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鎮痛剤「オピオイド」の過剰投与による薬害問題の背景には製薬会社から医師への利益供与があった

By VCU CNS

強い鎮痛作用がある鎮痛剤「オピオイド」が本来は必要のない患者にも処方されたことで、多くの人が中毒症状に陥っていることがアメリカでは大きな問題となっています。過剰投与を含むオピオイドの乱用による死者の急増についてはドナルド・トランプ大統領も「オピオイド危機」として公衆衛生上の非常事態を宣言しているほどなのですが、その背景にはオピオイドを処方した医師に対する製薬会社からの多額のリベートが存在していることが、CNNとハーバード大学による調査から浮き彫りになっています。

For doctors, more opioid prescriptions bring more money - CNN
https://edition.cnn.com/2018/03/11/health/prescription-opioid-payments-eprise/index.html

CNNの報道によると、2014年と2015年の2年間で、オピオイドを製造していた製薬会社は全米の数百人の医師に数十万ドル(数千万円)単位の金額を支払っていたことが明らかになっています。これは医師に対する面談やコンサルティング費用の名目で支払われていたもので、その他にも何千人もの医師が2万5千ドル(約260万円)以上を受け取っていたこともわかっています。

特に多く支払われていたのは、大量のオピオイドを処方していた医師だったこともわかっており、「オピオイドを処方するほどもうかる」という構図ができあがっていたとのこと。医師団体「Physicians for Responsible Opioid Prescribing」(PROP:責任あるオピオイド処方を行う医師)の役員を務めるアンドリュー・コロニー博士は「こんなことは今までに目にしたことがなく、非常に重大なことです」「麻薬を売るために医者が賄賂を手にしているような臭いがします。ひどいことです」と述べています。


ハーバード大学の研究者らは、この支払いが「医師に会社の薬を処方することを奨励している」のか、逆に「製薬企業が既に多く処方箋を出している医者を探し出して報酬を渡している」のかについては明らかではないとしています。しかし、ハーバード T.H. チャン・スクール・オブ・パブリック・ヘルスのマイケル・バーネット博士は「お金で処方箋が出ているのか、処方箋が処方箋を出すのかは分かりませんが、どちらの場合でも、悪循環に終わる可能性があります」と述べています。

この分析を行うために、CNNはバーネット博士と同じくハーバード大学のアンパム・ジェーナ博士と一緒に、2つの連邦政府のデータベースを調査しました。一つは製薬会社から医師への支払い、もう1つが医師がメディケアの受信者に書き込む処方箋を追跡するものです。2014年と2015年のデータからは、その間に81万1000人以上の医師が高齢者および障害者向け公的医療保険制度であるメディケアの利用者に処方箋を出しており、そのうち半数近くがオピオイドを少なくとも1回処方していることが明らかになっています。また、その54%にあたる20万人以上の医師が、オピオイドを製造する製薬会社からの支払いを受け取っていたことも明らかにされました。


またここからは、多くのオピオイドを処方した医師ほど製薬会社からお金を受け取る可能性とその金額が高くなる傾向にあることがわかったとのこと。オピオイドを処方した上位25%の医師のうち72%が支払いを受けており、さらに上位から5番目のパーセンタイルに含まれる医師の84%が支払いを受けています。また、上位1%に含まれる医師になるとその95%が支払いを受け取っていることも明らかにされています。

平均して、オピオイド処方量が上位5%の中にある医師は、処方量が中央値であった医師に比べてオピオイドのメーカーから2倍の金額を受け取っています。また、オピオイドを処方した上位1%の医師は、典型的な医師の平均4倍の金額を受けとっています。そして、1%のトップ10にいる医師は、平均して、典型的な医師よりも9倍多くのお金を受け取っています。コロンビア大学の医学センター長であるデービッド・ロスマン氏は、「ここで見つかった相関関係は非常に強力です。調査結果について驚くべきことは、単に金額が重要だというだけではなく、その金額が増えるにつれさらに支払いが大きくなるということです」と述べています。


製薬会社の担当者が医師と話すこと、相談すること、その他のサービスのために費用を支払うこと自体は合法です。これは、その分野の専門家が薬物に関する重要な経験や情報を共有する手段として擁護されていますが、長い間にわたって議論の余地がありました。医師への製薬会社からの支払いは、オピオイドに限ったことではありません。製薬会社はさまざまなサービスのために医師に何十億ドルの報酬を支払っており、2015年には医師の48%が製薬会社から何らかの支払いを受け取っています。しかし、医師がメーカーからのリベート支払いと引き換えに薬を処方するのは違法です。

American Academy of Pain Medicine(アメリカ疼痛医学アカデミー)のスティーブン・スタノス博士は、ある薬を頻繁に処方する医師がその薬についての講演をするために選ばれ、支払いを受けることに驚くことはないと語っています。スタノス氏は、「ある薬について深い理解があることから、その薬を多く処方することはある」としています。上院国土安全保障・政府委員会の最近の報告によると、スタノス氏のグループは2012年から2017年の間に、米国最大のオピオイド製造業者のうち5社から約120万ドル(約1億3000万円)を受け取っていることがわかっています。スタノス氏はこのお金について、安全なオピオイド処方コースを含む様々なプロジェクトに使われていると述べたとのこと。

しかし、非営利団体「ピュー慈善信託」でかつてディレクターをつとめたダニエル・カルラット博士は、「CNNとハーバードの調査結果は、製薬会社の資金が医師の処方箋の習慣に影響を与えることを示唆する他の研究と一致している」と述べています。利害の衝突についてのブログを運営している精神科医であるカルラット氏は、「確固たる証拠ではありませんが、これは製薬企業からのマーケティング関連の支払いが医薬品や患者のケアには適していないというエビデンスベースの重要なデータポイントです。私はこれを非常に心配しています」と語っています。

By Marco Verch

CNNと協力したハーバード大学のバーネット氏(前出)も、「製薬会社は金の無駄使いをしているわけではない。効果的でないなら、彼らはこのお金を使っていないだろう」と、製薬会社が医師に支払うのには理由があると述べています。

米国研究製薬工業協会(PhRMA)の声明によると、「製薬会社は疼痛の適切な治療に関する処方者のための強制的かつ継続的な訓練を支援している」とのこと。ここでPhRMAは「PhRMAは、患者の正当な医療ニーズが満たされていることを保証するための多くの方針を支持する一方で、過剰徴候を防ぐ予防措置を確立している」と述べています。


CNNは、オピオイド中毒に苦しんでいる2人の女性を取材し、大混乱を生み出した薬の製造業者から医師が大金を受け取っていたことを知ったときに感じた「裏切り」の感覚を記しています。

被害者の一人であるキャリー・バロウさんは医師を信頼し、オピオイドの処方は痛みに対処するための最良の選択肢だったと考えていたことを語ります。しかしバロウさんはその後、オピオイドのメーカーが2年間で100万ドル(約1億円)以上を医師に支払っていたことを知り、「あれは本当に私の事を考えてのものだったのか、それとも彼の利益を最大限にするためだったのだろうか」と考えるようになったとのこと。

By frankieleon

別の女性、アンジェラ・カントーンさんは、オピオイドメーカーが彼女の医者に何十万ドルも払っていることを知っておきたかったと語ります。カントーンさんは、サウスカロライナ州グリーンヴィルの疼痛の専門医であるAathirayen Thiyagarajah医師から、2013年3月から2015年7月にかけてクローン病の「サブシス」という、腹部の痛みを抑えるオピオイドを2年半近くにわたって処方されていました。米国疾病管理予防センターによれば、サブシスはモルヒネよりも50〜100倍強力な鎮痛剤です。

カントーンさんによるとThiyagarajah医師は「この薬が私に魔法をもたらすでしょう、本当にシンプルで簡単ですよ、と言っていました。『口の中にスプレーするだけですよ』というふうに」と薬を処方された時のことを振り返ります。サブシスはカントーンさん痛みを和らげたとのことですが、同時にカントーンさん「ゾンビのような」状態にしてしまったとのこと。カントーンさにんは3人の幼い子どもがおり、そのうちの2人は自閉症やその他特別なケアを必要としていたのですが、たびたび薬による副作用で意識を失うような状況に見舞われたとのこと。「私はいつも気を失うようになりました。キッチンの床や自宅の前庭で倒れていることに気づくことがありました」と当時の様子を語ります。

カントーンさんはThiyagarajah医師に心配していることを伝えたそうですが、医師からは健康問題の原因はサブシスではないとの答えがあったとのこと。「私は彼を信じていました。まるで、停電が起こった時に交通を指示している警察官を信頼するように」というカントーンさんですが、最終的に非オピオイド薬に切り替えるようにThiyagarajah医師に持ちだした時、医師は好戦的になったといいます。カントーンさんは、2013年8月から2016年12月までの間に製薬会社からThiyagarajah医師に対して20万ドル(約2100万円)以上の支払いがあったことを、製薬会社から医者への支払いを追跡する連邦政府のデータベース「Open Payments」から知ることとなりました。

CNNは、Thiyagarajah医師が2014年から2015年にかけて受け取った「19万ドル」(約2000万円)という金額を同じ医学分野にいる全米の他の処方者と比較したところ、平均以上の額を得ているという実態がわかりました。


カントーンさんは今、Thiyagarajah医師を訴え、「サブシスの処方、販売、消費を増やして利益を増やす唯一の目的」のために彼女を「だまして裏切った」と非難しています。これに対してThiyagarajah医師は弁護士を通じて不正行為を否定しましたが、係属中の訴訟のためにこの話にコメントすることを拒否したとのこと。

Thiyagarajah医師の弁護士は、サブシスなどの処方は適切だったとしています。しかし、同じ証明書を持つ他の医師と比較しても、サブシスや他のオピオイドの処方箋が異常に多いことは明らかであるとのこと。CNNとハーバード大学の分析によると、2014年と2015年に平均的な医師はメディケアの患者1人当たり平均でオピオイドの処方箋を平均で3.7通書いています。しかし、Thiyagarajah医師は、同等の患者1人当たりで7通以上のオピオイド処方箋を作成しています。


薬物執行機関の調査官による宣誓供述書によると、Thiyagarajah医師の事務所は2015年6月に麻薬取締局による検査を受け、連邦法に違反して「合法でない医学的ニーズ」のために別のオピオイドであるブプレノルフィンを処方していたことが判明しています。また、2016年3月には別の検査が行われ、サブシスに関連する45の医療記録が押収されているとのこと。

カントーンさんはまた、サブシスの製薬会社Insysを訴えているとのこと。訴えに対してInsysは不正行為の主張を否定していますが、Insysの創立者で最大の株主であるジョン・カプール氏は、2017年10月に薬物を過剰申告する医師に賄賂を贈る罪で逮捕されています。カプール氏の広報を担当するトム・ベーカー氏は、「カプール博士は不正行為を行わず、すべての罪状を最強の言葉で反駁している」「彼は法廷で日々の後に、完全に正当化されることを楽しみにしている」と述べています。

Insysのニュースリリースによると、カプール氏は2017年10月にInsysの取締役会を辞任したとのこと。また、他の数名のInsys幹部は、暴行容疑で逮捕されているほか、上院議員による調査の対象にもなっているとのこと。Insysの社長兼CEOであるサイード・モタハリ氏は2017年9月にマッカスキル上院議員に宛てた手紙の中で、「以前のInsysの従業員の間違いや容認できない行為を心配していた」としつつ、当時の営業スタッフの大部分はもはや同社とは関係がないと述べています。

アメリカ疾病管理予防センターによると、1999年から2015年までに、米国の18万3000人以上がオピオイドの過量投与で死亡したとのこと。またドナルド・トランプ大統領は、2017年10月にオピオイドの流行を国民の公衆衛生の緊急事態であると宣言しました。このような状況の中、少なくとも1社は、医師に対する宣伝活動を通じて医師に金銭を支払うことを中止しています。

カントーンさんは2018年現在、Thiyagarajah医師の治療を受けていた当時のことを悲しみをもって振り返ります。カントーンさんは、娘が幼稚園で作った「母の日」のカードに書かれた「お母さんの願い」として、「寝ること」が書かれているのを目にしました。カントーンさんはそこに「子どもをハグすること」や「公園に連れて行くこと」ではなく「寝ること」が書かれていることにショックを受け、 「私は親として失敗したような気がする」と語ったとのこと。カントーンさんは製薬会社によって巨額のお金が医者に払われたことに怒りを覚え、「私に処方されていた薬は、私のものではなく、彼の利益のためであった」と語っているとのことです。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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