MicrosoftやIBMはバッテリー用新素材の探索にAIを活用して膨大な選択肢の中から有力候補を絞っている

現代社会ではスマートフォンやノートPC、電気自動車などありとあらゆるデバイスにバッテリーが用いられており、より効率的なバッテリー素材の発見がますます重要性を帯びています。MicrosoftやIBMなどの大手テクノロジー企業は、バッテリー用新素材の探索にAIを活用していると、アメリカ電気電子学会(IEEE)が運営するウェブメディアのIEEE Spectrumが報じました。
AI Drives Battery Innovation at Microsoft, IBM - IEEE Spectrum
https://spectrum.ieee.org/ai-battery-material

バッテリーの材料のうち、バッテリーの性能や安全性に大きく関係しているのが電解質です。Microsoftの研究チームはAIを活用して充電式バッテリーの新たな電解質候補の探索に取り組んでおり、2023年に充電式のリチウムイオンバッテリーに必要なリチウムの量を約70%も削減できる新素材を発見しました。研究チームはAIモデルの力を活用することで、約3250万通りもの候補からわずか80時間以内に有望な候補を見つけ出したとのこと。記事作成時点ではパシフィック・ノースウェスト国立研究所の研究チームが、新たに発見された新素材であるNaxLi3−xYCl6を合成し、バッテリー構造でテストする計画を立てています。
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高度なコンピューティングやAIプラットフォームを通じて化学および材料研究を加速させるMicrosoftのプログラム・Azure Quantum Elementsのプロジェクトリーダーを務めるネイサン・ベイカー氏は、「私たちの目標はこうしたAIモデルのひとつを活用し、科学的発見を加速させる可能性を示すことでした。3250万もの材料候補を精査し、その作業を数年ではなく数十時間で完了できることを実証したのです」と述べています。
Microsoftの研究チームが開発したAIモデル「M3GNetフレームワーク」は、分子動力学シミュレーションを加速させ、原子拡散率などの材料特性を評価するとのこと。研究チームはまず、AIモデルを用いて新しい化学元素の組み合わせを既知の結晶構造に投入させ、結果として得られる分子のうちどれが安定するのかを判定させました。これにより、3250万もの材料候補が50万まで絞られたそうです。
続いてAIモデルは、これらの材料候補をバッテリーの動作に必要な化学的性質に基づいて選別し、材料候補はわずか800種類にまで絞り込まれました。その後は従来のコンピューティングと昔ながらの人間が持つ専門知識を組み合わせ、最終的にNaxLi3−xYCl6の特定に至りました。

リチウムイオンバッテリーに使われる希少な元素の代替となったり、危険性を低減したり、性能を高めたりする材料をAIを用いて探索する試みは、Microsoftだけではなく世界中の研究者によって行われています。
ニュージャージー工科大学のディバカール・ダッタ准教授は2025年8月、AIを用いてリチウムイオンバッテリーを上回る性能を持つ電池の材料候補を5つ特定したとの論文を発表しました。ダッタ氏は、「私たちはAIに材料科学者になる方法を教えているのです」と述べました。
ほぼ無限に存在する材料候補の空間をAIモデルに探索させるという手法は、この分野における転換点となっています。新しいバッテリー材料の発見を支援するAIアルゴリズムを開発したスタンフォード大学のオースティン・センデック教授は、「高速で動作するモデル」と「正確な結果を提供するモデル」の間の妥協点を見つけることが重要だと主張しています。
センデック氏は、材料探索を行うAIモデルでは「広さ」と「深さ」の両方が必要だと指摘。ここで言う「広さ」は知識を無限の化学空間全体に適用することを指しており、「深さ」は材料特性や工学、化学に関する膨大で詳細な科学的知識のことです。センデック氏は、「まさにそこにAIの可能性が生まれるのです」と述べました。

IBMの研究チームは2025年に発表した論文で、AIを活用したアプローチで既存のバッテリーに使われている電解質よりもはるかに高いイオン伝導性を持つ、新たな電解質候補を特定したことを発表しました。一般的な電解質には塩や溶媒、添加物など6~8種類の成分が含まれているため、AIなしではすべての組み合わせを検討することはほぼ不可能だとのこと。
研究チームは有望な電解質候補を絞り込むため、数十億個もの分子を学習させた化学基礎モデルを構築しました。このモデルをバッテリーに関連したデータでトレーニングすることで、AIが個々の分子からデバイス全体に至るまでのスケールで、バッテリー用途における重要な特性を予測できるようにしています。
IBMリサーチの主任研究員であるヨンヘ・ナ氏は、この研究は特殊な新素材を開発するのではなく既存材料の新たな組み合わせを研究するものであるため、将来的なバッテリー開発に貢献する可能性がはるかに高いと考えています。研究チームは記事作成時点で、非公開のEVメーカーと協力して高電圧バッテリー用の電解質材料を設計しているとのことです。
IBMの研究チームは有望な材料の探索だけでなく、研究者らが合成した材料のテスト段階でもAIを活用しています。研究チームは、特定のバッテリー組成が寿命全体でどのように劣化するのかを予測する仮想モデル(デジタルツイン)を構築し、少ない回数の充電サイクルでバッテリーの長期的な挙動を予測しています。

AIを用いたバッテリー研究の新たなフェーズは量子コンピューターであり、MicrosoftもIBMも量子コンピューターを用いることで、複雑な化学反応をモデル化できる可能性があると考えています。ベイカー氏は、「従来のコンピューターは複雑な物質や分子、材料に関して正確な答えを生成する上で問題を抱えていることは周知の事実です。よって私たちの現在の目標は、量子テクノロジーを生成プロセスに組み込むことで、機械学習のトレーニング用により高精度なデータを得ることにあります」と述べました。
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in AI, サイエンス, Posted by log1h_ik
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