで作っています。

G:
これは圧巻ですね。劇場だとずっとこちら(キャラクター)にピントが当たっているので背景を見る機会はなかなかないですけど、これは背景に完全にピントが合っているのですさまじいです。もう風景写真ですよ。

源:
そこまで言っていただけると本当に嬉しいです。ありがとうございます。

G:
こんなに生々しく本物っぽいとは思わなかったので、この作り込みはすごいです。

源:
横に死体が置いてありますよね。

G:
置いてありますね(笑)

死体は右下、デジタル・フロンティアのロゴがある位置に置かれています


源:
これはキャラクターチームが作成したものを実際に死体のポーズを付けてもらって配置してあります。

G:
このスクリーンショットをTwitterとかにアップしたら「今道頓堀が大変なことになってる!」と大騒ぎになりそうですね。

源:
あとは情報量を増やすために、あえて濡らした地面にするとか、そういう拘りはあります。

舟橋:
元々監督からのオーダーで、「雨上がりの深夜ぐらい」というシチュエーションだったんですよね。

川村泰監督(以下、川村):
水を撒くと見栄えが増すので。

G:
この辺りもすごいですね。

源:
今回は結構同じ場所が何度も登場して、物語が進むにつれてどんどん破壊していかないといけなくて、そういうバリエーションを作らないといけないのでとても苦労しました。

G:
あらゆるバリエーションが必要ですよね、時間の進行であちこちがどんどん壊れていくので。

源:
これが破壊された戎橋です。

G:
静止画で見るともっとすごい……こんなになっていたんですね。

舟橋:
作中では実際にここに炎がエフェクトで足されたりします。

G:
これを見ると、あの異様な空気感の原因の一端はこれにあるんじゃないかという気がしてなりません。

川村:
僕はそうだと思います、すごく作り込んでる。

G:
空気感が妙にあるのは、これはどういうディテールアップをしているんですか?

源:
絵の密度と言いますか、物量ですかね。

G:
作る時にどの辺りを物量としてアップして細部を加えていくんですか?

源:
例えば、ビルとか自転車もそうなんですけど、血の表現とか、後は地面に落ちているゴミとか血の池とかそういうところですかね。

川村:
ゴミの効果は結構大きいと思います。

源:
そうですね、最初はゴミがなかったんですけど、どうしても情報量が足りないということだったので、汎用的なものを作成して各アセットを作っていくときにレイアウトしながら、そういうディテールを足していきました。

G:
なるほど……。この絵(加藤と山咲が立ち話をしていたコインパーキングの背景絵)、すごいですね!どこにあるんだろう。

舟橋:
これは実際にもこういう場所があって、公衆電話はこの場所ではなかったんですけど。

源:
実際にこういう駐車場がありまして。

川村:
心斎橋アーケードの反対側のアーケードの外れの道側ですね。これは漫画を見て「ここだ!」と思ったんでしょ?

源:
漫画にも描いてある場所で、Googleマップのマップ上で練り歩いて探してたら「あ、ここだ」と思って。

舟橋:
Googleマップで探してたのか。

G:
Googleマップで練り歩くという表現がすごいですね。

舟橋:
さっき源さんが表示してたZTマップというのがあるんですけど、それで場所を特定して、何戦はどこでやられているというのを調べていました。


G:
なぜマップの名前が「ZT」なんですか?

舟橋:
あ、GANTZのプロジェクト名が「ZT」なんですよ。

G:
あ、そうなんですね!それで「ZTマップ」。なるほど。この水色の部分を作ったんですよね。

源:
そうです。

G:
すごく広い面積で、これだけで売れるんじゃないかというデータ量だと思うんですけれども。

源:
実際にはこれを全部作ったんですが、1シーンの中に全部収めてしまうと、シーンをオープンするのにすごく時間がかかるので、実際は細かくアセットを細分化して、カメラから見える範囲だけをデータとして読み込むという手法を取りました。

アセット俯瞰図


制作された範囲はこれぐらいあります。こうしてみると、御堂筋(左側を南北に貫く道路)と戎筋(御堂筋の右側にある南北方向の道路)、道頓堀(中央を左右に貫く川)に面した部分が作られていることがわかります。


G:
さっきのスクリーンショットを見ると全部凄まじいクオリティなんですけれども、実際に作ってみて「これは大変だったよ」というのはどのシーンでしょうか。

源:
全部大変だったんですけれども、一番は戎橋から見る背景ですかね。戎橋もやっぱり破壊のバリエーションが多くて、細かく言うと8つとかありました。これが転送されてきて妖怪が一通り暴れた後なんですけど。


舟橋:
ビニール傘とか。

源:
そうですね、ビニール傘とかが置いてあったり。

G:
本当だ。

源:
お茶の缶とか。

川村:
お茶の缶を置きすぎて、変な雰囲気になったこともあります(笑)

源:
そういうリテイクもありました。

G:
逆に言うと、置いている時はその方が良いだろうという判断だったんですよね。

放置されている自転車やビニール傘にも注目。


川村:
置かないと生活感みたいなものが出ないんですよ。

源:
その次にZガンという武器で攻撃を受けた後で、こういう丸の形の穴が開くんです。そして、これがさらに妖怪が一暴れした後ですね。

G:
わぁ、いっぱい死んでる。

源:
確かにグロいです。

G:
こうやって見ると圧巻ですね。本当にGANTZ写真集が別個に作れそうです。

川村:
マニアが買いそうですね。

源:
これが、さらに穴がどんどん開いたもので、ここにエフェクトチームが作成する血の池がコンポジットの時に入ります。


G:
このリアル感はやばいですね。

源:
これが血の池が入ったものです。


G:
おおー、血の池になってる。現実の風景をモデルにしたもので、ここまでのクオリティのCGってありそうでないですよね。普通はこういうのを作る動機がないですし。


舟橋:
手間もかかりますしね。

G:
すごいですねぇ……。本当に、何に手がかかっているか分からないぐらい手がかかっていますね。リアルさを出そうと思ったときに、今回の場合何に一番苦労しましたか?

源:
リアルさはやっぱり実際にロケハンに行って感じたのはその空気感です。

G:
確かに映画を見たときに「異様にそれっぽいな」と思ったんですけど、なぜその「それっぽさ」が出てきているんでしょうか。

源:
それは全体の絵の色合いとか、実際の街灯を今回は作っていて、そこから実際に3D上でライトを足してライティングしてあるので、やっぱり現実に近い様に3Dも作ることで、よりリアルな背景が作れたのかなと思います。

G:
監督的にはこういうクオリティで作って欲しいという感じのダメ出しだったのか、それとももっと付け加えて欲しいというダメ出しだったんですか?それとも、背景に関してはスムーズにOKを出した感じなんでしょうか。

源:
もう本当にロケハンの写真を見ながら「これにして」みたいな感じでした。

川村:
今回は現実世界なので、どうしても見比べるとプロとしては「CGじゃん」と思ってしまうんです。なので、背景に関して言えばどちらかというとちくちく細かく言ってクオリティを上げていくやり方でした。

G:
それは本当に背景すごいとしか言いようがないです。これまでのものも全部すごかったんですが、やはり空気感には背景が大事ですね。

川村:
あとは車があることでリアリティを増したりとか、透明なビニール傘があったりとか、そういうちょっとしたことで人はリアルに感じたりするんです。

源:
現実では戎橋の上に車なんて置かれていないんですけど。

G:
そうなんですよ、置けるわけはないのに、なぜか「あぁ、あるな」みたいな感じがするんです。あと、全体が破壊されている訳ではないのにすごい破壊だという風に見えるんです、これも自動車がポイントなんですね……。

源:
そうですね。

G:
今回のは背景の力がすごいですね、背景をリアルに作っているからリアルに感じると。映画を見たときは背景というか全体的にリアルに見えていたんですけれども、こうやって今見ると背景のリアルさはかなり影響していますね。

川村:
はい、重要です。

G:
詳しいお話をありがとうございました。

・つづき
デジタル・フロンティアに「GANTZ:O」をどう作ったのか徹底的に聞いてきた その3・モーションキャプチャー編 - GIGAZINE

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in インタビュー,   映画,   マンガ,   アニメ, Posted by logc_nt

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