サイエンス

多数派の意見は、すでに対立する見解を持っている人には受け入れられない


多数派でいることは居心地がよいもので、自分の見解が多数派だと知ると、「みんなもこう思ってるんだから、やっぱりわたしは正しい」と自信を持つことも多いのではないでしょうか。

しかし、逆に自分の見解が多数派と一致しないと知らされた人は「みんながこう言うのだからわたしは間違っているのかもしれない」と考え直すことは少なく、多くの場合、自分の見解により自信を持つようになることが、実験で明らかになりました。


これには「多数派に流されない自分」や、「多くの人が気付かないことに気がつく自分」を誇らしく感じる心理が働いているようです。

詳細は以下から。People Reject Popular Opinions If They Already Hold Opposing Views, Study Finds

「多数派」というものには力があり、政治や思想、学問上の意見の対立のような場でなくとも、例えばインターネットで商品を購入する際に「1番売れている商品」や「10人中9人の購入者がこの商品を高く評価しています」といった「多数派の見解」が購入の決め手になったという経験がある人も多いのではないでしょうか。

あるテーマについての見解をまだ持っていない人は、そのテーマが熟考を要さない取るに足りない問題である場合には「多数派」の意見に賛同することが多く、そのテーマが熟考に値する問題である場合には「少数派」に耳を傾ける場合もあるということが、以前からわかっています。洗剤を買う時には1分も迷いたくないので1番売れている商品を選ぶが、選挙で誰に投票するかを決める際には少数派の意見も聞いてみる、といった具合です。


photo by Yahya Natanzi

これまでの研究は、人が「自分の見解」を形成する前に「多数派の見解」を知らされた際の反応を調べたものが中心でしたが、すでに自分の見解を持っている人が、自分の見解は多数派なのか少数派なのかを知らされた場合にはどう反応するのでしょうか?

オハイオ州立大学心理学科のRichard Petty教授らの研究により、すでに自分の見解を持っている人は、その見解が少数派だと知らされて考えを改めるということは少なく、むしろ自分の見解の正しさに自信を強くする傾向があることが明らかになりました。研究はスペインのAutonomous University of MadridのPablo Briñol博士(元オハイオ州立大学のポスドク)とJavier Horcago氏と共同で行われ、論文はJournal of Personality and Social Psychology誌に掲載される予定とのこと。「多数の人が受け入れた意見を覆すことができる自分を、誇らしく感じるのかもしれません」とPetty教授は語っています。

例えば、自分が気に入っている商品のレビューをインターネットで見た時に「10人中9人の人がこの商品に不満を持っています」と書いてあっても、「この商品の良さはわたしにしかわからない」「良さが理解できるわたしはすごい」と、その商品をますます強く気に入るようになる、というわけです。あるいは、自分の好きな人が大勢に嫌われていると知ったときには「あの人の良さがわかるのはわたしだけ」と、ますますその人を好きになる心理が働くということなので、こうして「嫌われ者だが好きな人には熱烈に好かれる」といった状態が生まれるのかもしれません。


Petty教授らはスペインで大学生を対象に一連の実験を行いました。実験の一つは、学生たちになじみのない国際的な企業を「将来的にインターンとして働くことができる可能性がある」として紹介し、その企業を評価してもらうというもの。学生たちはその企業を高く評価する「強い論拠」(例:勤務スケジュールの柔軟性により従業員の満足度が高い)と「弱い論拠」(例:ロゴがかっこいい)のどちらかを聞かされた後に企業の評価を行い、狙い通り「強い論拠」を聞かされた被験者の多くは高い評価を、「弱い論拠」を聞かされた被験者の多くは低い評価を下し、被験者のそれぞれに「自分の見解」と信じさせながら企業に対する「肯定的な見解」と「否定的な見解」を抱かせることができました。


そして「肯定的な見解」または「否定的な見解」を持つようになった学生たちの半数に「被験者の86%はこの企業に肯定的、14%が否定的という結果が出た」と、残り半数には逆に「86%は否定的、14%が肯定的」と知らせ、自分が多数派か少数派かを知った後の見解に変化はあるかを調べたところ、多数派の見解はすでに対立する見解を持っている被験者には受け入れられず、自分が少数派と知ることによって自分の見解に自信を持つようになるという結果が出たとのこと。

すでに「否定的な見解」を持っている学生の中では、「86%が否定的」と知らされた学生より「否定的な見解の学生はわずか14%」と知らされた学生の方が、自分の見解に対する自信を強くしたそうです。Petty教授は「多くの人が見落としたこの会社の欠点に気付くことができた自分は、評価力がある」と感じるのかもしれません、と語っています。


つまり「すでに熟考して自分の意見を持っている人は、自分が多数派だと知らされても、少数派だと知らされても、見解を変えることはない」ということなので、以前からわかっていた「自分の見解を持つ前に多数派の見解を知らされると、その見解に賛同しやすい」ということと合わせると、この心理は人を説得する際に役立つだろうとのこと。

例えば、商品を売るときに、「この商品はここがすごい」とアピールした後に「こんなに多くの人がこの商品を買っています」と伝えるか、その逆の順番で伝えるかは、「ここがすごい」というアピールポイントが強いか弱いかで判断すればよいということになります。

説得力のあるアピールポイントであれば先にアピールしてよいのですが、説得力のないアピールポイントの場合は、先に「こんなに人気があります」と伝えてからどんな商品かを説明した方が効果的です。

先に「買いたくない」という考えを持たれてしまった後に商品の人気を伝えても、「多くの人が買ってしまった商品を買わない自分」を誇らしく思う心理も働き、ますます買う気を失われてしまいますが、どんな商品か説明する前で相手が「買いたい」とも「買いたくない」とも思っていないうちなら、「自分の見解を持つ前に多数派の見解を知らされると、その見解に賛同しやすい」という心理の恩恵を受けられるからです。


何も考えずに多数派の意見に流されるのも危険なことですが、自分の意見が多数派と一致しない場合には、少数派であることに酔って人の意見に耳を傾けない頑迷な状態にならないよう、気をつけたいものです。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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