「給与支払日のわずかなズレ」がパートナーの女性に対する暴力増加に関連している可能性

多くの会社では毎月の給与支払日が固定されていますが、時には金融機関の休日の関係で支払日が数日ずれることがあります。そんなささいな給与支払日のズレが、パートナーの女性に対する暴力の増加に関連しているとの研究結果が報告されました。
Overstretched: Financial distress and intimate partner violence in the U.S. - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0167629626000226
Minor delays in regular paychecks elevate the risk of intimate partner violence
https://www.psypost.org/minor-delays-in-regular-paychecks-elevate-the-risk-of-intimate-partner-violence/
配偶者や恋人からふるわれる暴力はドメスティック・バイオレンス(DV)と呼ばれ、世界各国で問題となっています。アメリカでは女性の3分の1以上が、一生のうちに一度は親密なパートナーからの身体的暴力・レイプ・ストーカー行為などを受けているとのこと。
今回、フィンランド・アールト大学の博士研究員であるオリビア・マージ氏らの研究チームは、一時的な経済的不安が家庭内の安全にどのような影響を与えるのかを調査しました。研究チームは、「多くの研究で、失業や景気後退といった大きな経済的ショックが、親密なパートナー間の暴力を増加させる可能性があることが示されています。私たちは、もっと小規模で一般的な経済的負担も、同様の影響を与える可能性があるのかどうかを理解したかったのです。特に、総収入や雇用状況が変わらなくても収入のタイミングと支出が一致しない場合に、世帯が直面する日常的な摩擦に関心がありました」と述べています。
研究チームはこの点を検証するため、「半月ごとの給与支払い日」を設けている民間企業に勤める人々に目を向けました。一般にこのスケジュールでは、労働者は毎月15日と月末の月2回に分けて給与を受け取りますが、定期的な支払日が週末や祝日に当たる場合、企業は慣例的にその前の金曜日に給与を支払います。
一見すると、給与が前倒しで支払われるのはラッキーに思われるかもしれません。しかし、早く支払われた分だけ「次の給料日までの期間」が長くなってしまい、家計としては同じ金額でより長い期間やりくりしなくてはいけなくなります。その結果、世帯が「短期的な経済的困窮」に見舞われる可能性が高まるとのこと。

研究チームは、アメリカにおける1995年~2019年までの全国犯罪被害調査の月次記録を用いて、ここに含まれる22万1436人の女性被害者から得られたデータを取得。これらの女性のパートナーが民間企業に勤めている場合、「短期的な経済的困窮」に見舞われる可能性が高いとして、給与支払日がズレた月とそうでない月の暴力事件の発生件数を比較しました。
分析の結果、給与支払日が週末や休日に当たることによる「短期的な経済的困窮」は、親密なパートナー間における暴力発生率を著しく高めることが明らかになりました。マージ氏らは心理学系メディアのPsyPostに、「最も驚いたのは、これほど小さく一時的なショックが測定可能な影響を与える可能性があるということでした。私たちは失業や大幅な収入減を研究しているのではなく、数日間家計をやりくりしなければならない短い期間を研究しているのです」と述べています。
今回の研究では、経済的に苦しい日が1日増えるごとに、そうでない月に比べて親密なパートナーからの暴力が発生する確率が約20%増加すると推定されました。この傾向は「月末の給与支払日」までの期間が延びた場合に最も強かったそうで、研究チームはこの傾向について、月末になると家賃や光熱費といった避けられない支出タイミングがあるため、経済的プレッシャーが強まるのではないかと推測しています。
こうした給与支払日のズレによる暴力事件の増加は、経済的に不安定な世帯に集中して発生していました。たとえば、年収2万5000ドル(約404万円)未満の世帯に住む女性は、給与支払日の遅れによってより高いリスクにさらされました。また、子どもがいる世帯もリスクが高まる傾向があり、これは子育てが経済的余裕を失わせるからだと考えられます。

これらの結果の背後にある日々の消費行動を理解するため、研究チームは1998年~2011年の消費者支出調査の購買データと、2003年~2019年のアメリカ時間利用調査の日常生活に関する情報も分析しました。その結果、給与支払日までの期間が長引いた時、家計は外食やレジャー活動といった消費財への支出を大幅に削減したことが判明しました。
また、人々が購入品について調べたり、複数店舗で価格を比較したりする時間は1日あたり約2分増えたほか、育児の役割分担にも変化が出ていたとのこと。一方、他の種類の犯罪については給与支払日までの期間が延びても増加する傾向は見られず、アルコールやタバコへの支出が増えるといった傾向もありませんでした。
マージ氏らは、「重要な点は、経済的苦境が小さかったり、あるいは一時的なものだったりしても、深刻な結果を招き得るという点です。たとえ短期間の遅延や家計の流動性の断絶であっても、家庭内のストレスを高め、親密なパートナー間の暴力のリスクを高める可能性があります。より広範に言えば、この研究はお金が入ってくるタイミングと、予測可能性が重要であることを示しています」と述べました。
なお、今回の研究を持ち出して、「金銭的問題が家庭内暴力の唯一の原因である」と結論付けるべきではありません。親密なパートナー間の暴力は複雑な要因が絡み合う問題で、短期間の経済的ストレスはあくまで要因のひとつに過ぎません。
今後の研究では、さまざまな銀行の介入策がこのストレスをどのように軽減できるかを検討することで、経済的に困難な状況にある家庭での暴力を減らす解決策が見つかる可能性があります。研究チームは、「支払いをより定期的に行い、家計の短期的な資金不足を解消する手助けをすることで、しばしば目に見えない紛争の原因を軽減できる可能性があります」と述べました。
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