大友克洋監督らが「日本」をテーマに作ったオムニバス映画「SHORT PEACE」製作発表会見
2013年7月20日に公開される、大友克洋監督らによる短編アニメ4本で構成されるオムニバス映画「SHORT PEACE」の製作発表会見が東京国際アニメフェア2013の中で行われました。「日本」をテーマにした作品ということで震災への思いなども聞かれましたが、企画自体は震災以前から進んでいたとのことで、過去から未来まで「日本」という広いくくりのテーマで若いアニメーション作家に作ってもらおうと考えたと語った大友さん。震災後、企画を進めるのが難しかったという長編についてもコメントしました。
SHORT PEACE || A KATSUHIRO OTOMO FILM
http://shortpeace-movie.com/
すでに公開されている特報映像はこちら。
SHORT PEACE特報 - YouTube
今回の映画に関わったクリエイターたちが登壇しました。
左から森本晃司さん、森田修平さん、岸啓介さん、大友克洋さん、安藤裕章さん、石井克人さん、カトキハジメさん、田中達之さん。
大友:
今日は製作発表のためにわざわざ来ていただいてありがとうございます。僕らがこの作品を始めたのはもう1年か2年前になりますが、やっとすべての作品が揃って皆さんにお見せできる状態になったので、ぜひともこの作品が成功するよう、みなさんに宣伝していただきたいなと思います。よろしくお願いします。
森本:
今回は監督に声をかけてもらって参加することになりました。最初は本編をやるつもりで思っていたんですが、いろいろな事情があってオープニングを担当することになりました。あくまでオープニングということで、作品の橋渡りになるようにと考えて作りました。
森田:
若手ということで今回参加させていただき、一番最初に作品を作らせていただきました。オープニングの次の作品となりますが、楽しんでいただけたらと思っています。
岸:
基本は立体造形をメインにやっているので、本格的なアニメの仕事というのは今回が初だったのですが、森田さんのおかげでとてもいい作品ができたのではないかと思っています。
安藤:
ふだんアニメスタジオの中で仕事をしているとこういう場所はすごく緊張してしまいます。作品ではストーリーを石井さん、キャラ原案を貞本さんと、すごい方々のお力をいただいて作ることになり、かなり緊張して作らせてもらいました。みなさん楽しんでいただけたら幸いです。
石井:
この作品はわりと前から温めていた作品で、いつどこで発表するか分からなかったが、今回の企画にいいかなということで安藤監督に作っていただきました。素晴らしいできばえだと思います。みなさんご覧になっていただけると嬉しいです。
カトキ:
今回、「武器よさらば」の監督をやらせていただきました。大友作品の制作というのは初めてで、「大友組」にはなじみがなかったのですが、原作は大友さんによる当時読んだ人なら誰もが忘れられない有名な作品で、スタッフも大友組で作品を作ってきた優秀なスタッフですので、いい作品になったと思います。
田中:
「武器よさらば」でキャラクターデザインの名目で仕事をさせていただきました。みなさんもご存じだと思いますが、原作は有名で大友ファンの中ではカルト的な人気のある作品なので、キャラクターデザインとして参加したと言うよりも、大友さんの原作とスタッフのみなさんを繋げる橋渡しのような役割だったと思います。制作に関してはカトキさんをはじめ優秀なスタッフが揃っていますのでお任せしています。どうかみなさん、楽しんで下さい。
一通りの挨拶を終えて着席、代表質問に入っていきます。
Q:
「火要鎮」は先に展開して海外では賞も受賞したが、どのようなコンセプトで作ろうと思ったのですか?
大友:
短編ということで企画を立ち上げて、最初から10分ぐらいの短い作品ということだったので、やるなら時代劇かなと。時代劇で面倒くさいのは着物とかですが、柄を張り込むのはそんなに難しいことではなく、これまではあえてやっていなかったことなので、やってみようかなと。あとは火事の表現、古い絵巻物、そういったところを日本風なテイストでぜひやってみたかったんです。完成して見てもらったら「長さはもう少しあっても」と言われて、俺ももう少し欲しいと言ったんですが、この長さになりました。
海外だと着物の柄や繊維の質までCGで出すので、あまりそうはせずに手描きの柄を張り込んでいます。フルCGではないので、それはそれで大変でした。
Q:
森本さんへの質問。担当したオープニングは重要な役割だと思いますが、どのようなスタンスで考えられましたか?
森本:
僕が入ったときには4作品の方向性は時代劇だったりSFだったりと見えてきていました。ちょうど3.11があったこともあり、新しい扉を開いたら次の新しい発見があるよという思いも込めて、自分が好きな「不思議の国のアリス」的なものを作ってみました。
Q:
「九十九」のお二人へ。どこから作品を思いついたのでしょうか。
岸:
最初に森田さんと話をしたとき、まず日本をモチーフにしたものであるということ、そして何かモノをモチーフにしたいということで、思い浮かんだのが「もったいない」というキーワードでした。使えるものはぞんざいに扱わずに大事に使おうという考えですが、それは使えるから使っているという合理主義に基づいていると思います。使っているものもいつかは使えないものになりますが、そのとき、役割を終えたものはどうなってしまうんだろう、と考え、そういう思いというのが日本的なものなんじゃないかと思い、テーマにして作っています。
Q:
映像を見たとき柄がすごく斬新で、それをアニメーションで表現するのは大変だったのではないかなと思いました。
森田:
スタッフは少人数で、大友さんが「手描きで柄を描いた」と仰いましたが、僕らは許してもらえなかったのでどうしようかなと(笑)。今回、作品は「モノにまつわるもの」にしたかったので、質感というか存在としてのモノを出したいと思っていたところ、手元に和紙があって「これ使えるかな?」というのも入れつつ、ものとしての存在感を出したりという絵作りをしました。ストーリーに関しては、実は前に劇場企画を出したものがあって岸さんと一緒にやりたいなという話をしていたんです。それと、僕は日本昔話とかが好きなので、新しくCGでできれば面白いなと思っていたところにこの企画が来て、ちょうど10分でストーリーが完結するというアイデアもあったので、作ることになりました。
Q:
石井さんはGAMBOの原案を担当されていますが、どういうコンセプトで考えられたんですか?
石井:
白熊と鬼が本気で戦ったらどうなるのかな、それが見たかったと言うだけですね(笑) 素手で戦い合ったときにどういう動きでいけるのかなみたいなのは心配でしたが、安藤監督のおかげでいい感じになりました。
安藤:
石井さんの描かれていた、ガンボと鬼のキャラクターデザイン原案があって、そのインパクトが強かったんです。二つの異形が取っ組み合いをする、それだけでもすごいと思ったんですが、せっかくだから外からの異形と内からの異形の戦いで話をまとめられたらなと作りました。
Q:
そこに貞本さんの手が入って、どうやって作ったんだろうかと。
石井:
貞本さん、なかなか描いてくれなくて大変だったよね(笑)
安藤:
後ろに貼り付いて描いてもらいました(笑) でも、そうやって貞本さんの仕事場にカンヅメで描いてもらったときに、貼り付いている分だけ事細かく「こういう方向でお願いできないか」と話をして、極力アニメ的な記号的省略はせず、本来の生身の人間から落とし込んで作ってもらいました
Q:
「武器よさらば」は私も漫画を読んでいて、映像になったことが衝撃でしたが、映像化にあたっていろいろ考えられたのでは?
カトキ:
「責任重大」という感じですよね。こちらにいらしている方で40代半ば以上の人、特にメカをやった人だと忘れられない内容にショックを受けたと思うんです。それを自分がやるとは想像もしなかったですが、とにかくどうやってみなさんに伝えるかという責任を感じました。原作がいい分だけ完成度は底上げされているが、どれだけ自分でやれるかという部分で、スタッフも優秀ですので、私の責任という意味では大きく、でも、いいものが仕上がるだろうと信じてやりました。
田中:
実はデザインはほとんどやっていないんです。僕は高校のころに「武器よさらば」に出会って、とにかくすべてが好きなんですね。キャラクターデザインの仕事をやるときは、自分なりにこうした方がよくなるんじゃないかとか、こういうアレンジをした方がいいんじゃないかという考えが出てくるんですが、今回は原作が偉大すぎるので、とにかくファン代表として、「こう描けば大友さんらしくなるよ」という描き方のメモを書いたぐらいの意識です。逆に、内容に関してはまったく口出しはなく、一ファンとして楽しみにしています。
Q:
そこで大友監督におうかがいしたいんですが、原作が他のスタッフに映像化されたことにはどういう思いがありますか?
大友:
前の短編集の時に「彼女の想いで」を森本くんに作ってもらいましたが、「あれをもう一度」という考えはなくて、誰かやりたい人がいればと思っていました。今は新しくCGのテクノロジーがあって作品ができあがっているので、カトキくんに頼んで良かったかなと思っています。
ここからは質疑応答
Q:
日本でも日本以外でも、気になっているクリエイターの方がいれば教えていただきたいです。
大友:
いっぱいいますね。本を送ってもらったりするし、本屋に行ってはいろいろな本を見ようとしているので。誰でしょうね……ベルギーやフランスでB.D.(バンドデシネ)を描いている人たちも、いま新しい人がどんどん出てきていて、漫画もイラストもどんどん新しい人が出てきていて、いい環境になっていると思います。アニメーションも新しい人間が入ってきて、活気づけて欲しいという気がしています。ちょっとアニメーションは厳しいところがあるので。
Q:
「SHORT PEACE」と同日公開の作品の中にスタジオジブリの作品がありますが、意識していますか?
大友:
僕らが作ったのはだいぶ前なので、意識はしていないですね。ジブリには勝てないので、僕らは僕らで頑張るしかないかなと(笑)
Q:
テーマについてお伺いしたいです。「日本が舞台」というのがキーコンセプトで「日本の私たちが好きなものを海外に見せたい」という意義で作ったとのことだが、その考えのもとというのはどこにあったのでしょうか。企画段階で「日本をテーマにしよう」というのはどこから浮上してきたのでしょうか。震災後に大友さんの展示会がありましたが、震災とは関連はありますか?
大友:
企画は震災前にあったので、実は震災とはあまり関係ないんです。「スチームボーイ」というイギリスを舞台にした作品を作ったころに「COOL JAPAN」みたいな話も出ていたので、「日本」だとくくりは大きいもののテーマになるんじゃないかということをプロデューサーと話をして、過去があって、そのまた昔があって、未来もある、という今の形になりました。もう1つ、現代もやろうという話が合って、それは立ち消えちゃいましたが、過去から未来まで含めて、なるべく若いアニメーション作家に作ってもらおうというのがコンセプトです。
Q:
「日本」へ今感じている想い、なぜ今これを発表するのかという思いが具体的にあれば教えて下さい。
大友:
「なぜ今なのか」……別に今じゃなくてもいいんですけどね、ぼくらはずっと日本なので。オムニバス作品を作るというとき、「あえて日本でもいいんじゃないか」ということで、震災前から進めていた企画で、震災後の思い入れももちろんありますが、基本的にはそれほど深く考えているわけではなく「全体で日本になればいいかな」ぐらいの思いで作っているので、「日本」ということを掘り下げようというわけではないですね。
Q:「スチームボーイ」以来の長編に期待する向きもあるかと思いますが、可能性などはいかがでしょうか。
大友:
企画は出しているんですが、震災以降、アニメ劇場版に関する資金集めは厳しいところがあり、なかなか冒険できない時期がありました。実写でもなかなか企画が通らなかったりして、上映が伸びたりもしましたが、それがようやく回復しつつあります。企画自体は前から出していたので、これから少しずつ動き出すようになるのではないかと、僕も期待しています。
最後にそれぞれが事前に描いたイラストにサイン入れを行いました。
と思ったら、キャラクターの背中の日の丸を塗っていた大友さん。
ちゃんとサインも入りました。
ということで、完成。
映画「SHORT PEACE」は7月20日から公開です。
© SHORT PEACE COMMITTEE
© KATSUHIRO OTOMO/MASH・ROOM/SHORT PEACE COMMITTEE
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