猛獣はブランド好き?食肉類に1番人気の香水はカルバン・クライン
すれ違った人からふわっとただよう良い香りに、思わずついて行ってしまいたくなった経験がある人は多いのではないでしょうか。苦手な香りや強すぎる香りに遭遇すると苦痛きわまりない場合もありますが、ほとんどの香水は人間が「良い香り」と感じるように調合されているはずです。
特に異性をひきつける香りであることを強調したブランディングの香水も多々ありますが、人間にとって魅力的なだけでなく、ライオンやヒョウ、チーターなどの食肉類をもとりこにしてしまう香水も存在するようです。今話題の「肉食系女子」にも効果があるのでしょうか……。
詳細は以下から。Obsession for big cats: Scientists find cheetahs and jaguars attracted to Calvin Klein fragrance | Mail Online
Big Cats Obsess Over Calvin Klein's 'Obsession for Men' - WSJ.com
ニューヨークのBronx Zoo(ブロンクス動物園)で行われた実験で、2匹のチーターにさまざまな種類の香水をかがせ、その反応を観察したところ、カルバン・クラインの男性用香水「Obsession for men」が最もチーターをひきつける香りと判明したそうです。
チーターの親子。
2003年に行われたこの実験では、丸太に吹きつけた香水にチーターが気付くまでの時間とそのにおいをかぎ続ける時間を、24種の香水で比較しました。その結果、エスティローダーの「Beautiful」は平均2秒、レブロンの「Charlie」は15.5秒しかチーターの関心をひきつけられなかったのに対し、カルバン・クラインの男性用香水「Obsession for men」を吹きつけた木に対しては11分6秒間にわたりにおいをかぎ、体をすり寄せたそうです。ちなみに2位はニナ・リッチの「L’Air du Temps」で、10分24秒だったそうです。
「Obsession for men」は1986年発売のロングセラーで、マンダリンとスパイスの奥にムスクやサンダルウッド、アンバーが潜むユニークでパワフルな昼向き(オフィスに合う)の香りとのこと。
調合はもちろん企業秘密ですが、原料には「変性アルコール・水・ 香料(パルファム)・ (アクリル酸アルキル/アクリルアミド)コポリマー・α-イソメチルイオノン・オキシベンゾン・安息香酸ベンジル・ケイ皮酸ベンジル・ブチルメトキシ-ジベンゾイルメタン ・シンナミルアルコール・ シトラール・シトロネロール・クマリン・メトキシケイヒ酸エチルヘキシル・サリチル酸エチルヘキシル・オイゲノール・トリーモス抽出物・ゲラニオール・ヘキシルシンナムアルデヒド(カモミール油に含まれる芳香族アルデヒド)・ホホバエステル加水分解物・リモネン・リナロール・着色料」が表示されています。
このネコ好きのする香り「Obsession for Men」を生み出した調香師の一人Ann Gottliebさんは、「なめたくなるようなバニラの香りをフレッシュグリーンのトップノートが包み込み、テンションを高めるのです。人間にとって好奇心を刺激する香りですが、動物にとってもそうだったようですね」と語っています。「Civet(ジャコウネコ)が分泌するムスキーな香りの成分など、合成した『動物香』も含まれていて、香りにセックス・アピールを与えています」
ネコ科の猛獣をとりこにする「Obsession for Men」の効果は、野生動物保護活動にも役立てられています。グアテマラのMaya Biosphere Reserve(マヤ自然保護区)の熱帯雨林では、ジャガーの生息数の把握のため2007年からこの香水が利用されているそうです。
ジャガーはなかなか人前に姿を現さないため、個体数の把握は熱帯雨林の「けもの道」に沿って設置された熱と動きに反応して記録するセンサー付きカメラに頼っています。ジャガーの斑は人間の指紋のように一体ずつ異なるため、録画されたジャガーの模様から個体を識別し、個体数を数えているというわけです。
マヤ自然保護区で活動するWildlife Conservation SocietyのRoan Balas McNab氏は、ブロンクス動物園の実験について耳にし、「Obsession for Men」を染み込ませた布をモーションセンサー付きカメラの前に置くことを思いつきました。
カメラの前の地面に打ち込んだくいに布を結びつけ、香水をスプレーします。写真はMcNab 氏の同僚Rony Garcia氏。
ジャガーは1km先から「Obsession for Men」の香りをかぐことができるとのこと。香り付きのカメラの前を通りかかるジャガーの数は香り無しの時と比べ3倍に増えたほか、香りをじっくりかぐためにカメラの前での滞在時間も長くなり、模様がはっきりと判別できる映像が増えたそうです。また、これまで撮影されたことのなかったジャガーの求愛行動などをとらえた貴重な映像も、香水付きカメラのおかげで撮影できたとのこと。
カメラに近づいてくんくんとにおいをかぐので、顔や体の模様もはっきりと判別することができます。「Obsession for Men」を使う前は、撮影された映像の30~40%は個体判別に役立たない映像だったそうです。
「Obsession for Men」がジャガーを引きよせる効果があまりにも強力なため、McNab氏は当初、密猟者に使われることをおそれ、香水の威力を公にすることをためらったそうですが、密猟者は動物の死体という生物学者には倫理的に使えない「餌」を使うため、ほかの科学者に香水の効果を広め動物保護に役立てる方が密猟者に使われるリスクを上回る効果があると判断したそうです。
「Obsession for Men」の全世界での売上は去年1年間で約8550万ドル(約78億円)で、発売から四半世紀近い現在でも、男性用香水の売上ベスト10に入っています。しかし、自然保護区付近の熱帯雨林ではこの香水を売っている店はなく、1瓶60ドル(約5500円)程度の価格もあって、香水の確保はなかなかの難題です。McNab氏は国境を越えるたびに免税店をチェックし安く買える機会を見逃さないようにしているほか、グアテマラを訪れる友人や同僚にも持ってきてもらうよう頼んでいるそうです。
ブロンクス動物園では、トラやチーターなどさまざまな食肉類をリラックスさせるためこの香水を利用しているのですが、やはり高級品であるため、香水購入用の予算があるわけではなく、寄付に頼っているそうです。動物のストレス解消のためにアロマセラピー的に香水を利用するという試みはさまざまな動物園で行われているようなので、使いかけで飽きてしまった香水やもらい物で使っていない香水などが大量にあるという人は、寄付を受け付けている動物園を探してみるとよいもしれません。
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