サイエンス

精神状態の悪化や認知能力の低下に苦しんできた男性が「睡眠時無呼吸症候群」という原因を突き止めて回復するまでの体験談


睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠中に何度も呼吸の量が低下したり止まってしまったりする疾患であり、睡眠の質が悪化することによる日中の眠気や倦怠(けんたい)感が生じるほか、内臓への負担が増加することで重篤な合併症を引き起こす危険性もあります。写真共有サービスのPinterestに勤めるサムソン・フー氏が、長年にわたる心身の不調が睡眠時無呼吸症候群によるものだと突き止め、回復に至るまでの長い道のりについて記しています。

How Poor Sleep Drove Me Insane, and My Long Path to Recovery
https://writing.samsonhu.com/how-poor-sleep-drove-me-insane-and-my-long-path-to-recovery/

睡眠時無呼吸症候群はアメリカに住む成人の最大20%に影響しているといわれる一般的な疾患ですが、患者の約90%が未治療または診断を受けておらず、自分が睡眠時無呼吸症候群を患っていると自覚していない患者も多いとされています。実際、フー氏も長年にわたり自分が睡眠時無呼吸症候群だということを知らなかったそうです。

大学を卒業して順風満帆な人生を送っていたフー氏に変化が現れたのは25歳の時、カナダのトロントからアメリカのサンフランシスコに移住し、スタートアップでの勤務を始めてからのことでした。スタートアップでは30人未満のエンジニアが毎日のように重労働を続けており、フー氏も外出や飲酒、SNSなどを断って仕事にのめり込んでいきました。


スタートアップの文化を身につけたフー氏は、やがて感情がマヒして攻撃的な性格となってしまったとのこと。当時、この性格の変化はストレスによるものだと考えていたそうですが、今になって振り返るとこれらは睡眠時無呼吸症候群の初期兆候だった可能性があるとフー氏は述べています。

2年半ほど勤務して燃え尽き症候群になってしまったフー氏は、カナダ・ビクトリア州の郊外で数カ月ほど穏やかな生活を送りました。不安が解消されて再び働く活力がわいてきたフー氏は、まずはオンラインで仕事を請け負う短期間の仕事から始めましたが、その頃には以前よりも気が散ることが多くなり、仕事をこなすのに必要な時間が長くなったと感じるようになりました。その後はPiterestに入社したものの、自分自身や周囲の期待に応えられるパフォーマンスを発揮できず、会議中もぼーっとして未来のことを考えるのに苦労したそうです。

当時の状況についてフー氏は、「私の頭は持続的な『ブレインフォグ(脳の霧)』で曇っていました。不安は悪化し、自分自身が体の中にいないように感じるようになりました」「家での私はカリカリして、少し挑発されただけで激怒して叫んでいました」「この時期は私の人生の暗黒時代でした」と述べています。


ブレインフォグに悩まされつつもどうにか仕事をこなしていたフー氏でしたが、いつまでこの状況が続くのか不安になったため、医師の診察を受けることにしました。しかし、病院で受けた血液検査の結果は問題がなく、セラピストと精神的な問題について話しても怒りを緩和する方法を教えてくれるだけで、あくまで応急処置的な対処しかできなかったとのこと。

そんな中、山火事の季節に備えて家に空気清浄機を購入したところ緊張が緩んで深くリラックスできたそうで、「ひょっとしてアレルギーが原因なのではないか?」とフー氏は考えるようになりました。フー氏は数年前の検査でダニアレルギーの診断を受けていたことから、数カ月以内にカーペットを板張りの床に替えたり、寝具にアレルギー対策用のカバーを装着したり、抗ヒスタミン薬を飲んだりして環境改善に努めました。すると、不安や集中力の欠如といった症状はさらに改善し、ブレインフォグも耐えられる程度になったそうです。しかし、結局は時間の経過と共にブレインフォグは悪化し、物をなくしたり目の前のこと以外に集中できなくなったりすることが増えていきました。

やがてフー氏は、TikTokでADHDについて解説する動画を見た時に共感する部分が多かったことから、「自分はADHDなのではないか?」と考えるようになりました。ところが、治療計画について話した医師が「睡眠不足もADHDのような症状を引き起こすことがある」と口にしたことをきっかけに、自分の睡眠について目を向けるようになったとのこと。

フー氏は睡眠について調べる中で、睡眠時無呼吸症候群がMRIで観察できるほどの影響を脳に及ぼし、認知能力を低下させる可能性があることを知りました。また、睡眠時無呼吸症候群は必ずしも肥満の人だけがかかるものではなく、特徴的な症状とされる「いびき」がない患者もいることを知り、実際に睡眠時無呼吸症候群かどうかをテストしてみたそうです。

検査の結果、フー氏は1時間あたりの無呼吸および低呼吸の合計回数を示す無呼吸低呼吸指数(AHA)が「19」を記録し、睡眠中の血中酸素濃度もしきい値を下回っていることが判明。上気道が物理的に狭くなって無呼吸となる閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)の中でも、体位によって無呼吸状態が発生する体位性閉塞性睡眠時無呼吸症候群(POSA)であることが突き止められました。


自分が睡眠時無呼吸症候群だと理解したフー氏は、まず機械で圧力をかけた空気を気道に送り込む持続陽圧呼吸療法(CPAP)を数週間ほど試しましたが、どうしても不快だったのか就寝後1~2時間で外してしまったそうです。さらに調べたところ、フー氏は自分が睡眠時無呼吸症候群の中でも若くて鼻づまりのある患者がなりやすい上気道抵抗症候群(UARS)である可能性が高く、この患者は神経系の過剰活性からCPAPを拒否しやすいこともわかりました。

そこでフー氏は鼻づまりを改善するため、アレルギー症状を改善する抗ヒスタミン薬を服用し、鼻の左右を仕切っている鼻中隔の湾曲を修復する外科手術を行い、鼻腔(びくう)拡張用の器具を装着するようにしました。また、あお向けで寝ている時に無呼吸になりやすいことから、就寝時にはあお向けで寝られないようにするベルト状の器具を装着するといった対策も取ったそうです。

数カ月にわたる試行錯誤を経てたどり着いたこれらの対策の結果、フー氏の睡眠は劇的に改善され、ブレインフォグも奇跡のように消え失せて脳が正常に機能するようになったとのこと。フー氏は、「大きな変化の1つは記憶でした。睡眠時無呼吸症候群を患っている間、私はほとんど長期記憶ができませんでした。人間関係や相手が、部屋を出るとすぐにわからなくなってしまうのです。しかし、治療後は記憶が戻り、まるで人生の一瞬一瞬を追体験しているかのように記憶がよみがえってきます」と述べています。

なお、フー氏は子どもの頃から鼻づまりや解剖学的なリスク要因を持っており、自身の症状について生理学的な診断を行った睡眠専門家と話した結果、20代以前から睡眠時無呼吸症候群を患っていたとの結論に至りました。そのため、フー氏のこれまでの人生経験や性格の形成には、少なからず睡眠時無呼吸症候群が影響しているとみられます。しかし、潜在的な不安が学問や仕事のキャリアを広げる原動力となったこともあり、必ずしも睡眠時無呼吸症候群のすべてが自分に悪影響を及ぼしたとは思っていないそうです。

今回のエピソードから得られる教訓として、フー氏は「慢性疾患は長期にわたって進行するため、毎回別の医師に診察してもらうのは非効率」「慢性疾患には複数の交絡因子があるため、1つの原因だけですべてが解決しないことも多い」「慢性疾患の治療法を見つけるには長い時間と根気が必要だが、諦めるよりも試行錯誤した方が良い」といったことを挙げました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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