乗り物

19世紀に人類史上初めて気球で1万メートル上空に昇った男たち


どんな世界であれ、それまで人類が経験したことのない未知なる世界に最初の一歩踏み出した先駆者がいて、その勇気ある行動によって人類の可能性が広げられてきました。上空1万メートルというとてつもない高度に到達したのは19世紀の二人の英国人で、この二人の命がけの行動によって宇宙へつながる「空」への人類の探検が大きく進展しています。

BBC - Future - The Victorians who flew as high as jumbo jets
http://www.bbc.com/future/story/20160419-the-victorians-who-flew-as-high-as-jets

イギリスの気象学者ジェームズ・グレーシャーは、グリニッジ天文台に勤めて気象部門で働くうちに、空の先がどうなっているのかという興味をかき立てられました。18世紀の終わりころから、気球による上空探査(バルーニング)の技術が開発され始め、グレーシャーも気球を使って上空を探索することを計画し、英国科学振興協会を説得して、探検のための費用を獲得しました。

未知なる上空への探検飛行のため、グレーシャーは気球の専門家であるヘンリー・コックスウェルとタッグを組んで計画を作り、長い時間をかけて気球を作りました。気球作りと並行して、上昇気流など気象に関する知識を身につけたグレーシャーは、1862年7月17日に、ついに気球による初飛行を行います。


グレーシャーとコックスウェルの気球は、離陸から12分後に雲を抜けることに成功。処女飛行に成功したフライトについてグレーシャーは「雲が作り出す至高の美しさ」と雲に写し出された気球の影の周りに浮かび上がったプリズムについて書き記しています。

初飛行から数回の飛行を成功させたグレーシャーは、1862年9月5日にいまだかつて誰も到達していない高度を目指してチャレンジ飛行することにしました。このフライトでグレーシャーは、気球のかごの中にコンパス、温度計、ブランデーのボトルとともに、「6羽のハト」を持ち込んでいます。これは、未知なる上空の世界を人間よりはよく知るハトの変化から、危険がないかを判断するためでした。

気球が高度3マイル(約4800メートル)に達したころ、6羽のハトのうちの1羽が死にました。グレーシャーは死んだハトをかごの外に投げ出すと、ハトはまるで石のように真っ逆さまに下方向に落ちていったとのこと。そして、4マイル(約6400メートル)上空で2羽目、4.5マイル(約7200メートル)上空で3羽目と、"石"になったハトは次々と投げ出されました。


高度が5マイル(約8000メートル)を超えたとき、気温はマイナス20度に低下し、グレーシャーとコックスウェルは計画の難しさに気づき始めたとのこと。すでに湿球温度計の水銀柱のメモリを読み取ることが困難な状態だったそうです。

そして、ほどなくして、グレーシャーは自身の体に起きた異変を感じとります。テーブルの上に置いていた腕を上げようとしたときに、腕は反応せずに持ち上げられないことに気づいたとのこと。相棒のコックスウェルを呼ぼうとしたグレーシャーは、言葉がうまく出なかったそうです。これは、急激な上昇に伴う気圧の変化によって、血液に溶けていた気体が気化して気泡となり血管を塞栓(そくせん)する「減圧症」の症状ですが、当時のグレーシャーはそんな障害を知っていたはずもなくパニックになったことは想像に難くありません。

あまりにも過酷な環境の中、ついにコックスウェルが高度を下げるという決断に至ったとき、不運にも気球のガスを放出するためのバルブラインにロープが絡まっている状況だったとのこと。このままでは命に危険が迫るという状況で、コックスウェルは意を決してかごから身を乗り出して絡まったロープを解きほぐしました。コックスウェルが決死の行動に出るちょうどそのころ、グレーシャーはというと減圧症の中、意識を失っていたそうです。


コックスウェル自身も減圧症で手足を動かすことがままならない状態に陥っていたことに気づいたものの、決死の覚悟でバルブラインに噛みついて頭を振ることで、気体を開放する事に成功。気球はゆっくりと降下し始めました。なお、二人の気球は上空1万メートルを突破し成層圏に突入していたと推測されています。

高度が下がると意識を取り戻したグレーシャーは、「感覚が失われている」とコックスウェルにつぶやきながらも、記録のために再びノートと鉛筆を取り出して、状況の観測を再開したとのこと。結局、気球が着陸するときまで生きながらえたのはグレーシャーとコックスウェルと1羽のハトのみ。心に傷を負ったように見えたハトは、着陸後、15分間もグレーシャーの手から下りなかったそうです。

「無傷に生還した」と英国科学振興協会に報告したグレーシャーは、気象観察のためにさらに21機の気球の製作を要求して、その後も雨雲が集まり雨を降らせるメカニズムや高度の変化に伴って風向きや速度が変わることなどの知見を得ることに成功しています。「陸上から隔離された上空にいると、空の市民になったようだ」と書き記したグレーシャーは、その功績をたたえられて、後に、月のクレーターが「グレーシャー」と名付けられています。

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in 乗り物,   サイエンス, Posted by darkhorse_log

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