なぜ世の中には「痛み」を全く感じない人がいるのか、その理由を求めると次世代の鎮痛剤につながる

By lauren rushing

同じ刺激を体に受けても、それによって感じる「痛み」は実は千差万別で、世の中にはまれに痛みを全く感じない「無痛症」の人も存在します。痛みは生物の生存にとって非常に重要な感覚の一つですが、なぜその感度には違いがあるのか、そこには遺伝子レベルのメカニズムが存在しています。

Why do some people hurt more than others?
https://theconversation.com/why-do-some-people-hurt-more-than-others-99995

よく知られているように、体の細胞の中には個体としての設計図にあたるヒトゲノムが収められており、その情報にもとづいて私たちの体が形作られています。その中に含まれるDNAの中には体を構成するタンパク質の設計図である遺伝子が収められているのですが、この遺伝子は少しずつ変異を起こしていることが知られています。

この変異はいくつもの形で現れるのですが、最も一般的といえるのが一塩基多型または「SNP」と呼ばれるものです。SNPはDNAを構成する単一のユニットで起こっている変異です。

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ヒトゲノムには約1000万の既知のSNPが存在しています。一つの目安として、SNPの率が1％を超えて「一般的」と見なされる場合、その変異は「変異体」と呼ばれますが、1％に満たない場合には「突然変異」と呼ばれることになります。この突然変異によってもたらされる症状の一つが、痛みを全く感じない「無痛症」です。

無痛症の最も一般的な原因は、痛みの情報を伝達するために必要なタンパク質のチャネルをエンコードする遺伝子「SCN9A」に関連しています。痛みの情報が神経を通って伝達されるためにはナトリウムチャネルと呼ばれるイオンチャネルが動作することが必要なのですが、SCN9Aはこのナトリウムチャネルの動作を無効にしてしまうことがあるとのこと。神経信号が伝達されなくなってしまうと、たとえ転んで膝をすりむいても、転んで頭をぶつけても痛みを感じないため、自分の体が傷を負ったことの知覚が遅くなることがあります。さらには、心臓発作による胸の痛みや虫垂炎の痛みなど、体内の目に見えない異変に気付くこともできないため、病気の発見ができず、気がついたら手遅れ状態になってしまうリスクも飛躍的に高まります。

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SCN9A内の変異は無痛症を引き起こすだけでなく、その正反対の症状を引き起こすことがあります。極端な痛みを感じてしまう重い症状「原発性肢端紅痛症」もその原因はSCN9A内の突然変異であり、正常よりも多くの疼痛シグナルが神経に流されてしまうというものです。これらの症状はいずれも遺伝による影響が大きいとされており、全体の約60％が親からの遺伝によってもたらされるケースとなっているとのこと。今回のSCN9Aとは無関係ですが、イタリアに住むMarsili家の6人は共通して全く痛みを感じない状態にあるとのこと。これはZFHX2遺伝子の変異によってもたらされたケースであることが調査により判明しています。

「痛みを感じない家族」が存在、その原因は？ - GIGAZINE
https://gigazine.net/news/20180114-family-doesnt-feel-pain/

実際にはMarsiliさんらは全く痛みを感じないわけではないのですが、数秒ほどしか痛みを知覚できないそうです。それゆえに、24歳になる息子のLudovicoさんはサッカーのプレイ中、危険な接触プレイにあってもすぐにゲームに戻ってしまい、知らないうちに足首の骨に小さなヒビがたくさん入ってしまったといいます。

このような変異による無痛症の存在は、今後新たな鎮痛剤を開発する上での重要なヒントをもたらす可能性があるとのこと。遺伝子の変異が元で常に痛みを感じ続ける慢性疼痛に悩まされる患者は、より強い効き目を求めて中毒性の高い鎮痛剤「オピオイド」を服用することになるケースも多々見られますが、遺伝子レベルでの研究が進むことで中毒性がなく、個人の痛みレベルに適した効果の高い鎮痛剤の開発が期待されています。

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