サイエンス誌による2025年の科学的ブレイクスルーまとめ、今年はどのような科学的発展が起きたのかを総ざらい

科学誌のサイエンスが、2025年の科学的ブレイクスルーをまとめました。生命科学、天文学、考古学など、いくつかの分野から選出されています。
Science’s 2025 Breakthrough of the Year: The unstoppable rise of renewable energy | Science | AAAS
https://www.science.org/content/article/breakthrough-2025
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◆遺伝子編集技術による希少疾患の治療
2025年、肝臓がアンモニアを解毒するために必要な酵素をコードする「CSP1遺伝子」に欠陥がある男児が世界で初めて個別対応型遺伝子編集治療を受けました。この疾患を持つ乳児は血液や脳内に有害なアンモニアが蓄積するのを防ぐため、厳格なタンパク質制限食を続けなければならず、多くの場合リスクの高い肝移植が必要となります。
男児の出生直後、研究者らは男児の欠陥遺伝子内の単一塩基配列誤りを修正できる「塩基編集ツール」(CRISPR遺伝子編集技術の派生形)の開発をわずか6カ月で成し遂げ、当局の承認を得て治療にこぎ着けました。男児は治療により多くのタンパク質を摂取できるようになり、体重が増加し、アンモニア濃度を制御するための薬剤量も減少しました。
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◆淋病(りんびょう)に対する治療薬の発見
この数十年間目新しい治療方法がなかったという淋病に効果的な薬が2025年に2つ発見され、臨床試験で有効性を示し、当局によって承認されました。
毎年8000万人以上が感染する淋病は、痛み、性器からの分泌物、出血を引き起こすだけでなく、女性では骨盤内炎症性疾患、男性と女性の双方では不妊症など、深刻な合併症を引き起こす可能性もあります。また、患者のHIV感染リスクを高め、新生児の目が感染すると失明の原因となることもあります。原因菌である淋菌はほぼ全ての抗生物質に対して耐性を獲得していて、最後に有効だった薬剤群であるセファロスポリン系抗生物質も効果が低下し始めているのが現状だそうです。
新しく効果が見られた薬の1つは、既に尿路感染症治療薬として承認されている「ゲポチダシン」という薬で、既存の薬と同等の淋病治療効果を示しました。もう1つの新薬は「ゾリフロダシン」で、ゲポチダシンと同様に細菌におけるDNA複製に不可欠な2つの酵素を標的とするものですが、作用機序が異なる別の薬剤クラスに属します。両薬剤とも注射ではなく錠剤で服用できることが利点とされています。

◆がん細胞に対する神経細胞の寄与の解明
腫瘍は神経細胞を含むさまざまな体細胞を誘惑し、自身の増殖と拡散を助けるよう仕向けます。2025年、研究者らは神経細胞ががん細胞をどう助けるのかを解明し、細胞の化学的エネルギー源の大半を供給する細胞小器官であるミトコンドリアを移譲することで実現していることを突き止めました。この支援により、活性化されたがん細胞は体内の他の部位へ容易に転移するようになります。今回の研究で、移譲を阻害すれば転移を遅らせられる可能性が示唆されました。

◆新型望遠鏡の完成
新たな天文学を加速させるために設計された新型望遠鏡を擁する「ヴェラ・C・ルービン天文台」がチリの山頂で完成し、2025年に初めて観測画像が公開されました。他の主要な望遠鏡が対象をズームインするのとは異なり、ヴェラ・C・ルービン天文台は広い視野で天球を横断するように撮影します。今後1年で、ヴェラ・C・ルービン天文台は史上全ての望遠鏡をしのぐ光学データを収集し、オンラインポータルを通じて誰もがアクセスできる史上最も詳細な宇宙の3Dマップを徐々に構築していく予定です。
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◆「デニソワ人」の頭蓋骨が判明
デニソワ人は、ネアンデルタール人や現代人の近縁とされる旧人類です。2010年にシベリアのデニソワ洞窟で発見された指骨の断片からその存在が明らかになり、台湾からチベットに至るアジア各地の遺跡で発見された小さな骨片からもDNAが検出されたデニソワ人ですが、完全な個体はおろか頭蓋骨すら見つかっていなかったため、研究者らはデニソワ人の外見を知るすべがありませんでした。
ところが2025年、数十年前に中国のハルビン近郊で発見された頭蓋骨のDNA抽出に成功し、この頭蓋骨がデニソワ人のものであったことが明らかになりました。研究者らは、太い眉弓、厚い骨、強力な顎を持つ頭蓋骨から外見が予想できるようになりました。

◆大規模言語モデルの科学に対する貢献
2020年にGoogle DeepMindがタンパク質構造予測モデルの「AlphaFold2」を発表したことを皮切りに、大規模言語モデルが科学の分野に大きく貢献することが示されました。
例えば化学分野では、MetaのLlama LLMを微調整したバージョンが、これまで報告されていなかった複雑な反応の最適条件をわずか15回の実験で特定しています。生物学分野では、Googleのエージェント型AIが既存薬剤の中から肝線維症治療薬の新規候補物質を特定。さらに細菌内でのDNA寄生的拡散に関する知見をわずか2日で再現しました。この発見には従来、研究者が数年を要していました。
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◆素粒子「ミューオン」の謎が解明
ミューオンと呼ばれる粒子は電子の「親戚」で、電子より重く不安定です。その磁性は量子不確定性によりミューオンを取り巻く真空を出入りする粒子からわずかな増強を受けるものですが、もしそれらの粒子に標準モデルで予測できないものが含まれる場合、ミューオンの磁性は既存の理論の予測と異なる可能性がありました。2001年に始まった実験により、ミューオンの磁性が予測値より約40億分の4強いことが示唆されました。
◆異種移植が新記録を達成
他種の臓器を人間に移植する試みは遺伝子操作により安全性が高まっています。近年ではヒト免疫系による拒絶反応を低減させた豚の登場により目覚ましい進展を遂げ、2025年には69個の遺伝子を改変した豚の腎臓が人の体内で約9カ月間機能したことが確認されました。これは従来の最長記録をわずか数日下回るものでしたが、この最長記録は1964年にチンパンジーの天然腎臓で達成されたもので、チンパンジーは現在臓器提供源として倫理的に認められていないものです。遺伝子操作をわずか6カ所施した豚の腎臓も、中国の女性患者においてほぼ同等の持続期間を達成しました。
◆暑さに負けない米の開発
作物は十分な水分があれば猛暑の直射日光に耐えられますが、蒸し暑い夜は特に深刻な問題を引き起こします。2025年、中国の研究者らが稲を熱による収穫量低下と品質悪化から守るのに役立つ遺伝子を発見。この遺伝子を商業品種に交配または組み込むことで、気候変動による農地の温暖化が進む中、稲の収穫を守ることができるかもしれない可能性が浮上しました。寒冷地で栽培され高温に弱いジャポニカ米の亜種が、この遺伝子から特に恩恵を受ける可能性があるとのことです。

なお、サイエンス誌はブレイクスルーの首位「ブレイクスルー・オブ・ザ・イヤー」に「再生可能エネルギーの驚異的な成長」を選んでいます。サイエンス誌のティム・アッペンゼラー氏は「中国のグリーンエネルギー転換は他国を圧倒する規模であり、2024年だけで約100基の原子力発電所に相当する新規太陽光・風力発電設備が導入され、そのペースは2025年に入りさらに加速しました。中国は2024年に約1800億ドル(約28兆1000億円)規模の輸出産業も生み出しており、低コストの再生可能エネルギーが世界の多くの地域で利用可能になりました」と述べています。
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in サイエンス, Posted by log1p_kr
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