AIで使うNVIDIAのGPUブラックマーケットの恐るべき実態、アメリカ政府によって中国への輸出が禁止されているGPUをどのようにして入手できるのか?

アメリカ政府による対中輸出規制にもかかわらず、中国国内ではNVIDIAのAI用高性能GPUが依然として入手可能となっています。ゲーム関連ニュースメディアのGamers Nexusの取材班が実際に香港や深圳、鄭州などを訪れ、密輸業者、仲介人、技術者、エンドユーザーなどGPUブラックマーケットに関わる人たちに直接接触し、その実態を暴いています。
THE NVIDIA AI GPU BLACK MARKET | Investigating Smuggling, Corruption, & Governments - YouTube

GPUの密輸自体は、大規模な組織犯罪というよりも、個々人が連携する「アリの行列」のようなネットワークで行われているとのこと。アメリカなどでGPUを入手する「供給者」、アメリカ中を車で回ってRTX 4090などを個別に買い集める「買い付け屋」、個人の荷物としてGPUを1〜2個ずつ手持ちで国境を越える「運び屋」、香港や深圳の倉庫で集積されたGPUを管理・流通させる「仲介業者」と「故買屋」、壊れたGPUを修理したりスペックを改造したりしてAI用に強化する「修理屋」という順番にGPUが行き渡り、最終的にブラックマーケットに放出されるという流れです。
「供給者」は密輸されるGPUの出発点。家電量販店やオンラインショップで一般消費者が正規品を購入する場合と、中国国内の製造工場で品質管理に不合格した品や廃棄予定とされたものが廃棄されずに裏ルートで流出する場合の2パターンが存在します。後者は「生産ラインから落ちた」と表現されるとのこと。

「運び屋」は「供給者」から次の「仲介業者」へ物理的にGPUを運ぶ役割です。大規模なコンテナ輸送ではなく、個人の荷物に紛れ込ませて運ぶケースが多いため、「アリ」とも呼ばれます。運び屋は留学生や旅行者、アメリカから中国へ帰国する学生などが、自分の荷物として1〜2枚のGPUをハンドキャリーするケースが多いそうです。たとえ税関で止められても「ゲーミングPC目的の個人使用」と主張しやすく、発見が困難。過去には、生きたロブスターの箱にGPUを隠したり、妊婦を装った「偽の腹部」にチップを隠して密輸したりする事例も報告されています。

また、「買い付け屋」と呼ばれる人物が供給者から直接商品を確保し、中国側の業者に転売するケースもあります。彼らはアメリカを車で走り回り、個人売買でNVIDIAのGPUを買い集めます。車のトランクにはポータブルバッテリーと検証用PCを積んでおり、その場で動作確認をして現金で買い取るとのこと。

「仲介業者」は密輸されたGPUを受け取る窓口です。香港や深圳に拠点を置き、複数の買い付け屋や工場ルートから集まってきたGPUを管理します。仲介業者は倉庫を運営しており、そこには大量のGPUが段ボール箱に積まれているとのこと。彼らは直接エンドユーザーに売るのではなく、故買屋や地域の流通業者に卸します。

「故買屋」はいわば闇ブローカーで、仲介業者とエンドユーザーをつなぐ、現地の販売業者です。彼らは深圳の電気街などにオフィスを持ち、注文が入ると倉庫から商品を取り寄せて販売します。故買屋は「顔が利く」ことが重要で、誰が在庫を持っているか、誰に売れば安全かを知っています。

Gamers Nexusの取材班は深圳の電気街で、輸出規制対象である最新の「GeForce RTX5090」を購入することに成功しました。

売価はアメリカでの定価とほとんど変わらないものもあり、規制されたはずのGPUが価格高騰すら招いていないほどに出回っていることを示しています。

壊れたGPUを修理したり、スペックを改造して価値を高める「修理屋」は、メーカー保証がない密輸品を改造したり修理したりする役割を担います。ムービーでは、故障したRTX 4090からGPUチップとメモリを取り外し、新しい基板に移植し、メモリを倍の48GBに増設する「魔改造」が行われていました。

そして、最終的にこれらのGPUを購入し、使用する組織や個人が「エンドユーザー」です。主に大学の研究室やAI開発企業、データセンターなどが該当します。エンドユーザーはAI開発競争に勝つために、手段を選ばずGPUを入手しようとしています。取材に応じた香港の大学研究者らは、規制前に入手したGPUや個別に調達したGPUを使って研究を続けており、小規模な調達であれば規制の影響は限定的であると語っています。

Gamers Nexusは、多くの現地関係者が「NVIDIAは製品のシリアルナンバーから流出経路を追跡できるはずなのに、売上のために黙認している」と考えていると述べ、NVIDIAが見て見ぬふりをしている可能性を指摘しました。Gamers Nexusは取材の結果から、NVIDIAとAMDは規制対象であるH200やMI308といった特定チップの中国への販売を許可される代わりに、その売上の15%をアメリカ政府に納めるという取引、事実上の徴税・収益分配を行ったと主張しています

Gamers Nexusは「NVIDIAはかつてのようなハードウェアメーカーではなく、金のためなら政治をも動かし、倫理的な問題には目をつぶる、巨大で狡猾な政治的プレイヤーに変貌した」と批判しています。そして、GPUのブラックマーケットはそのような企業の姿勢と、米中対立の隙間で必然的に生まれた「必要悪」のようなエコシステムとして機能していると指摘しました。
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