サイエンス

自分自身の感情がわからない「アレキシサイミア」とは?


多くの人々は当たり前のように「自分がどのような感情を持っているのか」を認識し、それを言語化して他の人に伝えることができます。しかし、一部の人々は自分の感情を認識したり表現したりすることが苦手であり、こうした傾向や障害のことはアレキシサイミア(失感情症)と呼ばれています。イギリスのスウォンジー大学で健康社会福祉学部の研究助手を務めるレベッカ・エリス氏が、アレキシサイミアについて解説しています。

Alexithymia: why some people find it so hard to identify emotions, and how this affects them
https://theconversation.com/alexithymia-why-some-people-find-it-so-hard-to-identify-emotions-and-how-this-affects-them-240480


アレキシサイミアは自分自身の感情を認識したり、「喜び」や「悲しみ」といった感情を区別したり、自分の感情を表現したりすることが難しい傾向を指します。これは周囲との関係や相互作用に深く関わる問題ですが、非常に内面的な問題であるため、他人から目で見てわかるような違いがないことも多々あります。また、時には自分自身がアレキシサイミアであることに気付いていないケースもあるとのこと。

アレキシサイミアという用語はギリシャ語の「a(~ない)」「lexis(言葉)」「thymia(魂や感情)」を組み合わせたものであり、大まかに訳すと「no words for emotions(感情を表す言葉がない)」という意味になります。日本語では「失感情症」とも訳されますが、あくまで感情を解釈し、表現することができないだけで、決して感情そのものがないというわけではありません。


1970年代の研究で初めてアレキシサイミアについて言及され、記事作成時点で臨床的な診断基準はないものの、人口の約10%がアレキシサイミアであると推定されています。

身体のさまざまな内的状態を知覚する能力のことは内受容感覚と呼ばれ、内受容感覚が低下している人は自分が空腹なのか、喉が渇いているのか、疲れているのか、興奮しているのか、痛みを感じているのかといったことが簡単に判断できません。アレキシサイミアはこの内受容感覚と密接に関わっているとエリス氏は述べています。


これまでの研究では、自閉症の人は33~66%とその他の人々と比較して高い割合でアレキシサイミアを持っていることや、強迫性障害月経前不快気分障害(PMDD)心的外傷後ストレス障害(PTSD)・不安神経症・うつ病などを患っている人でよく見られることがわかっています。また、常にアレキシサイミアを抱えている人もいれば、何かのトラウマが原因でアレキシサイミアになる人もいるとのこと。

アレキシサイミアの人は自分が何を感じているのかがわからないため、悲しみや怒りを抑制したり無視したりする可能性が高まり、問題を解決するために行動したり考えたりしにくくなります。そのため、アレキシサイミアの人々は自分自身を感情的に調整するのが難しくなり、精神的に圧倒されるように感じやすいとのこと。

アレキシサイミアの人が持つ特徴のひとつとしてエリス氏が挙げているのが、「外部志向の思考スタイル」です。これは、情報に対して自分自身の感情的なプロセスに焦点を当てるのではなく、自分の周囲で起こっていることに焦点を当てる傾向を指します。つまり、アレキシサイミアの人は自分自身の感情がわからないため、「自分の周りで何が起きていたか」で物事を評価し、それに適応する行動を選択する傾向があるというわけです。

特に自閉症の人々にとって、アレキシサイミアは他人の表情といった社会的手がかりを解釈するのを困難にする可能性があり、これにより混乱や疲弊といった問題が起きやすいとのこと。また、有名人の死や結婚発表といった多くの人々に同じような感情を引き起こす出来事に対しても、周囲と異なる反応を示していまうことがあるそうです。周囲から見て場違いな反応をしてしまうことは、関係者に誤解やフラストレーションを与える原因になり得ます。


「ある身体的な感覚に気付き、それを特定の感情として識別し、どのように反応するのかを決定する」ということは、多くの人々が自然に行っていることです。アレキシサイミアについて知り、当事者がどの段階で困難を覚えているのかを理解することは、その人にどのようなサポートが必要なのかを決定する上で重要です。

エリス氏は、「アレキシサイミアはその人の感情とのつながりに影響を及ぼす可能性がありますが、感情の認識は大人になってから発達させ、時間の経過と共に改善できるスキルです。アレキシサイミアの人々が自分自身をよりよく理解する上で役立つ戦略のひとつが、感情や身体の感覚に名前を付ける練習です。別の戦略には、これらの感情が体内でどのように表現されるのかを特定することが挙げられます」と述べ、アレキシサイミアの人も訓練で感情認識のスキルを改善できると主張しました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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