「睡眠時無呼吸症候群」と診断された男性が自身の症状と回復するまでの体験談を公開
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に繰り返し呼吸の量が低下・停止する疾患で、睡眠の質の悪化にともなう日中の眠気や倦怠(けんたい)感に襲われやすくなるほか、内臓への負担が増加することで重篤な合併症を引き起こす危険性があります。ソフトウェアエンジニアとして働くルーク・ハインズ氏が、自身の心身の不調を睡眠時無呼吸症候群だと突き止め、回復に至る経緯を解説しています。
Night of the living brain fog dead, or how I hacked myself better thanks to open source software.
https://decodebytes.substack.com/p/night-of-the-living-brain-fog-dead
ソフトウェアエンジニアとして働くハインズ氏は、夜中に何度も目が覚め、最初の2時間以降はなかなか寝付けずに極度の睡眠不足に陥っていたとのこと。日中はコーヒーを大量に摂取することで眠気と戦っているにもかかわらず、精神的にボンヤリしてしまい、仕事中は考えがまとまらない「ブレインフォグ(脳の霧)」状態になることが普通になってしまっていました。
そこで、ハインズ氏は睡眠環境を改善するために、寝室への遮光カーテンの設置やデバイスへのブルーライトカットフィルターの装着、午前中のコーヒー摂取制限、さまざまなサプリメントやハーブの服用などを行いました。加えてハインズ氏は血液検査や健康診断を受けましたが、結果として不安感や抑うつ感、免疫力の低下などは改善しませんでした。そこで抗うつ薬などの服用を検討していました。
ある日ハインズ氏はYouTubeで「睡眠時無呼吸症候群の未治療」についての動画を見たとのこと。動画では「睡眠時無呼吸症候群の治療を怠った場合、心不全で死亡するリスクが高まる」ことが説明されています。
The Effects of Untreated Sleep Apnea | Katherine Green, MD, Sleep medicine | UCHealth - YouTube
ハインズ氏が睡眠時無呼吸症候群について調べたところ、睡眠不足やうつ、不安、免疫力の低下など、ハインズ氏が経験している症状の多くが睡眠時無呼吸症候群の症状と共通することが判明しました。また、睡眠時無呼吸症候群は一般的に肥満状態の人物に発症しやすいとされていますが、痩せている人でも、睡眠時無呼吸症候群が発症する可能性があるとのこと。
そこでハインズ氏が睡眠サイクルや心拍数、いびきなどの分析を行うスマート睡眠パッドを導入して睡眠の測定を行ったところ、1時間あたりの平均AHIが43回、つまり1時間あたり平均43回も呼吸が止まっていることが明らかになり、睡眠時無呼吸症候群であることが判明しました。
また、睡眠の専門家による睡眠時無呼吸症候群の診断を受けたところ、ハインズ氏は重度の睡眠時無呼吸症候群であることが明らかになりました。ハインズ氏には睡眠時無呼吸症候群の治療法として、マスクを通して安定した空気を送りこみ、気道を開いて睡眠の質を向上させるCPAPの導入を推奨されました。
by A.Currell
CPAPは睡眠時のデータを記録し、専門家の元へ送信します。また、CPAPを患者にとって最適な状態に調整するために、専門家によるコンサルティングを受けることもできます。しかし、睡眠時無呼吸症候群について調査を行ったハインズ氏は「専門家が私に売ろうとしたCPAPのマシンは、ユーザーからのデータを『ロックアウト』していることが判明しました」「CPAPのマシンは自分で結果を見ることができず、毎回150ポンド(約2万5000円)を支払ってコンサルタントに分析してもらわなければなりません」と指摘しています。
一方で睡眠時無呼吸症候群に苦しむ患者のオンラインコミュニティが、CPAPマシンのデータを処理・レンダリングできるオープンソースのソフトウェアである「OSCAR」を開発していることを知ったハインズ氏は、自身でCPAPのマシンを購入してOSCARの導入を決意しました。このオンラインコミュニティでは、呼吸量や圧力、その他の指標を測定することで、質の良い睡眠を得るために必要な設定を行う手助けも行っていました。
ハインズ氏は「使用し始めて最初の夜はマスクが不快に感じられ、空気が漏れていました。また、一晩の使用では睡眠時の無呼吸を解消することはできませんでした」と述べています。
しかし、ハインズ氏が睡眠時のデータを分析したところ、ハインズ氏の睡眠時無呼吸症候群は一般的な「閉塞性睡眠時無呼吸症候群」ではなく、「中枢型睡眠時無呼吸(CSA)」であることが明らかになりました。CSAは脳の呼吸を制御する中枢に影響を及ぼす疾患で、CPAPだけでは治療が困難だとされています。以下のグラフはハインズ氏の呼吸パターンです。ハインズ氏によると、平均で毎分約20秒呼吸が停止していたとのこと。
CSAの治療には「ASV」と呼ばれる特殊な装置が必要で、ハインズ氏の住むイギリスでは個人での購入は困難でした。
そこでハインズ氏は中古のASV装置を購入することを検討しました。中古のASV装置に対してハインズ氏は「当初は危険を感じましたが、装置はクリーニングや改修が可能で、潜在的な問題はソフトウェアで検出できることを聞いて安心しました」と述べています。ハインズ氏は最終的に中古ながらメンテナンスの行き届いているというASV装置を購入しています。
ASV装置の使用を開始したハインズ氏は、これまで1時間あたり40回以上停止していた自身の呼吸が、1時間あたり約1回の正常範囲になったことを報告しています。ASV装置の使用によってハインズ氏の呼吸パターンは規則正しくなり、使用前は80%台後半まで低下していた酸素飽和度が90%半ばまで改善しました。使用を開始した当初は不快感を感じ、夜中にマスクを外すこともありましたが、使用に慣れたハインズ氏は体調が改善してきたことを報告しています。以下はハインズ氏の呼吸パターンを示したグラフです。グラフからハインズ氏の睡眠時の呼吸が安定していることが確認できます。
ハインズ氏は「自分の健康は自分で管理し、適切な診断と治療を受けることが重要です」と強調し、「睡眠時無呼吸症候群の診断を受けていない人々は、比較的簡単に治療ができる症状なので、早急な検査や治療を受けるべきです」と推奨しています。
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