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アメリカでの製造コストが中国と同レベルに減少、その理由とアメリカが持つ「強み」とは?

By nikzane

安くて豊富な労働力を活かして「世界の工場」として世界中の工業品の生産を一手に請け負ってきた感のある中国ですが、ここ数年は物価の高騰や賃金レベルの上昇からその競争力を失ってきたと言われてきました。これに対するようにアメリカでは製品の製造コストが減少し、中国と同水準に下落するという現象が起こっており、さらに今後はアメリカが中国を下回ることになると考えられています。

U.S. Manufacturing costs are almost as low as China’s - Fortune
http://fortune.com/2015/06/26/fracking-manufacturing-costs/

世界的なコンサルティング企業であるボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の調査によると、アメリカ国内で製品製造コストは減少を続けていることが明らかになっています。以下のグラフのように、アメリカを100とした場合の製造コストは中国が95とほぼ変わりなく、さらに主なEU各国と比較するとすでに10%から20%程度も低い状態であることがわかったとのこと。さらにBCGの予測では、2018年ごろにはアメリカの製造コストは中国よりも2%~3%も低くなるだろうとみられています。


これにはいくつかの要因が考えられており、中国国内での人件費の高騰やアメリカでの生産効率が向上していることなどが考えられていますが、BCGによると最も大きく関与しているのが新たに開発されたシェールガスによるエネルギーコストの減少とのこと。BCGの試算によると、アメリカ国内での産業用電力価格は他国に比べて30%から50%も低いとみられており、特に鉄やアルミニウム、製紙や石油化学製品など多くのエネルギーや石油を必要とする産業分野への影響が大きく現れているといいます。

先述のグラフを見ても、アメリカでは水色で示されたエネルギーコストが他国を大きく下回っていることがわかります。


BCGのDavid Gee氏は「中国からの出荷の遅れや港湾のストライキによる閉鎖、また外資系企業に求められる中国企業との合弁化などのリスクや要因を考慮すると、わずか5%のコスト差は取るに足らないものといえます」とその実態について語っています。

By Michaël Garrigues

安いエネルギーが手に入ることで、アメリカでは天然ガスを使った車両による貨物輸送手段の発達が期待されており、従来のように他国にエネルギーを依存する状態から自国で全てを賄える状態へとシフトすることが予想されています。また、天然ガスからは水素を取り出すことが可能なので、トヨタが2015年夏にもカリフォルニア州で受注を開始する「ミライ(Mirai)」のような水素で走る燃料電池車にも使うことが可能。

エネルギーコストが下がったことで、アメリカ国内に対する新たな投資の機会にもつながっています。2015年春には、オイルメジャー企業の一つであるサソルがルイジアナ州・レイクチャールズに81億ドル(約1兆円)という巨額の投資を行ってエタン精製工場を建設。また、天然ガス輸出のシェニエール・エナジー社はメキシコ湾にLNG(液化天然ガス)の輸出ターミナルを建設し、日本を含めた外国へのLNG輸出に意欲を見せるなどの大きな動きが生まれつつあります。ちなみに、シェニエール・エナジーのチャリフ・ソウキCEOは2013年にはアメリカで最も高い報酬を受け取ったことで知られており、その額は1年で1億4200万ドル(約145億円)とのこと。

By Cheniere Energy

このように、アメリカではシェール革命とも呼ばれるエネルギー生産の革命により、エネルギーコストの構造が大きく変化していることが明らかになっています。多くのエネルギーを蓄えると考えられている「シェール層」はアメリカの国土をほぼ覆うほどの広さに分布しているとみられ、その埋蔵量は100年分ともいわれていることから、近い将来にはアメリカは世界最大のエネルギー輸入国から一転して資源大国になるとも考えられています。

同時に、シェールガスの生産には問題を含んでいるということも一方では事実。地中に高圧の海水や砂、化学物質を注入するという工法により地下の状態が影響を受け、水源が汚染されるという事態が起こっており、石油企業が住民への補償を強いられるという事態にもつながっています。また、地中に海水を注入することで地層が滑りやすくなり、巨大地震を誘発しているという研究者も。さらに、フランスでは環境汚染を懸念したシェールガスの生産そのものを禁止する法案が採決されています。

By Department of Energy and Climate Change

さまざまな問題を抱えてはいるシェールガスの生産ですが、それによる安いエネルギーコストは魅力的なものであり、アメリカがこの分野を世界的にリードしている状況には変わりがありません。ハーバード・ビジネススクールのMichael Porter氏は(PDFファイル)BCGと共同で発表した報告書の中で、アメリカのシェールガス生産技術は他国の15年先を行っていること、そして生産拠点となる油井はアメリカ国内で10万1117か所あり、これはカナダの1万6990か所、中国の258か所などと比べて段違いに大きな規模となっていることを挙げています。

これまで中東やロシアに依存してきた世界のエネルギー事情はいま大きく変化しており、産業にも大きな影響を与え始めているところに注目しておく必要があるようです。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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