クリエイティビティは1万時間の計画的な練習よりも重要
by Handy Andy Pandy
1万時間の真摯な練習によって誰でも一流のスキルを身につけられるという「1万時間の法則」が1993年に発表され大きな話題となりましたが、著者であるアンダース・エリクソン氏の書籍には1万時間の法則が機能するのはチェスやスポーツであり、競争のないガーデニングや趣味および教師、エンジニア、コンサルタントなど現代の職業の多くには通用しないと書かれています。「クリエイティビティ」は「訓練で得られる技術」とどう違うのか、そしてなぜクリエイティブであることが重要になってくるのかが科学系情報サイトScientific Americanに12項目でまとめられています。
Creativity Is Much More Than 10,000 Hours of Deliberate Practice - Scientific American Blog Network
http://blogs.scientificamerican.com/beautiful-minds/creativity-is-much-more-than-10-000-hours-of-deliberate-practice/
◆01:クリエイティビティは盲目
by Sophia Louise
多くのクリエイターにとって「自分のアイデアや製品が受け入れられるのか」は予想できないもの。また、たとえアイデアが優れていても、タイミングが悪く、人々の方が受け入れる準備ができていないこともあります。クリエイティビティとは盲目なもので、実際にアイデアやプロダクトが日の目を見るまで予想ができないので、あらかじめ結果を予測する「練習」や「訓練」という考え方はクリエイティビティとは相容れません。
◆02:クリエイティブな人の多くはとっちらかっている
by Dom W
「専門家」の特徴が一貫性や確実性にあるとしたら、クリエイティビティの特徴は「失敗からのスタート」「トライアンドエラー」にあります。素晴らしい作品を生み出すクリエイターは素晴らしい作品しか作らない、ということはまずありません。シェイクスピアは「ハムレット」という後世に残る傑作を生み出しましたが、その後に書かれた「トロイラスとクレシダ」について知っている人は少ないはず。練習によってクリエイティビティが増すのだとすれば、時間がたつごとに優れた作品を生み出せるはずですが、必ずしもそうとは言えません。そのため、クリエイティブな人の最高傑作は人生の後期ではなく、半ばごろに現れることがしばしばあります。
◆03:クリエイターが役に立つフィードバックを得ることはまずない
by Valery Kenski
試験や特定の技術の取得など、組織立てられた分野においてフィードバックは得られやすく、有効であることが多いのですが、クリエイティビティの分野で役立つフィードバックが得られることはまれです。作品を送りだした作者を待っているのは純粋な賞賛や拒絶のみ。作品に対して批評が行われることもありますが、批評する人の嫉妬や愚鈍さ、辛らつさが含まれていることが多々あるので、クリエイターにとって「本当に役に立つフィードバックは何か」を見分けるのが困難なのです。
◆04:「10年ルール」はルールじゃない
by Angelia Sims
エリクソン氏は「世界レベルの業績に達するまでに少なくとも10年かかる」という10年ルールが主張しましたが、エリクソン氏はオリジナルの論文で根拠となる統計を出しておらず、その後、別の研究者らによって音楽やスポーツなどの分野における一流プレイヤーが技術を身につけるまでの期間が調査されることになります。ある研究者が行った「作曲家が有名な作品を生み出すまでにどれだけ時間がかかったか」という調査では「平均10年」という結果が出ましたが、この時重要なのが、この結果が「平均値」であること。実際には有名な作品を生み出すまでにかかった時間が10年以下の人が多く、一方で30年以上かかった人もいたとのこと。クリエイティビティは「いつ発揮される」と予想できるものではなく、「発揮される時に発揮される」ものなのです。
◆05:才能はクリエイティビティと関係がある
by Constanza Mella
作曲家120人が技術を習得するまでの時間を調査した研究では、平均的な作曲家が技術を習得するまでの時間よりもはるかに短い時間・少ない練習で、技術を身につけられる人が存在すると示されました。あまり認めたくないことかもしれませんが、クリエイティビティにとって才能は非常に重要なようです。
◆06:性格も関係がある
by Frank Monnerjahn
過去の研究によってクリエイティブな人は協調性が少なく、因習にとらわれず、自立していて、経験を恐れず、強い自我を持ち、リスクを取り、精神病理的な傾向さえあることが知られています。もちろん、それ以外の本人特有の要素も重要になってくるのですが、これらの性質が本人を練習や訓練とは別の方向に向かわせるとのこと。薬学を修得するにはビジュアル・アートを身につけるよりも高いIQが必要ですが、クリエイティブな分野においてはIQよりも強く作用する本人の特性というものがあるのです。
◆07:遺伝子も関係がある
by ClaraDon
もちろんこれは「遺伝子が本人の行動を決める」ということではなく、「遺伝子は本人の行動に影響を与える」ということ。エリクソン氏は、専門技術を習得するには「生まれ持ったもの」でなく、訓練が大切なのだと説きましたが、練習や訓練に向かう姿勢や、人の好みも遺伝的要因の1つです。心理学教授のディーン・サイモントン氏は、クリエイティビティに影響を与える個人の性質が遺伝的要因だと仮定して、遺伝的要因がパフォーマンスに与える影響は全体の4分の1から3分の1の間だと説明しています。遺伝子はクリエイティビティと関係がありますが、だからといって環境的要因が重要でないとは言えないわけです。
◆08:環境的要因は遺伝的要因よりも重要
by Felipe Fernandes
初期の遺伝学者であるフランシス・ゴルトン氏が偉大な科学者は長男であることが多い、という調査結果を発表してから現在まで、多くの研究者が天才を生む環境的要因を発見してきました。社会経済的・社会文化的・政治的な起源や、経済的なバックグラウンドなどがその例の1つです。クリエイティビティは遺伝的要因よりも環境的要因に左右されることがわかっており、特に大切なのは、幼い頃に手本とする人がいたかどうか、とのこと。
◆09:クリエイティブな人の興味は多岐に渡る
by Thomas Hawk
訓練や練習を繰り返す技術の習得は1つの分野にフォーカスを当てている一方で、クリエイティブな人は幅広い分野にわたって興味を示します。しかし、専門技術を取得した人の中にも広い分野に興味を示すクリエイティブな人も存在します。サイモントン氏は911のオペラに曲を提供する59人の作曲家を対象に調査を行いました。もしクリエイティビティが訓練によって育まれるのであれば、優れた作曲家は特定のジャンルの曲だけを作っている人になるはずですが、実際はその逆。成功している作曲家はさまざまなジャンルの曲を作っていることが判明したのです。
上記のように、クロストレーニングがクリエイティビティを開花させるという例は音楽分野にとどまりません。ガリレオ・ガリレイは音楽・アート・文学に精通しており、また、歴史上の著名な科学者の多くは企業に属して緩やかに関係するさまざまなプロジェクトを行っていたことが分かっています。
◆10:専門知識が多すぎることはクリエイティビティを殺す
by Natesh Ramasamy
知識とクリエイティビティの関係を一次関数にして表すと、逆のUの字となります。適度な知識はクリエイティビティによい作用を与えますが、過ぎた知識は柔軟性を損なわせます。例えば物を書く分野でいうと、形式を学ぶ学校に通った生徒はクリエイティブな文章を書く可能性が低くなるそうです。
◆11:アウトサイダーはクリエイティビティにとって有利
by thierry ehrmann
過去に存在した多くの革命的な人々は、その分野においてアウトサイダーでした。特定の分野の中で現状に不満を抱き、一度メインストリームから距離を置いたことが、クリエイティビティにとって有利に働くというわけ。歴史上の著名人物は「アウトサイダーにもかかわらずクリエイティブなアイデアを出せた」のではなく「アウトサイダーだからこそクリエイティブなアイデアを出せた」のです。例えばアメリカの作曲家アーヴィング・バーリン氏や、映画監督のアン・リー氏、アメリカ初の国務長官マデレーン・オルブライト氏は、すでに存在する道で練習を繰り返したわけではなく、アウトサイダーであったがゆえに自分自身で新しい道を開きました。
◆12:時にクリエイティブな人は「訓練で習得する人」のために道を開く必要がある
by nedasta
クリエイティブな人は問題解決が得意ではありませんが、問題を見つけることは得意です。ガリレオ・ガリレイの発見がそのことを示す有名な例の1つで、彼はトライアンドエラーを繰り返して夜空を観察する新しいツールを作成し、天文学に革命をもたらしました。ガリレイは訓練や練習を積み重ねたのではなく、既存の研究が全く何もないところに発見をもたらした、まさにクリエイティブな人物でした。当時の専門家たちはガリレイのアイデアを否定しましたが、その時に役に立ったのがガリレオのキアロスクーロの技術で、絵を描くことでガリレイは最終的に多くの専門家が間違っていることを説明できたそうです。訓練や練習によって専門技術を取得する人は1つの分野の中で問題を「解決する」ことに終始するため、多面的な見方によって問題を「見つけ出す」クリエイティブな人が重要になってくるわけです。
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