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リチウムイオンバッテリーの容量を最大70%まで向上させる技術が開発されている


スマートフォンや電気自動車の普及によって、エネルギー密度が高く充電効率も良いリチウムイオンバッテリーの需要は年々増加しています。しかし、リチウムイオンバッテリーの安全性や充電容量はまだ改良の余地があるといわれ、多くの研究者が研究・開発を続けています。そんな中、電極の材料を工夫することで従来のリチウムイオンバッテリーの性能を大きく向上させる技術を民間企業が開発し、2019年の商業化を目指していると報じられています。

To Boost Lithium-Ion Battery Capacity by up to 70%, Add Silicon - IEEE Spectrum
https://spectrum.ieee.org/energy/renewables/to-boost-lithiumion-battery-capacity-by-up-to-70-add-silicon

リチウムイオンバッテリーは、正極と負極の両方が層状になっています。リチウムイオンバッテリーを充電すると、正極から負極に電子が移動すると共に、リチウムイオンが電解質を通過して負極にたまっていき、電位差が発生します。反対に、放電中は電子が負極から正極へ移動し、同時にリチウムイオンが電解質を通過して負極から正極に移動します。つまり、負極にリチウムイオンがためられるほど、多くのエネルギーを蓄えられることになります。

by Argonne National Laboratory

スマートフォンやノートPC、多くの電気自動車で使用されているリチウムイオンバッテリーの負極はグラファイト(黒鉛)で構成されています。バッテリーの負極内では、リチウムは6個の炭素原子に囲まれるLiC6の形で貯蔵されています。

一方、リチウムイオンはケイ素(シリコン)とも結合し、Li15Si4を形成します。炭素は6原子でリチウムを1原子しか確保できないのに対し、4原子でリチウムを15原子も確保できるケイ素は、グラファイトよりも効率的に負極へためこむことができる材料として期待されていて、リチウムイオンバッテリーの開発者はグラファイトの代わりにケイ素を負極材料にする方法を研究してきました。

しかし、シリコン負極には充放電のたびに体積が大きく膨らんだりしぼんだりするという欠点があります。そのため、充放電のサイクルを繰り返すと負極が崩壊してしまい、電池の消耗が非常に早くなってしまいます。この欠点の解決法として、炭素とケイ素を混ぜ合わせて容量と寿命を両立する技術が確立されていて、実際にイーロン・マスクCEO率いるテスラが2016年に開発したリチウムイオンバッテリーは炭素とケイ素を混合した負極を使用しています。それでも負極中のケイ素含有量は少なく、完全なシリコン負極は完成していないというのが現状です。


カリフォルニアにあるスタートアップ、Sila Nanotechnologiesは厚さ1mmほどのシリコンウエハーを生産する独自の技術を開発。ウエハーのケイ素全体を多孔質にして積み重ねることで、無数に含まれる隙間を押し合わせるようにして体積増大を抑えることが可能となり、よりケイ素含有量の高いシリコン負極の開発に成功しました。これによって従来のリチウムイオンバッテリーの1.5~3倍の充電容量とエネルギー密度が実現できているとのこと。また、400~1000回のフル充放電サイクルが可能になっているそうで、Sila NanotechnologiesのバッテリーはBMWを初めとする自動車メーカーからも注目を集めています。


ジョージア工科大学の教授でSila Nanotechnologiesの共同創設者でもあるGleb Yushin氏は「Sila Nanotechnologiesが独自に開発した負極材料を使用すると、20~40%もの充電容量を増やすことができる上に、電極の厚さも最大67%薄くできるようになり、充電速度も従来の最大9倍まであげることができます」と説明して、2019年には商業生産に入る予定との明らかにしました。

また、同じくカリフォルニアのスタートアップであるEnovixは半導体業界から製造技術を輸入し、シリコン電極を搭載した自動車用の大型リチウムイオン電池の開発にほぼ成功したと主張しています。Enovixはシリコンウエハーとメッキされた金属箔、セラミック層を積み重ねた三次元セル構造を採用していて、電池全体的な形状は変化させないまま性能を大幅に向上させることができると主張しています。


novixの共同創設者兼最高技術責任者であるAshok Lahiri氏は「アプリケーションにもよりますが、バッテリーの容量は30~70%向上すると考えられます」と述べています。もしEnovixのバッテリーの商業化が実現した場合、リチウムイオンバッテリー産業全体を揺るがすことになるとIEEE Spectrumは論じています。

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in ハードウェア,   サイエンス, Posted by log1i_yk

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