海水由来の低コストでエコな新型バッテリーをIBMが開発、電気自動車の高速充電も実現可能か
by Joenomias
現代では多くの人々がスマートフォンやタブレットなどのデバイスを持ち運び、車両においても化石燃料から電力への移行が進んでいるため、高性能なバッテリーの需要はますます高まっています。 IBM Researchの研究チームはこれまでバッテリーに使用されたことのない3つの独自素材を使い、従来のリチウムイオンバッテリーよりも高い性能を持つ環境に優しいバッテリーを開発したと発表しました。
Free of Heavy Metals, New Battery Design Could Alleviate Environmental Concerns | IBM Research Blog
https://www.ibm.com/blogs/research/2019/12/heavy-metal-free-battery/
バッテリーの需要が高まるにつれて、バッテリーテクノロジーの持続可能性への懸念も高まっています。IBM Reseachは、リチウムイオンバッテリーに使用されるコバルトやニッケルなどの重金属が、多大な環境的および人道的リスクをもたらすと指摘。以前からコバルトの採掘が児童労働によって成り立っている点が問題視されており、環境や人道に配慮した新たなバッテリーの開発が望まれています。
スマホのバッテリーが児童労働によって発掘されたコバルトで成り立っているという実態 - GIGAZINE
そこで、IBM Reseachの研究チームはこれまでバッテリーに使われたことのない3つの独自素材を使用して、重金属やその他の調達に懸念のある物質を使用しない新しいバッテリーを開発しました。このバッテリーに使われる物質は海水から抽出することが可能であり、重金属などの採掘よりも非侵襲的な方法で採取可能だとのこと。研究チームはバッテリーに最適な素材を見つけ出すためにAIを活用し、大量のデータから得られた洞察を人間の研究者に提供し、バッテリー性能を向上させるスピードを加速させたそうです。
IBM Reseachが開発した新たなバッテリーでは、コバルトやニッケルを含まないカソード材料と、高い引火点を持つ安全な液体電解質が使用されています。この組み合わせによって、バッテリーの性能低下に関係するとみられる充電中のリチウム金属デンドライト(樹状結晶)の生成を抑制し、従来よりもバッテリーの性能を上げることにも成功したとIBM Reseachは主張しています。
by George Sultan
IBM Reseachによると、新開発のバッテリーは初期テストの段階で非常に高いポテンシャルを発揮したそうで、主に以下の要素でリチウムイオンバッテリーを上回る能力に最適化することができたと主張しています。
・低コスト:カソードの材料としてコバルトやニッケルなどの重金属を使わないため、コストが削減できる可能性がある。
・高速充電:高電力用に構成したバッテリーを、わずか5分未満で80%の充電容量まで充電できる。
・高い出力密度:リチウムイオンバッテリーが達成できるレベルを上回る、1万W/L(ワット/リットル)の出力密度が達成できる。
・高いエネルギー密度:最先端のリチウムイオンバッテリーに匹敵する800Wh/L以上のエネルギー密度を達成可能。
・優れたエネルギー効率:バッテリーを充電する電力とバッテリーから放出される電力の比率が90%以上。
・低可燃性:電解質の低可燃性を実現して車両などにも安心して搭載できる。
これらの最適化可能な要素は、記事作成時点ではIBM Reseachの研究室における実験段階で確かめられた段階ですが、商用化が可能となれば低コストかつ急速充電可能な電気自動車が実現されるかもしれません。また、高いエネルギー密度や出力密度は、電気航空機の分野で有用となる可能性があります。
by MikesPhotos
新しいバッテリーを研究室内の実験段階から商業段階へと移すために、IBMはメルセデス・ベンツ、世界有数のバッテリー電解質サプライヤーであるセントラル硝子、バッテリーメーカーのSidusなどと提携することも発表しました。次世代バッテリーの大規模開発については依然として調査段階ですが、バッテリー分野の複数企業との提携が次世代バッテリーエコシステムの実現に役立つことを期待すると、IBMは述べています。
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