サイエンス

ネコのあごはなぜミルクを飲んでもぬれないのか?


ネコの俊敏でしなやかな動きや、時折見せる驚くべきバランス感覚にハッとしたことのある人も多いかと思いますが、そのエレガントさはミルクを飲むときにも発揮されているようです。

飼い猫が舌をペロペロとすばやく動かし毛を汚すことなく一滴もこぼさずにミルクを飲む様子に感心したマサチューセッツ工科大学の土木工学者が、同僚の物理学者や数学者とともに3年半がかりの研究で、ネコがあごをぬらさずにミルクを飲む驚異のメカニズムを解明しました。

Study reveals the subtle dynamics underpinning how felines drink - cee.mit.edu
https://cee.mit.edu/study-reveals-the-subtle-dynamics-underpinning-how-felines-drink/

液体をペロペロとなめるネコは舌の先を「J」の字のように裏側へ丸め、舌の表側から先に液体につけているということは、1940年にMITのHarold Edgerton博士ミルクの王冠の写真などで有名なエレクトロニックフラッシュストロボスコープ撮影の第一人者)により撮影されたネコがミルクを飲む様子のスローモーション映像により知られていました。ちなみにこのネコの映像を含む短編ドキュメンタリー「Quicker'n a Wink」は1941年のアカデミー賞を受賞しています。


しかし、MITの土木環境工学科のRoman Stocker准教授らによって撮影されたハイスピード映像により、ネコは舌を表から先にミルクに漬けているというより、舌の表側だけをミルクに触れているということが明らかになりました。

ネコは丸めた舌をひたしてミルクをすくいあげるのではなく、舌先をほんの少しミルクの表面に触れすばやく引き上げています。舌にくっついたまま引っ張り上げられたミルクに働く慣性が重力に勝っているわずかな時間、器に入ったミルク本体と舌との間に細いミルクの柱ができ、慣性力が重力に負けミルクの柱がぷちっと切れるその前に、ネコはぱくっと口を閉じ、空中のミルクをとらえるのです。家ネコの場合は平均で1秒間に4回ほどのペースでこの動作を繰り返しているとのこと。


Stocker教授らにより撮影されたスローモーション映像は以下から。

YouTube - Cutta Cutta (12x slower)


上の動画のモデルで、研究の発端ともなったStocker教授の飼い猫Cutta Cutta(8歳)。「Cutta Cutta」という名前はアボリジニの言葉で「星星」という意味とのことですが、まさに銀幕の大スターのようにカメラマンを待たせることをいとわない気まぐれなネコで、Stocker教授や同僚がCutta Cuttaの目の前にミルクを用意しカメラを構えても、数時間たつまで飲んでくれないこともあったそうです。


Cutta Cuttaの飼い主で、海洋微生物の生物物理学を専門とするMIT土木環境工学科の准教授Stocker博士と、同じくMITの土木環境工学科と機械工学科の准教授で軟らかい固体の力学を専門とする物理学者のPedro Miguel Reis博士、バージニア工科大学で生物流体力学を専門とするSunghwan Jung博士、プリンストン大学機械・航空宇宙工学科で液体表面の力学を専門とする数学者のJeff Aristoff博士からなるチームは、Cutta Cuttaを含む多数のイエネコがミルクを飲む様子や、Zoo New Englandの協力によりネコ科の猛獣(ライオントラジャガー)もハイスピード撮影し、その動きを分析しました。さらにYouTube上にあるライオンが水を飲む様子のビデオも分析しデータを得たとのことですが、YouTubeのビデオを研究材料として用いたのはScience誌に掲載された論文としてはおそらく初であるとのこと。

以下がそのライオンのビデオです。

YouTube - Male lions drinking at night


ハイスピード撮影されたこれらの映像を分析することにより舌の動く速度や、舌を液体に触れ引きあげる一連の動きを繰り返すペースを得たStocker博士らは、次にフルード数(流体の慣性力と重力の比を表す無次元数)を使った数学的モデルにより、小さなイエネコも大きなライオンも、すべて液体に働く重力と液体を引っ張り上げる慣性が均衡した絶妙なバランスで飲んでいるということを発見しました。

「ネコが1回口を閉じるごとに飲むことができる液体の量は、舌の大きさと舌が動くスピードにより左右されます。今回の研究結果は、それぞれのネコが、『ひとなめ』あたりで飲むことができる液体の量を最大化するために舌を動かすスピードを最適化していることを示唆するものです。流体力学に関して言えば、ネコは人々が考えているよりずっと賢いのかもしれませんね」とAristoff博士は語っています。ライオンやトラなどの大きなネコは、舌のサイズも大きいため、慣性と重力を均衡させるためイエネコよりゆっくりとしたペースでペロペロしているそうです。

また、Stocker博士らはさまざまなスピードでネコの舌の動きを再現するための装置も作成し、「舌のスピードの最適化」の仮説を検証したそうです。

YouTube - Experiment (100x slower)


生物流体力学を専門とするSunghwan Jung博士は、「プロジェクトに着手した当初は、ネコが水を飲むのに流体力学が関係するかどうか我々はまだ確信していませんでした。しかし、研究が進むにつれ、ネコの水飲みのメカニズムの流体力学的な美しさに感心させられることになりました」と語っています。

今回の研究は、ある現象を観察して感じた疑問に対し、仮説を立て、観察と実験、数学的モデルによって答えを出すという、自然現象の科学的研究としてはある意味伝統的なコースを踏襲したものだったとのこと。

「3年半前に始動したこのプロジェクトは、普段の研究とは異なり国やスポンサー企業から研究費が出るわけでもなく、研究室の院生を使えるわけでもなく、最先端の機器を使うわけでもありませんでしたが、チームワークと創造力を遺憾なく発揮できました。科学はわたしにとっては仕事ですが、私の情熱でもあります。科学はわたしたちが普段なにげなく眺めている現象を、違う視点で見せてくれ、物事の仕組みを理解させてくれるのです」とCutta Cuttaの飼い主Stocker博士は述べています。

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in サイエンス,   生き物,   動画, Posted by darkhorse_log

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