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あらゆる物事に応用可能な、特定の分野で一流のスキルを身につけるための方法

By Joint Hometown News Service

1万時間の真摯な練習によって誰でも一流のスキルを身につけられるというのが、「1万時間の法則」です。これは、マルコム・グラッドウェル氏の著書である「天才!成功する人々の法則」の中で定義された法則で、熟達に関する研究の第一人者である心理学者のアンダース・エリクソン氏の研究をもとに考案されたものなのですが、そのエリクソン氏本人が「少し誤認されている部分がある」と、一流のスキルを身につけるために本当に必要なことについて解説しています。

Anders Ericsson: How to become an expert at anything - Business Insider
http://www.businessinsider.com/anders-ericsson-how-to-become-an-expert-at-anything-2016-6


エリクソン氏は10代のころ、クラスメイトとチェスをして遊ぶことが多かったそうです。当時、対決相手の中に1人、エリクソン氏より明らかに腕前の劣る同級生がいました。ところがある日、エリクソン氏はこの同級生に敗北してしまいます。この時、エリクソン氏は負けた悔しさではなく、「クラスメイトは何を実行してこれほどまでに劇的にチェスの腕前を上達させたのか知りたい」と感じたそうです。

結局、「彼はなぜ劇的にチェスがうまくなったのか?」の答えはわからず、エリクソン氏はチェスで負け続けたそうですが、その中で、自分自身が「チェスをうまくなりたい」と感じておらず、「人間はどうやって一流のスキルを身につけていくのか?」ということに興味を抱いていることに気づきます。以後、エリクソン氏は人間の熟達度に関する研究に携わっていくこととなり、現在はフロリダ州立大学の心理学の教授として研究を進めています。

By Ruocaled

そのエリクソン氏の研究によれば、多くの人々がプロのバイオリニストやオリンピックに出場するレベルのアスリート、世界でもトップクラスの選手になれないのは、単に「真摯な練習」が足りないため。現状の能力を超えるスキルを身につけるために必要とされる「真摯な練習」は、既に習得したと満足してしまったスキルを繰り返し練習するだけでは意味がなく、「明確な目標」と「目標を達成するために教師となってくれる存在」が必要になるとのこと。この「教師」というのは、自身の練習に対するフィードバックをくれる存在のことを指しており、それにより自身のパフォーマンスを少しずつ微調整しながら改善していくことにつながるそうです。

エリクソン氏の研究は、プロの物書きやアスリートなど異なる分野で一流と呼ばれる人々は、例外なく「真摯な練習」に取り組んできたと規定しています。そして、この「真摯な練習」をわかりやすく、「1万時間の法則」としたのが、マルコム・グラッドウェル氏の著書である「天才!成功する人々の法則」です。この著書の登場で、「1万時間の法則」と共にエリクソン氏の「真摯な練習」という考え方は広く知られるようになりました。なお、グラッドウェル氏の「1万時間の法則」を端的に説明すると、「1万時間の練習に取り組めば、一流のスキルを身につけられる」というものです。

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しかし、グラッドウェル氏が「天才!成功する人々の法則」の中で行った「1万時間の法則」についての説明は誤っており、ただ単に1万時間同じ動作を繰り返すだけでは、一流のスキルを身につけることはできない、とエリクソン氏は語ります。

グラッドウェル氏は、1993年にエリクソン氏が同僚と共同で執筆した論文を基に著書の結論を出したのでは、とエリクソン氏。1993年の論文では、ドイツのバイオリニスト40人を対象とした調査が行われており、「トップレベルの音楽家とそうでない音楽家との違いを生み出す要素は何か」にフォーカスした調査が行われたそうです。調査では、対象となったバイオリニストたちが普段の私生活をどのように送っているかが調べられ、バイオリニストの中でもトップレベルに分類される人々は、生活の中で特に多くの練習時間を割いていることが明らかになっています。エリクソン氏たち研究チームはピアニストに対しても同様の調査を行ったそうですが、調査の結果は同じく「レベルの高い音楽家ほど多くの練習を行っている」というものだったそうです。そして、優れたバイオリニストたちの練習時間を平均すると、20歳までに合計1万時間練習を行っていたとのことで、ここからグラッドウェル氏は一流のスキルが磨かれるには「1万時間の練習が必要」と定義したのでは、とエリクソン氏。


しかし、より多くの練習時間を費やしてきた人や、より少ない練習時間で一流のスキルを身につける人もいます。エリクソン氏が過去30年間の調査結果から導き出した答えは、あらゆる分野において「真摯な練習」がハイレベルなパフォーマンスを引き出す鍵になる、というもの。この考えは、エリクソン氏の著書である「Peak: Secrets from the New Science of Expertise」の中で語られています。

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エリクソン氏は一流のスキルを身につけるのに絶対的に必要なものは「練習のみ」と考えており、高い認識能力や身体能力といった「遺伝的要素」が一流のスキルを身につけるために重要な要素になるかどうかについては懐疑的です。身体のサイズなどの遺伝的特性は練習によって変更することができない要素であり、パフォーマンス自体に大きく影響を及ぼすことはできない、としています。エリクソン氏いわく、知能ですら一流のパフォーマンスとは直接的に関わっていない、とのことです。

「Peak」の中では、イギリスの研究が「子どものIQから、チェスのうまさを予測することができる」ことを発見したことを取り上げています。しかし、子どものエリートチェスプレイヤーに限って言えば、IQの高さが粗悪なスキルと結びついていたそうです。一方、高いIQはチェスにおける基本的なスキルを習得することに役立つことも明らかになっており、最終的にはチェスにおいてIQが一流のスキルを身につけるために必要な要素とはならなかった、とのことです。ただし、一流のスキルを習得するには、当然のごとく真摯な練習に取り組むことは必須の要素だった模様。

このように、エリクソン氏はこれまでの30年間で、子どもが一流のスキルを身につける際に、それを抑制してしまう要素が何かないか調査を進めてきたそうですが、「驚くべきことに、私はまだそういった要素に巡り会っていません」と語っており、身体能力やIQの高さは一流のスキルを身につけるために絶対に必要なものではない、としています。

By Sara Ristić

しかし、エリクソン氏の「真摯な練習」に関する研究が本当に正しいものかどうかを調査する動きが、近年増加しています。2016年5月には、エリクソン氏の「真摯な練習」は熟達したアスリートとそうでないアスリートの違いを説明可能ではあるものの、全てについて説明できるわけではないという研究結果が発表されています。つまり、一流のスキルを身につけるためには真摯な練習が必要ではあるものの、ほかの要素がどの程度重要であり、どのような役割を果たしているかはわからない、と主張したわけです。

エリクソン氏はこれに対して、真摯な練習と普通の練習を混同している、と主張。エリクソン氏は、パフォーマンスを改善するため教師から割り当てられた練習を行っていない限り、真摯な練習に取り組んでいるとは言えない、としています。また、エリクソン氏はほとんどの練習はパフォーマンスの改善に結びつかない「普通の練習」に分類される、とも語っています。

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また、エリクソン氏は「練習を通して目標のスキルを身につけるにはには多くの失敗が必要となります」と語っています。フィギュアスケーターの練習時間に関する調査結果では、エリートスケーターはスケーター全体の平均よりも長く未習得のジャンプやスピンの練習を行っていることが明らかになりました。対照的に、平均的なスケーターはすでに習得したスキルの練習に多くの時間を費やす、とのことです。

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in メモ, Posted by logu_ii

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