自分の髪の毛を抜いてしまう抜毛症、食生活により誘発される可能性
by clappstar
自分の髪の毛を引き抜いてしまう性癖により頭部に脱毛斑が出現する抜毛症(ばつもうしょう)は、人間では小学生から思春期にかけての女子で多く見られ、人口全体の2~4%が程度に差はあれ経験すると言われる疾患です。
人間の抜毛症と同じように繰り返し正常な体毛を引き抜く行為は動物にも見られるのですが、マウスを使った実験で、特異な食生活により健康なマウスで抜毛症が発症したり、もともと抜毛症のマウスの症状がひどくなることが明らかになっています。人間や動物の異常行動(強迫行動)が栄養状態により改善されるケースはすでに報告されていますが、逆に栄養状態が精神疾患を進行させたり発症のトリガーとなる場合もあると示すのは今回の研究が初めてとのことです。
詳細は以下から。Purdue Newsroom - Scientist shows link between diet and onset of mental illness
抜毛症について研究するパデュー大学の動物科学の准教授Joseph Garner博士らは、当初はマウスが体毛を抜く異常行動を改善できるのではないかと予想し、単糖とトリプトファンに富んだエサ(糖が通常のエサの8倍、トリプトファンが通常の4倍)を与えました。
実験対象となったマウスは遺伝的に「毛抜き」や「かきむしり」といった異常行動をするリスクが高い血統だったのですが、予想とは逆に、糖とトリプトファンに富むエサによって、マウスの異常行動は悪化したそうです。
次の実験では、実験開始時にすでに抜毛症により毛が薄い部分があるマウス・ひどい脱毛が見られるマウス・健康に見える(目立った抜け毛がない)マウスの3つのグループに分け、同様に糖とトリプトファンに富むエサを与えたところ、実験開始時に脱毛が認められたマウスでは抜毛症が悪化し、実験開始時には異常行動が見られなかったマウスでも、エサを変えてから12週で75%が抜毛症を発症したとのこと。
抜毛症のマウスでは脳のセロトニンレベルが低いことがすでにわかっています。Garner博士らは脳のセロトニン活性を上げることにより抜毛症を改善できるのではないかと考えました。
セロトニンは気分や衝動にかかわる神経伝達物質で、脳の中でトリプトファンを原料に作られます。トリプトファンは必須アミノ酸の一つで、食事により摂取されるのですが、血液中のトリプトファンは、脳へ到達するためのゲートをもっと簡単にくぐることができるほかのアミノ酸に邪魔をされ、なかなか脳までたどりつくことができません。
マウスに単糖とトリプトファンを同時に大量摂取させるというのは、骨格筋でのアミノ酸の取り込みを促進するインスリンの分泌を糖によって促し、脳へのゲートをブロックしているほかのアミノ酸たちが筋肉に取り込まれたすきに、セロトニンの原料となるトリプトファンを脳へ送り込むという作戦です。糖とトリプトファンを強化したエサにより、Garner博士らはマウスの脳でセロトニン活性が2倍になるのを確認することができました。ここまでは狙い通りだったというわけです。
しかし、セロトニンが増えれば抜毛症が改善するという予想とは逆に、マウスの「毛抜き」や「かきむしり」行為は増えてしまいました。そして、もとのエサに戻したところ、抜毛症の悪化は止まったそうです。
この機序は明らかになっていませんが、食生活が精神疾患の発症や進行を促す場合もあると示す意外な結果は、自閉症やトゥレット障害、抜毛症やスキンピッキング(つめで皮膚をむく強迫行動)などの精神疾患・発達障害が食生活に影響される可能性も示唆しています。
Garner博士によると、食生活と精神疾患の進行のかかわりはこれまで証明されたことはなかったとのことで、「アメリカ人の食生活における単糖の摂取量の増加が抜毛症などの疾患の増加に関係しているというのは、短絡的すぎる考えでしょうか?今回の実験ではマウスに糖だけでなくトリプトファンにも富むエサを与えたので、人間が摂取する糖と疾患の関係が示されたわけではありませんが、可能性としてはあり得ます」と語っています。今後はより人間の食生活に近い栄養バランスで実験を重ねる予定とのことです。
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