幸福を追求するほど幸せが遠のく「幸福のパラドックス」の存在が研究で実証される

人生をよりよいものにしようと決心して何かを始めたり、悪い習慣をなくしたりしようと努力したものの、つらくなって続かなかった経験がある人は多いはず。それもそのはずで、幸福を追求すること自体が精神的なエネルギーを消耗させ、それが人生の選択を誤ったり、幸福度や健康を損なう悪習にはまってしまったりするリスクにつながることが、新しく報告された研究により判明しました。
Happiness depletes me: Seeking happiness impairs limited resources and self‐regulation - Kim - 2025 - Applied Psychology: Health and Well-Being - Wiley Online Library
https://iaap-journals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/aphw.70000
Unraveling the happiness paradox: The mental exhaustion of chasing joy
https://www.psypost.org/unraveling-the-happiness-paradox-the-mental-exhaustion-of-chasing-joy/
2025年1月30日に査読付き学術誌「Applied Psychology: Health and Well-Being」に掲載された論文で、韓国・全北大学校のキム・エギョン氏とカナダ・トロント大学スカボロ校のサム・J・マリオ氏は、幸福をテーマにした4つの実験を行いました。その結果、一連の実験すべてで、より幸福になろうと目指すこと自体が精神力を消耗させ、人生の課題や誘惑に対処する能力を低下させるという傾向が浮かび上がりました。

まず、1つ目の実験はオンラインで募集した532人を対象としたもので、幸福を追求する傾向の強さを推測する「幸福価値尺度」と、自制心を測定するための「簡易自制心尺度」という2つのアンケートが行われました。
2つ目の実験は、オンライン募集の応募者および大学の学生369人を対象としたもので、自制心アンケートの代わりにファッションアイテムや旅行パッケージといったさまざまな価格帯の商品を購入する12のシナリオを提示し、何にお金を使うかの優先順位を決めてもらいました。この実験は、幸福度の追求と自制心の関係が、アンケートだけでなく実際の行動にも当てはまるかを調べるのが目的でした。
1番目と2番目の実験の結果、幸福追求スコアが高い人は自己制御力が低く、意思決定のために費やす時間も短いことがわかりました。これは、幸福を追求する傾向が、セルフコントロールをするための精神的リソースの少なさと関連していることを示唆しています。実験では、参加者の全体的な気分を測定するテストも行われましたが、気分テストのスコアを考慮しても結果は変わらなかったことから、幸福を求める傾向と自制心の関係は、本人が既に幸せなのかどうかの問題ではないことも示されています。

3番目の実験ではさらに行動に焦点を当て、大学の図書館の前を通りかかった36人にチョコレートを好きなだけ食べてもらいました。参加者は2つのグループに分けられ、片方は「幸福」という言葉を含んだ広告を、もう片方は「幸福」とは関係ない中立的な広告を見せられた上で、カバーストーリーとして「お菓子の広告に関する実験」だと告げられました。また、自制心の指標には参加者が食べたチョコレートの個数が用いられました。
この実験により、幸福感を微妙に刺激するような広告を見せられた人は、そうでない広告を見せられた人より多くのチョコレートを頬張るという結果が得られました。これは、幸福感をほんの少し意識するだけでも自制心が弱くなり、甘いものを食べたいという誘惑に負ける可能性が高くなることを示唆しています。
最後の4番目の実験では、オンラインで募集された188人の参加者に「アイスラテと緑茶」のような日常的なアイテムのペア25組を示して、どちらか一方を選ぶよう指示しました。参加者は2つのグループにランダムに割り振られ、「幸福追求グループ」は自分の幸福度が最も向上する判断を、もう片方の「正確さ追求グループ」は自分の好みに最も正確にマッチした選択をするよう求められました。これには、「幸福の追求」と「それ以外の目標の追求」の影響を比較する狙いがあります。
選択の後、参加者全員にパズルに挑戦してもらい、解くのにかけた時間を測定して、両グループの参加者が自制心を発揮するのに必要な精神的リソースをどのくらい消耗したかの指標としました。この実験により、幸福度を高めるための選択を指示された人は、パズルを解くのにかけた時間が短かったという結果が出ました。

実験で参加者が解いたのは、言葉の文字を入れ替えて新しい言葉にするアナグラムパズルで、より高度なアナグラムを完成させようと長時間粘る方が精神力を要するというものです。「幸福追求グループ」の方がこのパズルにかけた時間が短かったということは、幸福に関する選択を迫られると、同様のタスクより精神的リソースを消耗することを意味しています。
論文の著者のひとりであるマリオ氏は「幸福の追求は雪だるま式に膨れ上がるものです。自分をもっと幸せにしようと決意すると、その努力によってかえって自分を幸せにする能力を消耗してしまいかねません」と話しました。
この研究にはいくつか制限があり、例えば「幸福のパラドックス」効果は確かに存在すると思われる一方、その影響は比較的小さく、微妙なものかもしれないとのこと。また、より長期的な影響や文化的背景の影響など、将来の研究で明らかにしなければならない課題もあることが指摘されています。
こうした点を踏まえた上で、マリオ氏は「常に幸せになってやろうと思ったり、欲しいものを手に入れようとしたりせず、既に自分が持っているものに目を向けて、人生の自然な浮き沈みを受け入れる方が有益かもしれません」とコメントしました。
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