サイエンス

マウスガードを装着することで睡眠時無呼吸症候群による高血圧を治療できる可能性


寝ている時に息の通り道である気道が閉塞(へいそく)することで呼吸が停止してしまう閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)は、日中の過度な眠気や頭痛につながったり、長期的には高血圧や心不全、心房細動といった危険な症状を引き起こしたりすることが指摘されています。シンガポール国立大学とシドニー大学の研究チームが、OSAによる高血圧の治療にマウスガードが効果的であるとの研究結果を発表しました。

Mandibular Advancement vs CPAP for Blood Pressure Reduction in Patients with Obstructive Sleep Apnea - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0735109724009069


Sleep apnea: Mouthguards less invasive, just as effective as CPAP
https://newatlas.com/medical/sleep-apnea-mouthguard-cpap-blood-pressure/

OSAは睡眠時の呼吸障害としては最も一般的なもので、1時間のうちおよそ30回も呼吸が止まることもあるそうです。OSAの治療には、フェイスマスクまたは鼻に装着したマスクを介して圧力をかけた空気を鼻から気道に送りこむ「持続陽圧呼吸療法(CPAP)」という手法が広く使われています。

by Larry & Teddy Page

しかし、CPAPには「患者が不快感を感じやすい」という傾向があり、CPAPによるOSAの治療は一長一短な面があります。

一方で、近年では「下顎前進装置(MAD)」と呼ばれる、下顎の骨と舌を前方に保持し、気道を開いたままにするマウスガードのような装置を装着する治療法が確立されています。


MADを使った治療はCPAPよりも侵襲性が低く、睡眠中の1時間当たりに呼吸が完全に停止する回数(無呼吸)または部分的に停止する回数(低呼吸)の治療効果についてはCPAPよりも優れていることがこれまでの研究で明らかになっています。

今回、シンガポール国立大学とシドニー大学の研究チームは、中等度から重度のOSA患者の高血圧の軽減におけるMADとCPAPの有効性に関する比較実験を実施しました。

研究チームは中等度から重度のOSAと診断された被験者220人を募集し、治療の手法としてMADまたはCPAPのいずれかを無作為に振り分けました。被験者のうち、44.5%が過体重、49.5%が肥満と診断されており、被験者の44.1%が10年以上高血圧を患っていました。


研究チームは治療を受ける被験者に対し、6カ月間の追跡調査を実施。被験者には常に血圧をモニタリングする装置が取り付けられたほか、定期的に眠気に関するアンケートへの回答や血液検査を受けることが義務付けられました。

6カ月間にわたる治療の結果、CPAPによる治療を受けた被験者では24時間の平均血圧に有意差が見られなかった一方で、MADでは平均血圧を有意に低下させることに成功。MAD群とCPAP群を比較すると、平均血圧の差に1.64mmHgの違いが生じたことが報告されています。


また、MAD群はCPAP群と比較して夜間の血圧の上がり幅が低く、血圧の最高値が120mmHg未満を記録した被験者が多かったことも報告されています。これらのデータから研究チームは「MADによる治療がCPAPに劣らない」と判断しました。

さらに研究チームは、被験者が自身に割り当てられた治療をどのくらいの期間続けたかを調査しました。その結果、CPAPに割り当てられた被験者のうち、6カ月後も毎晩平均6時間以上装着していたのはわずか23.2%だったのに対し、MADに割り当てられた被験者ではその割合が56.5%に達したことも明らかとなりました。研究チームのチー・ハン氏は「MADに割り当てられた被験者に高い治療効果が認められたのは、装置をCPAPよりも長く装着していたからです」と述べています。


ハン氏は「世界中では約4億人以上が中等度から重度のOSAを患っているとされています。しかし、患者の多くは診断が不十分で、これらが高血圧の一因となっている可能性があることを認識する必要があります。特に血圧のコントロールが難しい患者や、日中の強い眠気に悩まされる患者は、OSAについて医師の診察を受け、必要に応じて治療を受けてください」とアドバイスしています。

なお、研究チームによると、今回の研究に参加した被験者の多くが東アジア系の男性だったとのこと。そこで研究チームはMADによる治療が他の人種や性別にも適用できるか調査を進めるほか、今後はMADが認知に及ぼす影響についても研究を進めていくとのことです。

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in サイエンス, Posted by log1r_ut

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