睡眠時無呼吸症候群の治療薬として肥満治療薬の「チルゼパチド」をFDAが初めて承認
閉塞(へいそく)性睡眠時無呼吸症候群は睡眠中に上気道がふさがれることで発生する疾患であり、睡眠の質が悪化して日中の眠気や倦怠(けんたい)感が生じるほか、内臓への負担が増加して重篤な合併症を引き起こす危険性もあります。新たにアメリカ食品医薬品局(FDA)が閉塞性睡眠時無呼吸症候群の治療薬として、2型糖尿病や肥満の治療薬として知られる「チルゼパチド」を承認しました。
FDA Approves First Medication for Obstructive Sleep Apnea | FDA
https://www.fda.gov/news-events/press-announcements/fda-approves-first-medication-obstructive-sleep-apnea
The FDA Just Approved The First US Drug Treatment For Sleep Apnea : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/the-fda-just-approved-the-first-us-drug-treatment-for-sleep-apnea
閉塞性睡眠時無呼吸症候群は睡眠中に呼吸の量が低下したり停止したりするため、高血圧や脳卒中、うつ病のリスク増加に関連しているとされています。誰にでも発症する可能性があるものの、太り過ぎや肥満の人において発症率が高いことがわかっており、特にアメリカでは成人の約12%が閉塞性睡眠時無呼吸症候群を患っているとのこと。
FDAは2024年12月20日、肥満の成人における中度~重度の閉塞性睡眠時無呼吸症候群の治療薬として、「チルゼパチド」を承認すると発表しました。チルゼパチドはアメリカの製薬会社であるイーライリリーが開発した薬剤であり、腸から分泌される「グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)」と「グルコース依存性インスリン分泌促進ポリペプチド(GIP)」という2種類のホルモンの受容体を活性化して、患者の食欲と食物摂取量を減らします。
チルゼパチドはすでに2型糖尿病や肥満の治療薬として用いられており、2型糖尿病の治療薬としての名称は「マンジャロ」、肥満治療薬としての名称は「ゼップバウンド」となっています。
今回、FDAが閉塞性睡眠時無呼吸症候群の治療薬としてチルゼパチドを承認したのは、2型糖尿病を持たない成人469人を対象としたランダム化二重盲検プラセボ対照試験に基づいています。この実験では中度~重度の閉塞性睡眠時無呼吸症候群を患う患者に対し、週に1回チルゼパチドまたは偽薬をランダムに投与し、52週間にわたり経過を観察しました。
実験の結果、睡眠時無呼吸症候群の診断指標である無呼吸低呼吸指数(AHI)が、チルゼパチドを投与された患者群で有意かつ臨床的に改善し、症状が寛解するか軽度になったことが確認されました。また、チルゼパチドを投与された患者は対照群と比較して体重が大幅に減少したため、AHIの改善は体重減少に関連している可能性が示唆されています。
FDAの医薬品評価研究センターで呼吸器・アレルギー・救命救急部門のディレクターを務めるサリー・シーモア博士は、「本日の承認は、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の特定の患者に対する最初の薬物治療の選択肢となります。これは、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の患者にとって大きな前進です」とコメントしました。
なお、チルゼパチドには吐き気や下痢、胃の不快感、アレルギー反応といった副作用が起きる可能性があるほか、すい炎や低血糖、自殺念慮といった深刻な副作用のリスクもあるとのこと。そのため、患者は医師のアドバイスを受けた上で服用を検討する必要があり、医療従事者も患者を観察する必要があるとのことです。
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