報酬の受け取り時期を後ろ倒しにする忍耐力は「稼ぐ能力」にリンクしている

もしも報酬が得られるタイミングを遅らせればさらに大きな報酬が得られる、という条件下での「我慢強さ」や「自制心」が、子どもの将来の社会的・経済的な成功につながると示した「マシュマロ・テスト」が知られています。このマシュマロ・テストを補強する、「刹那的な報酬への耐性は、潜在的な『稼ぐ能力』と相関関係がある」とする研究が発表されています。

Frontiers | Good Things for Those Who Wait: Predictive Modeling Highlights Importance of Delay Discounting for Income Attainment | Psychology
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpsyg.2018.01545/full

Your Ability to Resist Instant Gratification May Predict Your Earning Potential
https://www.sciencealert.com/your-ability-delay-instant-gratification-predict-money-earn-delay-discounting-marshmallow-test

スタンフォード大学のウォルター・ミシェル博士によって行われたマシュマロ・テストは、子どもたちに「このマシュマロをあなたにあげます。もしも私が戻ってくるまでの15分間、食べるのを我慢できたら、帰ってきたときにマシュマロをもう1つあげます。食べてしまった場合は2つ目はないよ」という条件を出して、その「我慢強さ」「自制心の強さ」を測ったもので、「自制心の強い子どもほど、将来に成功しやすい」という衝撃的な結論を導いたことで大きな注目を集めました。

しかし、マシュマロ・テストの結論については異論があり、近年は再現性を欠くとして、結論を否定する見解も出されています。

子どもの自制心が将来を左右するという「マシュマロ実験」が再現に失敗、自制心よりも大きな影響を与えるのは「経済的・社会的環境」 - GIGAZINE

グラーツ大学のウィリアム・ハンプトン博士らの研究チームは、「報酬を受ける時期を遅らせられる能力」(すなわち自制心)が、収入の高さとどの程度の関係性を持つのかについて調べました。

実験では、25歳から65歳までの3000人の被験者に対して、年齢、職業、教育、居住地、性別、人種、民族などがアンケートによる回答を求められました。そして、マシュマロ・テストの鍵となる「自制心」については、「500ドル(約5万5000円)の報酬を、この場でもらえる」という前提条件を示したうえで、「もし報酬を受ける時期を遅らせられれば、1000ドル(約11万円)を受け取ることができる」という追加条件を出す質問で調べました。なお、報酬を遅らせる期間については「1日」「1週間」「1カ月」「半年」「1年」の5つのパターンを設けました。

その上で、被験者が「すぐに報酬を受ける」ことを選んだ場合には、得られる報酬の額を半分にして質問をし直し、「遅らせてより多くの報酬を受ける」ことを選んだ場合には、即座の報酬額は1000ドルとの中間値に変更して質問が繰り返されました。例えば、「今すぐ500ドルか、1週間後の1000ドルか」という質問で、被験者が1000ドルを選んだ場合は「今すぐ750ドルか、1週間後の1000ドルか」に、500ドルを選んだ場合は「今すぐ250ドルか、1週間後の1000ドルか」に質問が変更されるという具合です。こうして質問を変えていき、最終的に収束する金額が調べられました。

ハンプトン博士はこの収束値が小さいほど即座の報酬を好む傾向がある、すなわち報酬を遅らせる能力が低いものとして、反対に収束値が大きいほど報酬を遅らせる能力が高いものとして、マシュマロ・テストの自制心にあたる能力を測定しています。

ハンプトン博士が収束値をベースにした報酬を遅らせられる能力とアンケートから得られた所得を比べると、報酬を遅らせる能力が高い人ほど所得が高い傾向にあるという、マシュマロ・テストと同様の結果が得られたとのこと。さらに、報酬を受ける時期を遅らせられる能力は、「年齢」「人種」「身長」よりも「所得」との間に強い関係性を持つこともわかったそうです。

「多くの人は仕事と教育が(収入にとって)大切なことを知っていますが、『満足するのを遅らせる能力』が重要だと考える人はほとんどいません」と述べ、忍耐強くあることが経済的な成功につながるかもしれないと考えています。

なお、今回の実験はアメリカ人のみを対象に行っており地理的に限定されたものであることや、忍耐力と経済力との因果の方向性についてはまったく不明であることには注意が必要だとのことです。