完全に合法な鎮痛剤が違法な薬物よりも多くの死者を生み出している
by Phil Renaud
薬物乱用で亡くなった人の死因ナンバーワンは、厳しく取り締まられるヘロインやコカインなどでなく、医者から処方される鎮痛剤であることが2014年の調べでわかっています。現在、アメリカで問題視されている鎮痛剤の乱用はなぜ起こってしまったのか?そして、どのような解決案があるのか?ということについて、わかりやすく解説したムービーがYouTubeで公開中です。
Painkillers now kill more Americans than any illegal drug - YouTube
2014年、アメリカでは4万7000人もの人がオーバードース(薬物の過剰摂取)で亡くなりました。
しかし、オーバードーズの原因は違法とされている大麻でもヘロインでもコカインでもありません。
原因の多くは、完全に合法な「鎮痛剤」です。
1990年代、医学界は政府などから「痛みをなくすことが医学の重要な問題だ」と圧力をかけられていました。この時代、1億人ものアメリカ人が慢性疼痛に悩まされていたためです。
痛みを何とかするため、医者から医者へとはしごして、それでも問題が解決できないという人も多くいました。
外部からの圧力もあり、医師たちはオピオイド系の薬を鎮痛剤として処方しだします。オピオイドは神経系に作用して脳に「痛みを減らすように」というメッセージを送る化合物。
医者たちがオピオイド系の鎮痛剤を使いだしたのは、Purdue Pharmaなど大手製薬会社が、「オピオイド系の鎮痛剤は他の鎮痛剤に比べて依存性が少なく安全」という見解を示したためです。しかし、実際のところ、全くそんなことはありませんでした。
事実、Purdue Pharmaは2007年に「ウソの見解を示した」ということで6億3500万ドル(約720億円)の罰金を支払っています。
2012年、薬剤師が書いたオピオイド系鎮痛剤の処方箋は2億5900万にものぼりました。
これはアメリカ中の大人が1人につき1つ、オピオイド系鎮痛剤のボトルを持っているという計算です。
オピオイド系鎮痛剤の売り上げと比例する形で、オピオイド系鎮痛剤を原因とする死亡事故の発生率も上がっています。
2014年、オピオイド系鎮痛剤によって起こるオーバードーズを原因とする死亡数は約1万9000件。これは薬物を原因とするオーバードーズ全体の40%にあたります。
医者に正しく処方された鎮痛剤に依存し、最終的に死を迎えるという結果が生まれているわけです。
また、違法とされるヘロインもオピオイドの1種ですが、オピオイド系鎮痛剤を使っている人は、そうでない人に比べてヘロインに中毒する傾向が40倍も強いと考えられています。
なお、ヘロインを原因とするオーバードーズの数は、2000年から2014年の間に5倍近くにまでふくれあがっているとのこと。
事態を重く見たオバマ大統領は、処方する側へのトレーニング強化を含めた薬物対策を掲げると共に、問題対策に10億ドル(約1100億円)の予算を割り当てています。
しかし、オピオイド系鎮痛剤が使えないとなると、慢性頓痛を治療するための別の治療薬が必要になります。
ここで注目されているのが、医療大麻。
アメリカには医療大麻の使用が規制されている州とされていない州があり、安全性に関する研究もまだ初期段階ですが、毒性が少なく、慢性頓痛に効果的だとする見解も多く存在します。
また、マリファナの場合、煙草のようにして吸う場合には一度に680kgを摂取しない限りオーバードーズを引き起こさないので、オピオイド系鎮痛剤のように死亡数が引き上げられる可能性は少ないとのこと。
医療大麻の使用がアメリカにはびこる鎮痛剤の乱用を解決できる可能性がある、と示唆する研究結果も発表されています。
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