人間は1日2時間ほど「盲目状態」になっている、脳はどのように現実を形作っているのか?

人間は普段何気なく目で見た世界を受け入れていますが、実は人間の目は「1日あたり2時間ほど実質的に盲目状態になっている」とのこと。一体なぜそのような状態が引き起こされるのか、なぜ人間はそのような状態でも当たり前のように世界を認識できているのかについて、科学系YouTubeチャンネルのKurzgesagtが解説しています。
Why Your Brain Blinds You For 2 Hours Every Day - YouTube

普段人間が見ている世界は、「現実」そのものではありません。

実は人間が生きているのは「今この瞬間」ではなく、脳がさまざまな情報を編集することで作り出した現実や記憶を認識しているにすぎないとのこと。

視覚は世界についての主要な情報源ですが、実は高解像度で見えているのはほんの狭い領域です。

それなのに視野のほとんどがはっきり見えているように感じるのは、眼球が「マイクロサッケード」と呼ばれる高速運動を1秒あたり3~4回ほど行い、焦点を少しずつずらしているためです。

これにより周囲の環境をスキャニングし、鮮明な画像を取得できます。それらを脳が編集することにより、世界を滑らかに認識できるというわけです。

マイクロサッケードの最中、本来であれば視界が激しくぶれるはずですが、脳がその間の視覚を抑制することで動きを見えなくしています。

マイクロサッケードにより実質的に目が見えなくなっている時間を合計すると、人は1日に約2時間ほど盲目状態になっていることになると、Kurzgesagtは指摘しました。

脳は視覚が働いていない間に起こったことを「推測」して埋めています。実際には目が見えていない間にもさまざまなことが起きていますが、それは知覚されません。

そもそも、脳に情報が入ってくる速度は感覚ごとに異なります。たとえば、スプーンでコーヒーカップをかき混ぜている時を例にすると、スプーンに反射した光が目に入ってくるのにはわずか1.3ナノ秒しかかかりませんが、コーヒーカップがスプーンにぶつかって立てた音が耳に伝わるには1.2ミリ秒ほどかかります。さらに、コーヒーカップに指先が触れた際に感じる熱は、指先から脳に伝わるまでに50ミリ秒もかかるとのこと。これらの異なる感覚は、脳内ですべて異なるタイミングで処理されています。

しかし、人々はこれらの体験を別々にするのではなく、すべてが同時に起きたひとまとまりの体験として認識しています。それは、脳がこれらの感覚をうまく処理して、「現実ではない現在の瞬間」を作り上げているためです。

人間が「現在」と認識しているものは、実際のところ過去が選択的に編集されたバージョンであり、実際に世界を認識するのは物事が起こってから0.3~0.5秒後のことだとKurzgesagtは説明しています。

さらに脳は、意識的な制御を超えて「未来の決定」すらも下しているとのこと。

たとえばプロによる卓球の試合では、ピンポン球は秒速25メートルもの速度で小さな卓球台の上を飛び回ります。

この速度では、視覚的な情報が脳に入ってから動こうとすると、とてもピンポン球の動く速度に追いつくことができません。

そのため、卓球選手の脳は相手の位置や動き、ラケットの向きなどから「将来的なピンポン球の位置」を予測しているとのこと。

脳はピンポン球がラケットに当たる前から筋肉に指令を出す準備をしておき、最も可能性が高い予測に基づいて動きを指示します。

この間、選手本人は「ピンポン球の位置を見て打ち返そうと思った」と感じているかもしれませんが、実際には考えるよりも先に脳が判断を下してピンポン球を打ち返しているというわけです。

このような事態は卓球のように激しいスポーツだけでなく、日々の歩行でも起きています。脳は常に「過去」の感覚フィードバックを処理し、「現在」および「未来」の状態について予測しています。

脳は今踏みしめた一歩の感覚が届くより前に、次の一歩を出すように筋肉へ指令を送っており、その次の一歩のパターンも計算しています。

そんな時、「バナナの皮を踏んで滑る」といった不測の事態が起きるとどうなるのでしょうか。

これまでKurzgesagtは「脳」がすべての決定を下すかのように説明してきましたが、実は体を制御しているのは脳だけではなく、さまざまな器官がそれぞれのタイミングで多様な情報を認識しています。

たとえば足がバナナの皮を踏んでバランスを崩すと、耳の中にある三半規管が空間内における突然の位置の変化を感知します。

この情報は、即座の対応が必要な場合に機能する脳幹と脊髄に送信されます。

これらの器官は即座に緊急対応パターンをトリガーし、さまざまな筋肉に指令を送るとのこと。

すると、200ミリ秒以内に事前プログラムされた「腕を伸ばしてバランスを取る」「もう一方の足で体重を支えるために硬くなる」「体幹が収縮して体を安定させる」といった動作が引き起こされ、滑った際のリカバリーに動くというわけです。

「バナナの皮を踏んで滑った」ことに気付く頃には、すでに着地に成功するか転ぶかしています。

脳が予測するのは周囲の環境だけではなく、自分の内側についても予測しています。

空腹や疲労、眠気といった状態も客観的な反応ではなく、脳がこれまでの経験から予測したものだとのこと。脳は一定の時間が近づくとホルモンを分泌し、人間が行動するように仕向けているというわけです。

これは社会的なイベントでも同様です。たとえばパーティーに参加する場合、脳は実際にパーティーがどのようなものかを感じる前に、以前の経験から分析してどのようなものになるか予測します。

仮にパーティーが不安で居心地の悪いものだと予測したのであれば、部屋に入る前から心拍数が上がったり、ストレスホルモンが分泌されたり、筋肉が緊張したりします。

「脳が世界のすべてを編集して現実を作り出し、将来起こることを予測し、考えるより先に動くよう指示を出している」と思うと、まるで自分には意思がなく、脳に従って生きているだけだと感じてしまうかもしれません。

しかし、人間の意思や自己というものは、その場その場の反応だけを決定するものではありません。「興味のある場所へ旅行に行く」「転職に備えて資格を取る」といった長期的な計画や目標については、自分自身の意思が重要になってきます。

脳や器官はさまざまなことを半ば自動で決定していますが、それは日常の雑事を執事が処理してくれているようなもので、長期的な計画や抽象的な思考は意識的な自己が得意としています。

人間の意思は、無意識の脳が決してできない全体像の把握や遠い未来の予測が可能です。

Kurzgesagtは、「結局のところ、この世界で生きるあなたについて語ることができるのは、あなた自身に他ならないのです」と述べました。

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