古代エジプトのミイラがはめていた世界最古の義足
エジプトでミイラとともに発掘された、人間の足のつま先の形をした2つの「義足」。イギリスで行われた実験により、これらの義足が単に外見を補うだけでなく実際に歩行を助ける実用的な義足だったことが証明され、世界最古の義肢であることが明らかになっています。
これまで世界最古の義肢とされていたのはイタリア・カプアで発見されたローマ時代の義足「Roman Capua Leg」(紀元前300年ごろ)なのですが、このエジプトの義足はそれより数百年も古いとのことで、古代エジプトの医学の先進性を裏付ける発見と言えそうです。
詳細は以下から。Mummies’ false toes helped ancient Egyptians walk (The University of Manchester)
マンチェスター大学のエジプト学者Jacky Finch博士は、右足の親指を失った2名の被験者の協力を得て、サルフォード大学のリハビリ医療センターで古代エジプトの2つの「義足」のレプリカを用いた歩行分析を実施しました。詳細はランセット誌に発表されています(PDF、335KB)。
右足の親指と足の一部の形をしたこの義足は1881年にイギリスの調査団によりテーベで発掘されたもので、当時のエジプトで大英博物館のコレクション収集に携わっていたGreville Chester牧師にちなみ「Greville Chester義足」と呼ばれ、現在も大英博物館に展示されています。「Cartonnage」という、リネン(麻)をのりで固め石こうで覆った張り子のような手法で作られているそうです。1989年から1992年にかけて行われた調査により、紀元前600年以前のものと特定されています。
木製の2つのパーツと革製のパーツ1つをひもでとじ合わせたこちらの義足はカイロのエジプト考古学博物館蔵。2000年にやはりテーベの墓地群で発見されたもので、Tabaketenmutという女性のミイラが足にはめた状態で埋葬されていました。紀元前950年~紀元前710年に生きたTabaketenmutは神官の娘であったことがわかっていて、糖尿病をわずらい虚血性の壊疽(えそ)により右足のつま先の一部を失ったのではないかと考えられるそうです。手前に写っている布を義足の上から包帯のように巻いて固定した状態で埋葬されていたとのこと。
「実用的な『義足』と呼べる装置には、いくつかの必須条件があります。負荷に耐え、使用中に壊れない材料でできていること。使用者や周囲の人にとって受け入れやすい、ある程度自然な外見を備えていること。接続部を清潔に保つため、着脱が容易である必要もあります。そして何より、歩行の助けとなることです」とFinch博士は語っています。「足の親指は体重の40%を支えると考えられ、前進の際重要な役割を果たしますが、親指を失った人の多くは親指無しの歩行にうまく順応することができます。義足の機能を正確に評価するには、歩行コースにカメラや圧力計のネットワークを設置し歩行分析を行う必要がありました」
カイロの義足(右手)と大英博物館のGreville Chester義足(左手)の忠実なレプリカを手にするFinch博士。
実験では2人の被験者は古代エジプトのサンダルのレプリカとともに2種の義足を装着し、歩行しました。義足は2つとも「本物の足との違いがわからないほど」というレベルではありませんが、被験者のうち1人は、両方の義足で非常に自然に歩くことができたそうです。どちらの義足でも有意な足裏にかかる圧力の増加は見られませんでしたが、被験者は2人ともカイロの義足が特に快適だったと報告したそうです。
Greville Chester義足には使い込んで摩耗したような形跡があり、カイロの義足には面取された前端や平らに整えられた底面などのいくつかの設計上の特徴が見られることから、これらの義足は埋葬の際に宗教的・儀式的な理由で装着されたというよりは、埋葬された人物が生前に身につけて暮らしていたものである可能性が高いとFinch博士は考えるようになったそうです。しかし、実際に歩行を補助する機能を備えた装置だったかどうかは、レプリカを作成し実験するまではわからなかったとのこと。
「今回の発見は、両方の義足が失った指の代わりに機能することができる、義肢と呼べるものだったと強く示唆します。この分野の医学は、エジプト人の足元から始まったのです」とFinch博士は語っています。
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